夜の向こうの光
どんな光が好きかと問われて、
ひたひたと静かに差してくる赤い光が好きだと答えた。
安堵のような、諦めのような気持ちを運んでくれる、
あのなんとも言えなく冷ややかな赤い光。
そのBBSには、毎夜のように顔も知らない誰かの寂しいような狂おしいような、
メランコリックな言葉が淡々と刻まれ続けていた。
不意に目頭が熱くなったり、胸が早鐘を打ったりしたのは、
気づかぬうちに誰かの言葉に自身を重ね合わせていたからだろうか。
「赤い光って、わたし、見たことあります。
明け方の東の空を昇ってくるあれですよね。
バンプのライブを観に行った夜、
明け方まで友達と話していて、明るくなって行く空を見ていたのを思い出しました」
そんな誰かの返信に心がふれあったような気がした。
言葉が体温をまとって実体として立ち上がる瞬間に震えた。
それが一時の錯覚であったとしてもいいと思っていた。
ただ感傷的になりたかった。
今となれば、そうなりたいがためにその場所に執着していたようにも思う。
時に誰かのあからさまな言葉に心が激しく波打つこともあったけれど、
そこの管理人である彼の素直で無垢な反応に、何度も救われた。
何よりも書き込みしてくれたことへの感謝の言葉。
それを彼は忘れないでいた。
人を批判することなく、すべてを受け入れていた。
詩を書いていた彼の影響でわたしも少し言葉をしたためるようになった。
文字にして表すことでいろいろな感情や思いが薄められていった。
思い出しては心の整理をして、また記憶の中に沈めていく。
そうすることで、物事はまた違った側面を見せてくれた。
そんな果てしない作業に没頭していた。
けれど時が過ぎ、いつしかわたしの中の小さな祭りは終わった。
繋がっていたはずの彼との絆の思い出も、色を失くしてするするとほどけていった。
さよならと引き換えのように、何故か心が丈夫になっていった。
新しい世界を見てみようと思い始めていた。
そんな時期だった。
ある日突然、plastic掲示板はその役割を終えて、
管理人不在のまま放置された数多あったBBSはネット上から消えた。
わたしはと言えば日々が忙しく彩られるようになって、すでに明け方の赤い光に心が揺れることもなくなっていた。
今は、また朝が来たと活動を始める合図として、眩しく見ている。