血を吐くほどの涙なんて流したこともないわたしは、本当の意味では誰からも守られないのだと思う。

あの頃、彼女が泣き過ぎて血を吐いたと知って、その苦痛を取り去るためなら神様に土下座してでもお願いしたいと、あの人は苦しい胸の内を書いて寄こしたけれど。知らない誰かへの祈りの言葉をわたしに投げかけられても困ると思った。意図もよくわからないし、その真意なんてもっとわからない。ただ言葉にして感情を噴出させたかっただけなのかもしれない。

わたしが彼の言う神様と知り合いならわからなくもないけれど、そんなはずもなく、ただその激しい感情の表現に嫉妬を感じることしかできなかった。そんな強い感情を誰かに持たれたという意識のないわたしは、うらやましいとは思えても気持ちを受け止めるほどの度量はなく、それについては黙殺した。

ある時、どうしてもその話題に触れなければ次の話に進めないという段階になって、やっとの思いで、悲しいことがあったんだねと言った。続けて、そんな強い感情を抱ける人に出会えたことは幸せだよ、そういう気持ちを一切知らずに生きていく人だっているんだからと。

伝えながら虚しくて、言葉は上滑りしてまとまらなかった。わたしはきっとそんなには強くない。気持ちを取り繕うほど、無邪気でも女優でもないわたしは、それからしばらくの間、一人で苦しみ続けた。

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