ともだちの彼氏が世界一嫌い
友人の恋人という存在が世界で1番嫌いだ。2番目に嫌いなのは下世話な話題を食い物にする人たち。
私には学生時代からの友人が居た。途中から気軽に会えない距離に離れたが、それでも毎日連絡を取って、毎晩寝落ちまで通話したり、年3.4くらいは会ってテーマパークに行くような仲だった。
私たちは元々言葉にするのが苦手だった。お互いの弱いところを肯定できても、嫌なところは指摘できなかった。私たちの青春は傷の舐め合いで、足の引っ張り合いだった。曲に準えると沈澱した思い出だった。結局お互いにより良い方向に成長することが出来なかった。良くないところを肯定しあって、良くないよと言えなかった。
最後まで、大切なことを言葉に出来なかった。
大切で、大好きな友人だった。私は恋愛に興味がなく、友人は恋人が欲しかった。近くにいて、自分を全肯定してくれる人が欲しいと言っていた。私ではダメなのかと思ったが、それも言葉に出来なかった。友人にとって私は沢山いる中の1人で、私には他の友人もいるがその友人が特別で唯一の存在だった。
私は心底重く面倒臭い人間で、友人と同じになりたくて恋愛をしようとした。結局自分は恋愛に興味がないままで、友人はマッチングアプリで出会った人と恋人になった。
友人は私に嫌気がさしたんだと思う。元々私に不満がある部分があったのは分かっていたが、隠すだけで改善しきれなかった。指摘しない/されない関係にあぐらをかいていたツケが回ってきた。お互いに抱いていたはずの信頼が、いつの間にか一方通行になっていたことに気づかないまま、私は友人に変わらない信頼を抱いていた。
私は友人に恋愛感情を抱いていた訳では無い。ただ、友人のことが1番だいすきで、理解できるのは自分だと思いこんでいた。私のことを私よりも理解しているのも友人だと思いこんでいた。確かにそんな時期はあったのに、友人の1番は恋人になっていった。
友人に恋人が出来てから、明らかに友人は変わった。私よりもSNSや掲示板が大好きだったのに、インターネットに執着しなくなった。私との共通の趣味に興味を失った。自分との連絡頻度は途端に少なくなった。友人は本当に変わって、私から距離を取っていた。今思い返せばそうだった。
遠くの親戚より近くの他人という言葉通り、友人は私との距離を恋人が出来てからより実感したんだと思う。距離があるから、連絡をしないというだけで簡単に私たちの仲には何も無くなった。こちらから会いたいと言ったら会ってくれたが、友人から会いたいと言われることは無かった。
私にとって、友人の恋人は会ったこともない他人だ。とても長い間友人を信頼していた私より、ぽっと出のその人が、私より深い仲になるなんて全く思っていなかった。私の未来には友人がいて、友人の未来にも私がいると思いこんでいた。
「1年続いたら同棲すると思うし」恋人が出来た後の友人に会った時、そう言われた。友人は私と一緒にいる間も恋人と連絡を取り続けて、長い時間通話もしていた。私の体感では付き合ってからまだそんなに経っていなかったのに、ここまで恋人を優先する人間だったんだと驚きと衝撃を感じたのを覚えている。私は恋愛に興味がないから、より理解できなかった。友人は恋人が大好きで、私を優先して欲しいなんて言えなかった。
それは私が病気になり長期休職しているタイミングでもあった。私は起きていられる時間が少なく、友人は仕事が忙しく、生活リズムが合わなくなった。友人との間で私の病気について話すことは少なかった。毎日の連絡も、通話も出来なくなったのか、しなくなったのか今となっては分からない。病気でメンタルが落ち込んでいた私は友人の忙しさを気遣うことも、友人にとって良い方向のコミュニケーションを取ろうと努力することも出来なかった。それらをしなくとも、仲は変わらないと信じていたが、友人からの連絡は無くなっていった。最後の連絡は何度も悪夢に見る。
そのまま私たちの関係は壊れた。言葉にしなさすぎたし、全てのタイミングが合わなかった。
私たちの関係は明確に終わってしまった。もう戻ることは決してない。戻りたいかと言われれば、数ヶ月前までは戻りたかった。心の底から謝って、言えなかったことを伝えて、仲直りする夢を何度も見た。起きた時、後悔する毎日を送っていた。恐らく、一般的な失恋と変わらない絶望を感じていた。恋ではなかったはずなのに、きっと失恋よりも深い絶望だった。
いつか忘れるとしても、過去は変わらない。
お互いに足を引っ張った青春で私たちは繋がっているし、嫌な思い出だとしても私は友人の中に残っている。私の中にも、友人が残っている。
友人が今もあの恋人と続いていて添い遂げるとしても、別れて新しい恋人を作っているとしても関係なく、私たちはお揃いの青春で繋がっている。友人と居た時の私は確かにかわいかったし、友人もとてもかわいかった。本当に大好きだった。楽しかった。
曲と違うことは、私の後悔と絶望は時間が解決してくれた。
どれだけ後悔しても、私は過去に囚われ続けて生きることは出来ない人間だった。だから今、文字にすることが出来ている。数ヶ月前までは感情がこんがらがって、後悔と絶望に囚われて一生整理することなんて出来ないと思っていた。
仲が壊れてから、友人を忘れようと努力し続けた。写真もゲームのフレンドもSNSのアカウントも友人との形に残っていた思い出は全部消した。でも、結局忘れることは出来ないんだと思う。これからも友人からの最後の連絡を悪夢に見るし、思い出す度後悔するんだろう。ただ、思い出す回数と、感情を動かされる振り幅は減っていっている。
私の人生は続くし、友人の人生もきっと続いている。
失恋でよく言われるように不幸になって欲しいのかと考えたが、私の知らないところで幸せになって欲しいと思う。私のことを忘れて、幸せになって欲しい。私は結局友人のことが大好きで、今も変わらず好きなんだと思う。
友人の恋人は、それまであった亀裂を決定的に割ったきっかけの存在でしかない。他責思考は良くないのはわかっている。それでも、私の知らないところで不幸になって欲しい。あの人が友人の幸せとしても、人を恨まば穴二つだとしても。
友人の人生が、輝いていますように。
私はあなたが居なくなってもかわいいままだったよ。