お誕生日おめでとう
もう何日も外に出ていないことに、気がついた。案外世界は僕がいなくてもやっていくから、なんだか寂しくなったりする。
頭を上げるだけで、壁が一回り。廊下は蛇みたいにゆらゆらと揺れた。5月20日の午前2時。
水を飲みに行ったキッチンに、マグカップを抱えながら腰を下ろした。窓の外の月を見上げて、網戸から風が吹いて、今すぐにでもこんな場所飛び出して、知らない世界を見ることをまた夢見て、泣いたりして。今日僕は17歳になった。
一番最悪なのは、昼間の退屈。まだ梅雨も来てないのに、ギラギラと照りつける太陽が庭の芝を焼いて、窓枠に切り取られたそれはまるで、夏の思い出。こんな日のために、今日まで意味のわからないルール守って生きてきたのか。こんな気持ちが生まれない世界線、どっかに無かったんだろうか。中学の時の、先生との話思い出して、モヤモヤした。ソファーの上、5月20日の午前11時ごろ。
顔も見たこともない人から、お祝いのメッセージが来て、ちょっと意味がわからなくて、なんだかおかしかった。僕の世界に君はいないのに。君の世界には僕がいるのか。君の世界で動いてる僕はうまくやっているだろうか?ここでまた窓の話だ。僕の部屋の2つの大きな窓は、西側と北側についている。この時間になるとそこからやりすぎなぐらいの、そうだな。どオレンジ?どオレンジ。強烈な、はっきりとした、なんだか誰もが見入ってしまうようなオレンジ色の光が入ってくる。光は壁に当たって、ギラギラと燃え、僕はそこに寄りかかって体いっぱいに世界を感じる。心地良い。気分が良い。5月20日の午後何時だっけな。日が長くなった初夏の夕方。
にしても暑すぎるんじゃないか。ここまでくるともう笑ってしまう。惨めすぎる日々の生活と、変わりきってしまった僕の顔。浮腫んで、肌が荒れた。髪は油でベタついているだろうし、多分臭い。去年の今頃は部活に慣れ始めた頃で、それはそれはキラキラとしていた。絵に描いたような健康的な男子高校生。希望が詰まった穢れなき未成年。下ろしたてのスニーカーみたいだった僕。まぁ何を考えていたか僕にもわからないけど、今のは客観的に見た僕。いつの間にか客観的に、誰かの目線からでしか自分を見れなくなった僕。うつ病だったとわかった5月16日の午後6時。池袋の病院にて。
夢の中で、夢だと気づく方法の中に、自分の指を数える方法があるらしい。右手に指が1本、2本、3本、4本、5本、6本、あぁこれは夢か。やっぱりそうだったのか、これは夢だ。今見ているものは全部僕が作り出した想像だ。現実じゃない。波のように安心感が押し寄せてきて体を包む。よかったよかった。全部本当じゃないのだ。よかったよかった。ゆっくりとベットの上で息を吸う。涙が出る。ここはひどい世界だった。ずっと苦しかったんだ。よかったよかった。これでほんとうの自分になれる。あぁ今日まで生きててよかった。5月21日の午前1時。