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ベッキーの国盗り

20230517

水曜日



朝。

 印刷の滲みでお客さんから不具合報告があったようで、営業のペロリが検査員のムード(パート)に直接説明をしていた。

ムード「ほんとだ。これは大きい。なんでこんなの入ってるんだろう。これは矢印?これはどこだろう……」

ペロリ「これは特採で許してくれるだろうけど、こっちは製品に貼られる所だから、向こうがどうするかまだ分からないけど、全部取替かもしれないし、だから全部見て貰って、で、対策書を出さなきゃいけないんで」

その横にいたOは耳を塞ぐ。
パートへのこういう説明はOやNの業務窓口の社員が行っているが、別に営業がしちゃいけないわけではない。
今回はちょっっっと深刻なんだろう。
ムードは大らかな性格が仕事にも出ていて、ちょっっっと見逃しが多い傾向。

ペロリに進行を任せていると、どこでどうやって滲みが発生したかのへんてこな推理を始めた。

ムード「検査の見落とし」

当人からバッサリとへんてこな推理を切られるペロリ。
結局問題なのは流出したということ。
印刷不良は社内だけど、それを良品として流出したから社外不良になっている。
なぜ流出したのか。この対策が難しいから。


O「J社チームでもあったの。文字がちょこっと欠けたり。流出はしてないけど」

ムード「良く見つけるね!J社チームは。あたし見えない」

O「拡大鏡使ってね」

ムード「いちいち使ってられないよー」

完璧な対策を約束したにも関わらず……となる可能性も0ではないので、逃げ道も作らなくては。






午前中。

O「ラミネートどうすればいいの?」

N「……うーん、昨日なんで会議室篭もってたのか聞かされてないし」


 この間のミーティングで、ベッキー達もラミネート覚えようね!そうしたら上司のN達の負担が減って他の事ができるようになるから!まずはベッキーが完璧に覚えて、他の人に教えるという形を取ろう!という話し合いをした。

しかし昨夜、ベッキーが不満をぶちまけ、また何か変えなきゃいけないみたいな事をボスがぼやいていた。
その事があって、N達はベッキーにラミネートを頼んで良いのかという二の足を踏んでいる。

聞いてないなら通常通りやればいいじゃん。

昨夜なんの話をしたのかは分からない訳だし、(Nの批判ではあるだろうけど)
ベッキー!ラミネートやろうぜ!って普通に声をかければいいぢゃん。

まさかまさか、また決めたことをあやふやにして同じ内容の話し合いをするんかい?
わたしの時間までもを使って?(関係ないので関係ない所でやって欲しい)

わたし「何回も(会議で)話してる意味!」

悩む2人にツッコんだ。

N達はこのままボスが来るのを待って判断してもらうつもりらしい。 


 そんなことも判断できないのかよ、と思うかもしれないけど、N達の上司(管理職)のボスは昭和のパワハラ民族の生き残り。
平成まではそりゃあ圧がすごくてすごくてだったけど、令和あたりから軟化し始めた。
普段は頭も良くて判断力も決断力もコミュ力も備えているので、パワハラ民族にしては全然マシな方。

しかし元から受け身で、ボスとは正反対の性質を持つN達は、ボスがいると思うと縮こまってしまうと同時に頼ってしまうので、こうなるべくしてなっているといった感じ。……だとわたしは思っている。






11時頃。

N「ラミネート入るよ。ベッキーさん誘ってやる」

NはOに宣言していた。

この自信はボスに聞いて「(ベッキーさんをラミネートに誘っていいかだって?)良いんじゃない?」(2秒の答え)と言われた後なんだろう。






午後。

 天気娘(ウェザーガール)の部署の手伝いに来たよ〜。

天気娘「昨日の会議長かったね」

この振りは内容聞かせろのやつ。
ザックリあらすじを話し、中でも天気娘に関係ありそうな件を広げた。

わたし「ベッキーさんがシール部門に異動したいって言ってますよ」

 シール部門は天気娘がいるすぐ隣の部署。この階に女性の管理者はいなくて、天気娘が女性の面倒を任されている。

もしベッキーが異動することになった場合、人間関係の面で問題がある。
今現在シール部門で働いているパートの令嬢とベッキー達は仲が悪いのだ。

令嬢は相手にしないようにしてくれているが、ベッキー達は令嬢をバイ菌扱いするのだ。
「令嬢がヤレバ・デキルジャンさんの椅子に座って作業してたよ」「えー!最悪ー!」って感じのやつ。
令嬢のお友達も無視などの、そういう待遇に供に遭い、先に辞めてしまった。

 パワハラ民族のボス(管理職)の思い出話を聞いていると、楽しい思い出として加害者視点での話をしてくれる事から、ボスには弱気者の心は分からない。
だから自分に利のある直属の部下(ヤレバ、ポニテが該当)に肩入れをするばかりだった。(加勢してた訳じゃなく、部下達が悪くならないよう都合良く解釈してた)

 何も解決しないままコロナ禍に入り、休憩が2部制になったおかげで物理的にベッキー達と令嬢は離れた。

そしてベッキーが令嬢のいるシール部門への異動を申請しているので、ボスの考えではベッキーをシール部門に異動させたら、令嬢を天気娘のプレス部門にスライドさせようとしている。


天気娘「(ベッキーを)プレスで鍛えてやるよ!」

ベッキーはプレスには来ねえ。

わたし「ベッキーさん、また何の調査もなく思いつきで飛びついて、後から『こんなの聞いてない』ってなるオチですよ。
聞いてくれてればネガティブな事も教えてあげたのに」

天気娘「そうだよね!」

わたし「どこ行っても大変な事はありますよ」



 わたしはここで、令嬢をイジメているのがバレたと自覚した時のベッキーの話をした。
異動したいというベッキーを欲しがる声が、現場(プレス、シール部門などの総称)からも出て欲しいという意図から。

わたし「イジメてるのが周囲にバレ始めたなって気が付いたみたいで、わたしと2人っきりの時に、
『私はイジメに参加していない。むしろ令嬢さんと距離を縮めようとしている。でも令嬢さんが縮めてくれない。どうしてなのか理由を何か聞いてないですか?』って突然ベッキーさんが相談してきたんですよ。
そんな雑談するような仲でもないのに」

 ベッキーの能力は素晴らしい、きっと役に立つという方向でプレゼンをすると、嫉妬だかなんだかであんまり興味を持たれない気がしたので、怒りに訴えかけてみる。
大丈夫、ベッキーは上手く立ち回るからすぐに認められるし、天気娘も単純だから。サバサバしてる。

わたし「もちろん我々は令嬢さんとたまにご飯食べてたから事情も、令嬢さんが『あんな子ども(ベッキー達)放っとけ』って言ってるのも知ってるじゃないですか。

ベッキーさん何考えてるんだろう?イジメ仲間を捨てて自分だけ良い人ぶろうとしてるよね?ってその相談を聞いた時ゾッとして、
『チャンスがあったら聞いてみますねー』って、その時は信じたふりして逃げましたけど。

 今回も同じ事ですよ。ヤレバさんとポニテさん(イジメ仲間)誘って準社員になってくれたは良いけど、
仕事の幅広げてって言われたら2人置いて自分だけそんなしがらみのない安全地帯に逃げようとしている。

いや、逃げていい!逃げていいんです!行ったらもう戻って来ないで欲しい」

天気娘「はっはっはっ(笑) 現場降ろすといいよ!プレスでこき使うから!」

わたし「シール希望してるんですよ?」

天気娘「プレスでこき使う!」

じゃあもし話が来たらウェルカムしてくれよ。




 あー、そうだ。思い出した。
当時、休憩の席はなんとなくみんな固定の席があって、わたしの背中側でベッキー達がイジメをしていた。
わたしはイジメの様子を堂々と見ようと思って後ろを振り向いたんだ。たしか。

自分の親がいい歳してイジメしてたら恥ずかし過ぎて泣くぞ。って話を天気娘達としてたと思う。

 言葉でコミュニケーションを取ろうとするとベッキーに言いくるめられるだけだから、
それよりもただ一方的に目撃される方が言い訳できなくてあからさまな行為は止めるんじゃないかなと思い、「今イジメてますかー?」って感じで振り向いた。

だからわざわざわたしに話しかけてきたんだろうベッキーは。

 こんなアピールができるのは仕事上、わたししか出来ない事があり、重宝されている自覚があるからであって、そうじゃなきゃやらない。

これもやってる事はパワハラ。
非は無いけど立場を利用するのはパワハラです。
一歩間違えたらアウト。






19時前。

 ボスがNに声をかけ、「昨日ベッキーさんに言われた事をお伝えします」と、会議室に連れて行かれた。


残ったOと「怖〜」と話をしていた。

わたし「ベッキーさん、シール部門に行きたいって言い出したからもう今の部署は関係ないやーって、ならんのかなー?

 この時点でも執着してるのって、まるで、ここまで話引っ張ってるのは自分達が駄々を捏ねてるからじゃなくて、不甲斐ない上司(N)が悪いからって暗に思わせたいだけに見えちゃう」

O「本当はシール行きたくないんだよ」

わたし「それ!」

O「シール部門に行きたくないけど、そうならざる終えなくなってるのはNさんのせいって言いたいんでしょ。自分達が悪いとは思ってないよ」

 このまま仕事の幅を広げろと言われるくらいならシール部門に行く方がマシだけど、
言わなくなれば私はこのままここにいたい。
言わなくするにはどうすればいいか、そう、上司が理想的で完璧な上司に変わればいいだけの話。


 わたしだってNと衝突した事はある。わりと最近。
しかし1週間以内には何を言ってもNは変わらないと結論に至って、理不尽だったけどわたしの方が折れた。

ベッキー達は半年くらいずっと戦っている。
折れた方が格好良いという事ではなく、石に対してどうのこうの説教したところで何の意味もないという話。
しかも言ってるベッキー達も石みたいなもんで、
上司はこの通り目が1セットしかないから、ベッキー達は3人で目が3セットあるわけだから、見えてることをNに教えてフォローをしてあげたら?と勧めると、それはやりたくないと言う。
もう、えー?である。



わたし「ベッキーさん、パートからの不満を代理で訴えてるじゃないですか。
パートさんが求めてるのは自分を見て!って事ですよね。
承認欲求というか、仕事して当たり前と思わないで!みたいな。お金もらってんだから当たり前なんだけど、何か言う事はないの!?みたいな」

O「そう!自分の仕事もあるのに1人1人そんな見れないよ!」

 パートは愛を欲してて、ベッキーは理想的な環境を求めている。
とまぁ、これでも良いように言ったけど、要は思い通りに動かしたいっていう支配欲が前面に出ている状態に見えるし聞こえる。

 ベッキーは、誰かの不満が聞こえたらそれを解消してあげたくなる性分でもあるんだろう。
しかし半年も頑張るのは執着がすごい。
責任を負うことはやりたくないけど国盗りは目指す。国を手に入れたら責任は負いたくないから傀儡を上に据えて裏から国を動かしたい。
執着心の強いベッキーの行動は、わたしにはそう見えてしまう。
そこまで酷かないだろうけどさ。

何も背負う気がないなら国盗りは諦めて、その能力を上司のフォローの方に回してくれたら素晴らしいサポート役となるだろうに、
どうしても相手を正す方、攻撃にその能力を使っちゃうから全員が疲れる事態に。


 無くて七癖有って四十八癖って言葉があってだね、
人には多かれ少なかれ癖があるって昔からそう言われて来ている。

本当に人の癖を許したくないなら答えは1つだ。
洗脳を習得しろ。



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