「自殺はよくない」と簡単に言う人間の浅はかさ

三浦春馬くんが「あっち側」へ旅立ってしまった。

好きな俳優さんだっただけに、悲しい、というより、

「痛い」、

と言う言葉が一番私にはしっくりくる。

こういう時に、

「生きたくても生きられない人がいるのに自殺なんて間違ってる」

だとか、

「勿体ない」

だとかいう人間のことがひどく浅はかで嫌いである。

三浦春馬くんとは立場も職業も違えば接点もないので、

彼が何に悩み苦しんでいたのかはわからない。

残された事実は彼が自分自身の手で、

自分の生命を絶つ選択をした、

ということだけだ。

けれど、

「三浦春馬くんは自ら命を絶つ選択をするほどに苦しんでいた」

ということも、

残された事実からわかる事実の一つである。

「自殺はいけないことだ」

というセリフは、正論のようでいてひどく暴論だと思っている。

自殺はよくないなんて、

そんなことはわかりきっている。

それでも正論ぶって「自殺をするな」という人は、

「死にたいほど苦しみ自ら死を選択する人」

に対し、

「死にたいほど苦しい思いをしながら一生周りのために生き続けろ」

と言っているのを同義だと、

全く理解していないと思うからだ。

人が一生涯死ぬほど苦しみ続ける責任も負えやしないくせに、

あたかもそれが正義かのように軽々しく口にしてほしくない。

「自殺してはいけない」

と言ってもいいのは、

死にたいほどつらい人のつらさを取り除いてあげられるか、

解決してあげられる人しか言ってはいけない言葉だと思っている。

死にたいほどに苦しみ、死に救いを見出している人に対して、

「死ぬのはダメだ」

と言い放つのは、

本人のつらさにさらに追い討ちをかけることにしかならない。

死にたいほどつらい人に対して他人ができるのは、

つらい原因を解決できるよう手伝うか、

「あなたはつらいかもしれないけど私は私のエゴであなたに生きていて欲しい」

と伝えることくらいしかないのだ。

悩み苦しんだ結果、

「自ら生き続けることをやめる」、

という選択をした人に対して、

その選択を怒ったり、

否定したりするのは、

死者に対する冒涜であるとさえ思う。

彼のことを本当に大切に思うならば、

彼の最後の選択を悲しみ悔やんだとしても、

尊重し、否定してはいけないと思う。

彼の人生も命も、

彼自身のものでしかないからだ。

私は悲しい、辛い、

と思いはすれど、

彼の選択を否定しようなどという気は微塵も起こらない。

私も一度、

「あっち側」

へ行こうとしたことがある。

結果失敗に終わったので今こうして生きているわけだが、

人によって、

「あっち側」と「こっち側」の境目は曖昧で、

ずっとその境目を歩いているような人間がいる。

彼がそうだったのかはわからないが、

少なくとも私自身はそうだ。

ずっと、

「あっち側」と「こっち側」

の境目を歩いて生きている。

こういう人間にとって「あっち側」への憧れは強く、

そして「あっち側」への境界線は酷く脆く弱く、

あっさり何かのきっかけで「あっち側」へ行ってしまうものだと思っている。

そうじゃない人間にはわからないのだ。

自分が少しでも

「あっち側」

への境界線を意識したこともないような人間には、

分かりようもないのだ。

その苦しみも、

つらさも。

そしてそんな人間が言うのだろう。

死ぬほどつらく苦しみ抜いている人間に対し

「自殺はよくない」

などと。

自殺はよくない、

なんて簡単に言ってしまう人は、

自殺する人間が本当に自殺がよいことだと思ってしているとでも思っているのだろうか。

そんなこと、あるわけがないだろうに。

死者を馬鹿にしているのかよ、

とさえ思う。

よくないことだとわかっていてなお、

それでも自らこの人生を今終わらせるのだ、

という重大な選択を、

彼はしたのだ。

彼の人生最期の選択を否定することは、誰にも許されることではないと思う。

たとえ親族であっても。

私は彼が

「あっち側」

へ行ってしまった事実より、

「自らあっち側へ行ってしまった」

ということが悲しくて受け入れられない。

それほどに悩み苦しみながらも、

ファンのため、周りのためか、

微塵もそんな姿を見せず、最期の日の前日まで

「三浦春馬」

で居続けたつらさを想像すると、苦しくてたまらない。

彼の全てを知っている訳ではないけれど、

とても真面目で役者、俳優としての意識も高く、

イケメン俳優、なんて軽い言葉で括れるほど彼の仕事に対する思いは軽いものではなかったと思う。

せめて自死に見せかけた他殺であってほしい、

と願ってしまうほど、

彼がそれほど悩み苦しみ抜き、

自らの手で生き続けることをやめた、

ということが苦しくてたまらない。

そんな仕事人間でプロ意識の塊のように見えた彼の、

苦しみ抜いた上での決断であろう最期の選択を、

どうかこれ以上簡単に否定されないことを願っている。

そして、周りに「あっち側」へ行こうとしている人間がいたら、

エゴでも「生きていて欲しい」と伝えたり、

本人の苦しみを解決出来ないか、

全力で協力したいと思う。

三浦春馬くんは亡くなった。

もういない。

それはもうわかった。

事実として受け入れた。

それでもまだやっぱり、彼が

「自らの手でこれからの人生を続けることを放棄した」

ことが受け入れられなくて、

つらくて、

痛くて、

『ご冥福をお祈りします』、

なんて言葉じゃ足りないくらいのものが胸にある。

三浦春馬くん、

「そっち側」に行けて少しは楽になりましたか。

そうあって欲しい、

と願うことくらいしか、きっと我々には出来ない。