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空想ブーランジュリー 4.
※こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。
部屋には既にいくつもの製作した小道具があり、イベント本番のイメージもできあがっていた。そしてこの頃には、ぼくにとってそこに絶対になければならないものが “汚れた手” と “男の死体 “ になっていた。
イベントの際、これらが並んでいるのといないのとでは、きっと楽しさや印象がまったく違う。
ここは東京だし何でもあるだろう程度に思っていたぼくは、マネキンの手さえ見つかれば・・・という思惑があった。
ところがネットでいくら調べても出てくるマネキンの手は女性の手ばかりで、とても中年男の手に見えない。
それならば・・・と思い、新宿の世界堂さんへ向かった。
こちらにはデッサンに使用される石膏の手が売られていたはず、という記憶があったためだった。しかしそこにあったものは、何かものを握りしめている手ばかり。
落胆し帰ろうとしたそのとき、目に止まったのは粘土だった。もしかしたら作った方が早いかも、と考えたぼくは粘土とヘラ、それから絵の具を買って帰った。
帰宅後、すぐに自分の左手を見ながらつくってみたら何とか形になった。
製作時間1時間半。これに色をつけ、紙を燃やして煤をつけた。
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死体の方は、こちらもマネキンを探すつもりでいたけれど調べても出てくるのは上半身ばかりで何よりもマネキンは高価だった。
こちらは粘土で作るというわけにもいかず、本当に困り果てていたときに友人が言ってくれた一言。
「梱包材で作れるんじゃない?」
ぼくはすぐに東急ハンズさんへ梱包材を買いに行き、作ってみたら思いのほか上手くできた。
箱を胴体にして梱包材で肉づけしていき頭や腕、脚も梱包材でつくる。関節は紐で縛れば、それっぽくなる。手の部分はゴム手袋を裏返して絵の具を塗り乾かした。シャツとパンツ、靴を履かせて頭にはカツラをかぶせる。
おもちゃのカツラだからボサボサの髪を映画の死体と同じ髪型にセットする。
血糊を絵の具で描いてハサミを刺せば、「男の死体」のできあがり。
文字で書くと数行だけれど、完成したときには設営当日(イベント前日)の明け方になっていた。
ぼくは上半身と下半身に分かれた死体を大きな袋に入れ、店へと運んだ。
新宿通りの交番前を通り、お巡りさんに怪訝そうな顔をされながらどうにか会場に搬入し、深夜と翌日の朝を使いパンラボさんチームと設営を行った。
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![](https://assets.st-note.com/img/1682348922654-1BlYHj030R.jpg?width=1200)
余談になるけれど、このイベントから2年後の2014年、京都みなみ会館さんで『ジャック・タチ映画祭』が行われ、関連企画として恵文社一乗寺店さんでのプレイベントが開催された。
当時店長をされていた堀部さんからのご依頼を受け、会場ではベニエの販売をしていただくとともに “汚れた手” も展示していただけることになった。
まさかもう一度、あの “汚れた手” が日の目を見るとは・・・嬉しかった。
こうして約3か月間もかけて小道具を探しまわり、ないものは製作までするという取り憑かれたような準備は終了した。
あのようなイベントは、おそらくもうやることはないと思う。
いま思えば、あのときのぼくの熱の入れようは我ながら気狂いピエロならぬ “気狂い西山” だったと思う。
つづく