役員報酬をどう捉えるか
ぼくは長年、食べもの屋さんに携わり経営もしてきた。だから今回の話も念頭に置いているのは食べもの屋さんになる(それしか知らないから)。
とはいっても、他の業種と多少の違いはあれど ”経営括り” の話なので、よほど規模に差でもなければ基本的なルールは同じだと思う。
お店など事業を始め、軌道に乗り、ちゃんと経営を続けていればそれなりの利益が出るようになる。そこで法人化している人であれば、大抵は役員報酬を使って節税をされることになる。
通常、役員報酬はサラリー(お給料)の感覚からすれば、おそらく大きな額に感じると思う。また役員報酬を得ることができるのは、オーナー・シェフといった経営者、代表に限ったものでなく、夫婦で働いていれば奥さまも役員として報酬を得ているだろうし、場合によっては他にも身内が役員となっているケースもある。こういった人たちに業務実態があれば違法じゃないし、利益を圧縮することがさらに容易になる。
創業経営者の中には高額な役員報酬を「リスクを取って事業を起こしたのだから相応の報酬だ」と考える人もおられるし、食べもの屋さんで修業という建前のもと、低賃金で働いてきた経験のある人なら「やっと自分もこんなに稼げるようになった」という人もおられる。
こういった人たちは、「役員報酬 = 自分の給料」と捉えられている。
しかし
役員報酬を高く設定してあるのが ”節税のため” であるなら、その報酬の多くは本来、会社にある利益を合法的に個人所得へ移し換えたものとも取れる。
ぼく自身、会社が軌道に乗り、それなりの規模になると節税のために役員報酬を高めに設定してもらっていたけれど、それでも健全経営のためにできる限り赤字決算にならないよう黒字決算で法人税を納めていた。
また、「役員報酬 = 自分の給料」というのはあくまでも会計上の錯覚で、実態としては「役員報酬 = 会社の資産(お金)+ 自分の給料」だと意識して捉えるようにしていた。
わかりやすいように税金や社会保険料などを省き例えると、仮に役員報酬を月90万円に設定したとする。ぼくは「やったー、給料が90万になった〜」でなく、個人の給料はそのうち30万円で、残り60万円は ”会社のお金” だと思っていた。
つまり役員報酬の1/3が給料で、個人的な支出はもちろんここからのみ。残り2/3は ”会社のお金” で、こうして積み上がったものが、ぼくがいうところの内部留保だと考えた。
設備などの購入や新規出店の際、会社にある現金が足りない場合に、この内部留保から支出するようにしていた。だからぼくのやっていた会社は3軒目以降、金融機関から融資を受けることがほぼなく、中盤以降はほぼ無借金経営だった。
節税のため意図的にお金が会社に残らないようにしておきながら「役員報酬 = 自分の給料」と思っていれば、「賃上げ = 自分の給料が減る」と考えてしまうだろうし、そりゃ脊髄反射で「無理だ」「そんなに払えない」という言葉も出ると思う。
世の中の空気が今のように ”賃上げ確実” といった中、もしぼくが現在も経営をしていたとすれば、大前提として工程の見直しや効率化を図るだろうし、価格転嫁もすると思う。
それに加え、役員報酬に姿を変えた ”本来は会社のお金” があれば、賃上げに適応することは可能な気がするんだな。
今後、急速に進む労働人口の減少は、蓋然性がうんぬんといった仮説でなく確定事項なんだから、そうなると市場原理できっと賃金は上がることになる。
希望的観測を抱いたところで、事業主に選択肢はいくつもないと思っている。
つづく
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