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Nouvelle Vague

パン屋さん時代に考えたこと、やってみたこと、使ったもの 9.

「ここに、うちを入れたらアカンやろ・・・」

そこには、掲載予定のお店とシェフの名前がリストになっていた。
ペルティエ時代の志賀シェフ、ジェラール・ミュロ時代の山﨑シェフ、デュヌラルテ初代シェフの井出さん、ブノワトンのオーナーシェフだった高橋さん、Cパンセ時代の宮本さん・・・ぼくを除けば、錚々たる顔ぶれが並ぶ1枚目の企画書を見ただけで嫌な予感がする。

国産小麦を使用される方にフランス産小麦を使用される方、この時代から自家製粉をされる方まで。おまけにぼくには思いつきもしない製法を駆使する人たちばかり(案の定、山﨑シェフなんてフランスのカンレミなんてマニアックな小麦粉を紹介されていた)。

これは、ぼくに対する新手のイジメなのか、放っておいても潰れそうな店なのに・・・と猜疑心に囚われそうになりながら2枚目を見ると、いくつかの質問が記されていて返信をしてくださいとのことだった。

1.『使用されている小麦粉の種類と銘柄を教えてください』

ほら、きた。やっぱりだ

2.『また、その小麦粉を使われている理由を教えてください』

間違いない。新手のイジメだ

もちろんそんなわけもなくぼくの邪推に過ぎなかったけれど、この時代は以前よりも多種多様な小麦粉が流通するようになり、腕の良いシェフたちはこぞって目新しい小麦粉を試されていた憶えがある。
だからこのタイミングで料理王国さんもパンの特集を組まれたに違いない。

前述の質問1. なんて多過ぎて書き切れないシェフもおられるのでは、と思ったし質問2. に至っては、ぼく以外の方は嬉々として相当なこだわりを書かれたに違いない。
では、ぼくは質問の答えをどう書いたかといえば、正直に書いた。

1.『使用されている小麦粉の種類と銘柄を教えてください』

Fナポレオン(準強力粉)、イーグル(強力粉)、キリン(ライ麦粉)、ハート(薄力粉)以上。

いずれも大手であるニップンさん(日本製粉)の一般的に流通している小麦粉で、それも薄力粉を合わせてもたったの4種類だけだった。

2.『また、その小麦粉を使われている理由を教えてください』

修業をしていたとき、お世話になった営業さんとのお付き合いがあるので、そのときと同じものを使っています。


きっとぼくだけが期待されていた答えと違っていただろうし、編集部では「やってしまった」「誰だよ、こんな奴を選んだのは」なんて会話になったのでは、とさえ想像する。

この料理王国さんのパン特集が2001年9月号。
そして恐らくこの潮流のピークであり、業界を席巻することになるヴィロンさんがお店として登場したのが2003年。
いま思うと日本における小麦粉のヌーヴェルヴァーグとも思える時代だった。

ぼくは、その波に乗らなかったけれど。

つづく


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