「原稿用紙一枚分の物語」#14 走る
オレは走った。一目散に走った。
もう誰にも追いつかれない、そう自信を持って走った。
思えば半年前、自分の足を過信して、体力の衰えも顧みず、
ただ闇雲に走っていた。
それでも欲望の赴くくまま結果は出していた。
そのオレが何の実績もないポッと出の新人に負け、
人生に汚点をつけられた。
それからというもの、トレーニングに明け暮れた。
時間はたっぷりあった。
狭い室内がほとんどだったが、体力づくりには問題なかった。
一日一回僅かな時間ではあるが、
外に出た時にはフォームのチェックは怠らなかった。
溜まりに溜まった欲望を満たすため、走った。
頬を切る風が心地よい。
漲る自信が快感に変わる。
このまま走り切れる。
そう確信した時だった。
後方から自転車が凄いスピードで追走してきた。
そしてあっという間に横に並ばれ捕えられた。
「またお前か!半年前に下着泥棒で捕まって、まだ懲りないのか!」