『千夜千字物語』その12~強盗
あと1ヶ月で世界的有名なブランド店がオープンする。
世界一の規模ということで注目を集めていた。
「いよいよだな」
オープンを待つのはファンだけではない。
強盗集団のリーダー、ジャンも待ちわびてる一人だった。
オープンを前に商品が揃ったところを
ごっそり盗もうという計画だ。
そんな時、裏取引で世話になっている男から、
ちょっと見てもらいたいヤツがいるということで
ある若者を紹介された。
筋がいいので、できれば鍛えてほしいということだった。
素性に問題はなかったし、
簡単なテストをしてみてモノになりそうという理由と、
ある計画に使えると考えて、雇い入れた。
雇い入れたその日から若者を鍛え始めた。
「1ヶ月で仕上げるから、覚悟しとけよ」
ジャンはそう言って急ピッチで
若者に自身の強盗の手口を教え込んでいった。
なんとか簡単な金庫ぐらいは開けられるようになると、
ジャンは、最終テストとして
下町の老夫婦が営んでる時計屋の金庫を襲わせることにした。
決行日はブランド店襲撃の日と同日同時刻。
若者は不安と興奮で身体が震えていた。
「教えた通りやれば大丈夫だ」
そう言って若者を送り出した。
百戦錬磨のジャンであるが、
最新技術の防犯システムを破るために考えた
新しい手口によってちょっとしたミスを犯してしまった。
それでもジャンは落ち着いていた。
それもこれも想定内。保険があったからだ。
それが例の若者なのだ。
というのも、
同日同時刻、まったく別の場所で自分の手口で強盗が行われる。
容疑をかけられるとすれば、時計屋の強盗だ。
でもあそこに金はない。
もし逮捕されても未遂なら早々に出てこれる。
そんな計画だった。
犯行後、すぐに若者と合流した。
「うまくやれたか?」
「は、はい。でも金庫は開けたんですが…」
“すみませんでした”と頭を下げた。
「気にするな」
と笑顔で答えた。
後日、ジャンは逮捕された。
取り調べでは犯行をあっさり認めた。
捜査員は、あまりの潔さに訝しがった。
しかしその時、
捜査員が取調室に入ってきて
目の前に座る捜査員に耳打ちをした。
すると、こちらに向き直り
「じいさんも、ばあさんもいま死んだってよ。
これで殺人罪もだ」
と言った。
予想もしなかった展開にジャンはパニックになった。
「お、オレじゃない!」
「今更、何言ってんだ。これで、無期懲役は免れないな」
そう、若者は金庫を開けようとしている時
家主に見つかってしまい、
パニックになって殴り倒していたのだった。
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