原稿用紙一枚分の物語#7 『ミスター営業』
再就職をしてわずか三か月で、彼は営業部初の社長賞をもらった。
この短期間で担当したお客様の心を片っ端から鷲掴みにして、
信頼と売上を伸ばした結果だった。
それもこれも、方便でも嘘をつかず、ズルもせず、
常に真摯にお客様に向き合う彼独自の営業スタイルにあった。
それは誰もが真似できるものではなく、バカ真面目で、
何に対しても手を抜けない自身の不器用さをカバーするために、
長年をかけて培ったものだった。
その後彼は社を挙げての大型案件を任されることになった。
まず、お客様との顔合わせも兼ねてゴルフをすることになったのだが、
彼はそれを丁重に断った。
腕前はインカレ入賞レベル。
皆、辞退する理由がわからず、半強制的に参加させられたのだ。
しかし彼は大失態をしてしまう。
接待のはずが断トツのトップをとってしまったのだった。
前の会社をクビになったのもそれが理由だった。
無理もない、彼は手を抜くなんてできないのだから。