薬膳cafe五花 4月;お花見弁当 #5
今日はカフェの定休日。
午前中はゆっくり過ごした。
午後からはお弁当の予約が入っているので、商店街で買い物してから、お店の厨房に入りせっせと作っている。
𓂃◌𓈒𓐍
【お花見弁当の予約承ります ※期間限定】
1週間ほど前にお店の壁にポスターを貼ってみた。
早速お客さまのなつめさんから近所の公園でお花見をするからと6人分の予約が入った。
18時に、指定の公園にお弁当を届ける約束になっている。
初めてのテイクアウトのお弁当なので気合いが入っている。
ほかほかの筍ご飯は三角おにぎりにして、桜の塩漬けを載せると可愛くて美味しい。
イカのフリッターはカラリと揚がった。
ひじき入りシュウマイには松の実を載せて。
スタンダードな玉子焼き。
セロリとエビのマリネ。
人参とクコのラペ。
マリネの味をつけていると、一緒に住んでいる叔母が慌ただしく店に入ってきた。
「フキちゃーん!!大変だったさー」
「ん?なした〜?」
話を聞くと、ショッピングモールの銀行ATMでキャッシュカードを抜く直前に電話のベルが鳴って、あわててカードを忘れたまま離れてしまったと。
後からハッと気づいてATMに戻ったが、キャッシュカードは見当たらなかった。
慌てて備え付けの電話で伝えたり、銀行に電話をかけたり、取りに行ったり大変だった、との事。
「そもそもキャッシュカードないないってだいぶん財布の中探してたのさぁ。やっと見つかって操作してたんだぁ。何かあると舞い上がっちゃって。やだね〜」
「それは大変だったね〜。でも見つかって良かったっしょ」
「まーねぇ。気を抜いたらだめだね」
「わかるー」
「あっ、お弁当だいぶんできたね。あとなんか手伝うかい?」
「大丈夫だよ。ちょっとゆっくりして深呼吸でもしててよ。お茶入れてあげるね」
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一気にあれこれ調理して、おにぎりもおかずも完成した。
あとはパックに詰めていく。
お弁当の盛り付けは難しいな。
叔母にも見てもらいながら、やっとお花見弁当が完成した。
旬の食材と春に傷めやすい五臓の肝をいたわる食材を取り入れた。
「フキちゃん、美味しそうだわ」
「夕飯分も多めに作ってるからね。もうちょっとしたら一緒にお花見がてら届けに行こうよ」
「うん」
叔母は嬉しそうに微笑んだ。
熱い緑茶を飲んで少し落ちついたようだ。
𓂃◌𓈒𓐍
公園までの道すがら、中医学では春は気持ちが昂りやすい、怒りやすくなるとされていることを話した。
「わたしも最近ちょっとした事でイライラすることがあるんだけど、これだ!春のせいだ!と思う事にしたよ」
「フキちゃんもかい。おばさん、イラつかせてるかい?」
「違うよー。おばちゃんのせいじゃないよ。
ちょっとした待ち時間にイラーッてなったりさ。あと、ちょっとお客さんが多いとテンパリやすいの。元々でもあるけど」
「あるあるだね〜」
春分を境に陰と陽が転換して、陽気が立ち昇る。
それは人にも通じると考えられていて、肝に負担をかけると、上亢しやすく、頭に血がのぼったり、ソワソワしたりイライラしたり、舞い上がったりしやすい。
薬膳では春の五臓の【肝】をいたわる食材を取り入れたい。
というような事をついペラペラ話してしまった。
優しい叔母は「ふーん」「そうかい」「へぇ〜」と相槌を入れて聞いてくれていた。
「わっ。おばちゃん 公園の桜が見えてきたよ!」
「フキちゃん、テンション上がってるね」
「だって、北海道ではこんなにたくさんの桜見られなかったもん。東京はたくさん桜の樹があるよねぇ。わーーっ。凄いねぇ〜!!」
めちゃくちゃテンションが上がってしまった。
私こそ深呼吸しなければ。
𓂃◌𓈒𓐍
公園に着きぐるっと見渡していると、満開の桜の樹の下に、なつめさんやきくらげさん達のグループを発見した。
「おばちゃん、あそこだわ」
敷物をしいたり、準備をしているところに近寄っていくと、なつめさんが気づき
「わぁ、いつかさんだ!!」と手を止めた。
「わざわざ届けてもらってすみません」
今度はきくらげさんが立ち上がる。
その他お子さんが何人かと同級生と思われる男女が数人にこやかにこちらを見ている。
「いえいえ、私がお花見がてら届けたいと言ったんです。桜めちゃめちゃきれいですよね〜。
あっ、これお弁当です」
なつめさんに渡し、お代をいただいた。
叔母も隣に来たので
「いつも来てくださるお客さまなんだよ」
と伝えた。
「いつも姪がお世話になってます」
とニコニコして叔母が言うと、なつめさんもニコニコ会釈した。
きくらげさんはあっ!と驚いた顔をして
「ちゃい夢のおばちゃん!!」
と言った。
叔母は一瞬きょとんとしたが、すぐにわかったみたいで
「あらぁ。久しぶりだねぇ。元気だったかい?」
と懐かしそうに言った。
𓂃◌𓈒𓐍
公園を後にして家路についた。
叔母は久しぶりに子供の頃からお店に来ていたという、きくらげさんに会えて嬉しかったみたいだ。
そんなご縁があったなんて。
なつめさんが声かけてくれて、みんなで何枚か写真を撮ったことや、お弁当を広げて喜んでくれたことも嬉しかった。
喜んでもらえて、作った甲斐があったな。
夕日に照らされ、ほんのりと妖気が漂う満開のピンク色の桜の花々。
みんなの穏やかな笑顔。
この光景はきっといつまでも忘れない。
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●薬膳ひとくちメモ●
筍…身体にこもった熱を冷ます、解毒、通便
※胃が弱い人は食べすぎ注意
セロリ…余分な熱を冷ます、香りで気分をスッキリさせる、肝の昂りを降ろす
イカ…陰を補い血を養う(滋陰養血)
人参…血を養い、肝の働きを高める、明目、消化吸収を助ける
ひじき…血を補い心を養う(補血養心)
※滋陰できる豚挽肉と合わせシュウマイにして、松の実をのせて
春の五味は【酸】…マリネやラペで酢を使って
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