イームズチェア(ハーマンミラー)
初ボーナスで買ったもの
わたしはキラキラ新入社員OLである。
2021年入社のわたしは昨年度、何とか就職ガチャで無事に企業を引き当てることができた。
そんな弊社の夏のボーナスで一番に購入したのが、ハーマンミラーのイームズチェアだ。
インテリアオタク...?
インテリア素人であるわたしが、インテリアに対して素人なりにこだわりを持つきっかけとなったのは、学生時代の実家での暮らしにある。
母と弟が暮らす、九州の実家はとても居心地が良い。おしゃれで、洗練されていて、機能的で、本当に素晴らしい家だ。
築50年の古いマンションの一室に、我が家はあった。若干傾いている床に、雑なペンキ塗りの壁。玄関の目の前にある臭突からは、下水のような臭いがする(直下階の排水管からのにおいがすべて集まる臭突がある。普通は屋上などに排気されるが実家マンションはなぜか居住階の廊下に排気孔がある)。
住みやすいとは言えないマンションの一室を素晴らしい家に仕立て上げたのは、他でもないわたしの母だ。
作業に集中したり、おいしく食事をしたり、ゆっくりと歓談できるような部屋にするための工夫を惜しまない母の姿勢は、娘のわたしも憧れてしまう。
おしゃれで住みやすい実家でぬくぬくと育ったわたしが「一人暮らしを始めたら自分だけの素敵な部屋にしたい!」と考えるのは自然なことだ。
みつけた!
わたしは、時間をかけて椅子探しに挑んだ。予算は10万円。
近場のニトリから電車で1時間のセレクトショップまで本当にたくさんのお店でたくさんの椅子に座った。
探し始めて4か月、目黒の家具通りにあるインテリアショップでようやく出会ったのが、このイームズファイバーグラスシェルアームチェアワイヤーベース、ブラックのキャッツクレイドルだ。まるで呪文である。
リプロダクト品であれば実家にあったが、本物に座るのは初めてだった。
ひんやりしていてすこしざらつきのあるファイバーグラスは、まるでわたしのために作られたかのように肌になじんだ。
「あー、これだ。」
たまたま時計を見たときに短針と長針が重なっていた時のような、おだやかな興奮。
ひと息だけついたらすぐさま立ち上がり、販売スタッフに声をかけた。翌週の休みに合わせて配送の手配をしてもらう。
店を出てから駅まで、おもわずスキップしてしまうほど、わたしは喜んでいた。
家についてから、それこそ椅子が届くまではドキドキの毎日で、本当に夜も眠れない日々を過ごす。
あんな素敵な椅子が家に来たら、わたしの生活は一体どうなってしまうのか?!
期待を胸に、配送日を迎えた。
インターホンのメロディが、いつもより速く聴こえる。
配送員に対して、必要以上の笑顔と感謝の意を述べ、椅子の入った重たい立方体を受け取った。
大きな箱を何重にもぐるぐる巻きにしている幅広テープに十数分間苦しめられつつも、なんとか座面と脚を取り出し、組み立てる。
ねじ山をつぶさないように、プラスドライバーを押し付けながら回す。
自転車屋でアルバイトしていてよかった。早くこの椅子に座りたい。
半ば焦りながら椅子を組み上げ、ついにイームズチェアに腰かけた。
最高の気分だ。
ここはわたしだけの城で、そこにある玉座に、わたしだけがいつでも座ることができるのだ。
家での彼は...
と、大興奮でお迎えした「イームズファイバーグラスシェルアームチェアワイヤーベース キャッツクレイドル」だが、彼は(彼とは?)今も家でわたしを待っている。
通常彼の上に一番長く居座っているのはわたしの着替えである。
しょうがない、出社多きOLなので家にいる時間の方が短いのだ。
朝起きて、イームズチェアの上に畳んで置いてあるブラウスに急いで袖を通したかと思えば、着ていた部屋着をくちゃくちゃのままイームズチェアに座らせつつ、浅く座って化粧をする。
仕事が終わり、帰宅してすぐさま部屋着たちを回収し、バッグをイームズチェアに座らせる。
部屋着に着替えた後は、食べる余裕がある時だけ夕食を食べる。もちろん、イームズチェアに座って。
寝る前には、明日会社に着て行く服を畳んでイームズチェアに置いておく。
わたしより長く居座っている部屋着たちも、床に置かれるよりイームズチェアの座面にくちゃくちゃにされていた方がまだよかろう。
それに、実際わたしはお化粧をするときやご飯を食べるときよりも、くつろぎたいときに座ることが多い。
図書館で借りた本を読むとき、ハマっているソシャゲの周回をするとき、Amazonプライムでプロメアを観るとき。
わたしの椅子の何が良いって、ひじかけがついているのがとても良い。良ポイントだ。
なめらかなひじかけは、ひじをついたり手を置くのはもちろん、脚を引っ掛け横向きに座ればお姫様抱っこでもされているかのような状態でゆったりと過ごすことができる。
お姫様抱っこされながらTwitterを見つつ、つまむお菓子はそれはそれは絶品だ。
だいじだいじ です
このようにイームズチェアは、わたしの部屋にとってなくてはならない存在なのだ。
お値段がお値段ということもあり、かなり長く座ることになるだろう。死ぬまで座らせてほしい。
引越しても、結婚しても子どもが産まれても、友達や弟とシェアハウスをすることになっても、母親と一緒に暮らすとしても、きっとずっと大切にする。
そう思えるのが、わたしのイームズチェアだ。