【和訳/解説】 d4vd - Here With Me
d4vdのデビューEP『Petals to Thorns』より Here With Me の和訳です。
d4vd (デイヴィッド)
米・ヒューストン生まれの18歳
「自身のゲーム実況で使用するために」という理由から宅録(妹から借りたクローゼットの中)で楽曲制作をスタートさせ、そんなプロセスの中で発表したシングル『Romantic Homicide』が世界中で大ヒット。
Billie Eilish擁する Darkroom / Interscope と契約するなど今最も期待されているアーティストの一人であり、今年7月には早くもフジロックへの出演も果たしています。
今回和訳した Here With Me は Romantic Homicide と並ぶ彼の代表曲の一つです。
17歳で書き上げたとは思えないほどの深い愛、そしてそれが行き着く先について歌われており、美しくもどこか孤独なサウンドと芸術的で意味深なMVとが、この曲の持つ悲壮感を更に気高いものへと昇華しています。
後方に解説・注釈、Spotify/Apple Musicのリンク等も用意していますので、ぜひご覧ください。
※堅苦しい訳やコーラス部分の和訳を繰り返し使うなどの形式が私自身あまり好きではないため、一部噛み砕いた表現や意訳を含んでいます。
予めご了承ください。
歌詞
Watch the sunrise along the coast
As we're both getting old
I can't describe what I'm feeling
And all I know is we're going home
So, please don't let me go
Don't let me go
And if it's right, I don't care how long it takes
As long as I'm with you, I've got a smile on my face
Save your tears, it'll be okay
All I know is you're here with me
Watch the sunrise as we're getting old
I can't describe
I wish I could live through every memory again
Just one more time before we float off in the wind
And all the time we spent
Waiting for the light to take us in
Have been the greatest moments of my life
I don't care how long it takes
As long as I'm with you, I've got a smile on my face
Save your tears, it'll be okay
You're here with me
I can't describe...
和訳
海辺に座って朝日を眺めながら
僕らは共に歳を重ねてきた
この気持ちを言葉にすることは出来ないけれど
君は僕にとって唯一の「帰る場所」なんだ
だからどうか行かないで
お願いだからそばにいてよ ※1
もしも僕らが「正しい二人」なら
僕の時間なんていくらでも捧げられる
君と一緒なら僕は笑顔で生きていけるんだ
泣かないで、きっと大丈夫
いつだって君はそばにいてくれるから
立ち昇る朝日のようにゆっくりと
二人で歳を重ねていこう
言葉になんか出来ないよ
もう一度この記憶の中を生きられたらいいのに
どうかあと一度だけ
僕らの思い出が過ぎ去ってしまう前に ※2
二人で過ごした時間を
光が優しく包み込んでくれた
あれこそが人生で最も美しい瞬間だった
どれだけの時間が必要だろうと構わない
君が隣にいてくれる限り、僕は笑顔でいられるんだ
泣かないで、僕らならきっと大丈夫
いつだって君は僕の隣にいてくれるから
言葉にならないよ... ※3
解説・注釈
この曲を語る上でMVの存在は非常に重要です。
d4vd本人も語っている通り、彼はMV等のビジュアル面に強いこだわりがあり、今楽曲についても「これは Romantic Homicide のMV(愛する人を殺してしまったd4vdが映っている)と表裏一体で、あのビデオに登場した2人がもしうまくいったらという世界線を描いている」というコメントを残しています。
※1 『だからどうか行かないで
お願いだからそばにいてよ』
海岸沿いから昇りゆく朝日を眺め、お互い歳を取ったねと笑い合う二人
序章で描かれる彼らの後ろ姿、それはそれはこの上なく-言葉にならないほど幸せそうに写ります。
しかし次に語られるのは「行かないで」という懇願の言葉。
先述したd4vdの言葉が正しいのであれば、このMV(そしてこの曲)は「上手くいった世界線の二人」を描いているはず。
しかし、この上なく幸せそうに見えた二人の情景と、この曲が語ると思われた純粋無垢で終わることのない愛の姿は、この言葉の訪れと共に一瞬にして崩れ落ちてしまうのです。
※2 『もう一度この記憶の中を生きられたらいいのに
どうかあと一度だけ
僕らの思い出が過ぎ去ってしまう前に』
この一節と共に、MVには二人の夫婦が現れます。
完全に危機を脱し、うまくいった世界線の二人です。
二人は若かりし日々に想いを馳せ、それを振り返りながら、あの頃と同じ砂浜で静かに抱き合っています。
"言葉にならない"ほど美しい光景です。
しかし、そんな二人に一切構うことなく、d4vdは「どうかもう一度、あの日々を生きたい。思い出が過ぎ去ってしまう前に、あと一度だけ」と、新たな懇願を歌っています。
どうしてなのでしょう。
毎度毎度、美しい二人の日々に呼応するかのように、そんな日々に似合わぬ「別れ」を惜しむ言葉達が姿を現すのです。
なぜd4vdはこのようなアンバランスな風景を描いたのでしょうか。
そんな謎を残したまま曲は終盤へと進んでいきます。
※3 『言葉にならないよ...』
最後のこの歌詞が訪れる少し前、そこには
喧嘩別れをした二人
独りで浜辺を彷徨う彼
そして長年付き添った妻を失った夫の姿
この3つが映し出されます。
夫は妻のつけていた花飾りをベンチに置き、独り、揺らめく波の中へと向かっていく。
そして最後、この歌詞が訪れるとそこに彼の姿はなく、波に呑まれていく二人の服だけが遺るのです。
勘の良い方なら(というかほとんどの方が)既にお気づきかと思いますが、この曲は死別について歌われています。
ここから先は意見の分かれる所と思いますが、私はこれを『二つの並行世界が交わった物語』であると解釈しました。
喧嘩別れの末に若くして彼女を失った彼は
「こんな未来があったのかもしれない」と、年老いた二人の姿を思い浮かべ、
生涯を共に過ごした妻(彼女)を失った夫(彼)は
「こんなにも美しい日々があったんだ」と、若い頃の二人の姿を思い出して、
それぞれが
「言葉にならない」
そう言い残し、彼女を追いかけて思い出の海の中へと消えていくのです。
最後に
いかがだったでしょうか。
他の方と比べると、私の解釈は恐らくかなり悲観的なものです。
しかし、10代にして「自身の喪失感」を描くことに抵抗がないd4vdというアーティストの(末恐ろしい)感性から推測するに、このような悲しいラストもあり得るのではないでしょうか。
いずれにせよ、17歳の少年がクローゼットの中でiPhone片手に作りあげた、美しくも哀しいこの一曲が「世代を代表する一曲」として語り継がれていくであろう事実を同い年の音楽バカとして非常に嬉しく思います。
それでは。
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