波が押し寄せては引くように
82歳ひとり暮らしの実チチ。先日は通院日だったので、病院で待ち合わせ9時15分にロビーと約束した。
いつも通院の時は同じ時間に待ち合わせをしているのだが、車で行ったため事故渋滞にハマり10分ほど遅れてしまった。私がいない時は、先にレントゲンを受けることになっているのでレントゲン室のところで待ち合わせにしていた。
レントゲン室の前に行ったが、本人はいない。レントゲンを受けてる最中なのかなと思って待っていたけど、後から来た方がレントゲンが終わって出てきてしまった。
その次に行く予定の整形外科に行こうとロビーに降りたら、ロビーに父はいた。
待ち合わせの時間が9時なのか9時15分なのか、忘れてしまい、結局、9時5分に到着し、ひとりで診察を受けてもう終わったとのことだった。父は私が遅れたことなどどうでもいい様子で、自分が時間を忘れてしまったことが何よりショックな様子だった。
先週は自分で打っている骨粗しょう症の注射を忘れてしまい、先々週は注射を打つ箇所の左右を間違えてしまったという。
あわせて外出の予定やヘルパーさんが来る日など、毎日の電話でちょいちょい確認はしているのだけど、ぽこぽこと穴が空くように忘れることが多くなった。
とうとう頭にも来ちゃったか、と本人は落ち込むものの、落ち込んだところでどうにもならないので、大事なことはメモをすること、ひとつひとつ確認することをすすめた。
そこで買い物メモや私に頼みたいことのリスト、病院の先生に話すことのリストなどは、作ってはいるのだけど、帰ってきてから、メモにないモノを思い出すこともあり、結局、がっくりくるのだという。
そういえば、ヘルパーさんやケアマネージャーさんの名前も出て来づらくなった。電話でもあーあれがーそれがーええーーーっとで、一向に具体的な名前が出てこないから、話が見えづらい。
計算能力はまだあるし、テレビ見て得た新しい知識もすぐに人に話すので、まだ痴呆ではない段階だと思うが、やはりこうして少しづつ何かがぽろりぽろりと落ちて行くのだなぁと身近にいて思う。
81歳の義理ハハは、お医者さんが次回は家族の方も一緒に話をということで、今日他の兄姉も一緒に診察に立ちあうことになっていて、時間になって迎えに行ったら、「明日だと思っていた」という。何も支度をしておらず、リラックスしていたらしい。あわててバタバタと支度する中、「そもそも今日は何曜日?」という質問だ出たそうだ。
義理ハハも父も80オーバーでひとりでしゃんと暮らしているし、見た目もしゃべりも年齢よりも若々しい方なのだけど、確実に中身は80オーバーなスペックなのかもしれない。
病院の診断では、義理ハハは内視鏡で検査入院とか新たな抗がん剤投与も考慮しなければならないらしい。お医者さんの話を受けて、近々、本人と家族で希望やこの先どうするかを話し合うことになった。80歳越えているということは、」リスクの方が高くてできない治療もあると告げられ、本人が日にちを間違えた以上に、彼女の年齢は目の当たりになった。
わかってはいるし覚悟はあるけど、こうも急に実チチと義理ハハ両方に物忘れを頻発されると、なんとも言えない心境になる。
義理ハハが病院の会計で出した健康保険証は古いものだった。新しいのはあるか?と聞いたら、届いたかどうかも覚えてないと言う。でも一方で、郵便が置いてあるところはちゃんとしているから、きっとそこにある、大丈夫、とも言う。
実チチは食べたものを記録したり、買い物の計算をちゃんとしていて安心なようで、前に教えたことをまた聞いてきたので「前に話した」と言うと「聞いた覚えがない」「もう忘れた」と堂々と答えてくる。
しっかりものとうっかりもの、ハキハキとボヤボヤが交互に、
波が押し寄せては引くように、彼らの頭の中は揺れ動いてるのだ。
その波がそのうち大きくなり、引いたままになるのかもしれない。
なんだかちょっと怖いし、不安だ。
でも私がそれを出しちゃいけないなとも感じている。物忘れひどいねーと笑い飛ばして行こうと思う。