パラボラアンテナと82歳
82歳一人暮らしの実チチのマンションの外壁工事が入るため、アンテナをはずさなければならなくなり、近所の電気屋さんに一緒に行ってアンテナをはずすをお願いをしてきた。
アンテナをはずすお願いをしてからというもの、父はそのアンテナについての考察がノンストップだった。
はずしたらどこに置いておけばいいか。粗大ごみに出すのか、いやしかしもったいないから売ってみるのはどうだろうか。などなど。
電気屋さんに行った翌日からの電話はその話ばかり。
まずは、ベランダ工事するのにアンテナを置いておけるのか、マンション側に確認を自分でしたらしく、どうやら8月までは置いてていいみたいなんだよ、とのことだった。
父は、一度思いつくとすぐに電話する。私は電話というのが苦手で、問い合わせするのにいつもぐずぐずしてしまうし、メールでの問い合わせがあるなら、メールを利用する。父はメールを打つのにおそろしい時間もかかるし、電話大好きっ子(←生前の母が言っていた。母も電話が苦手というか嫌い)なので、すぐに電話。
母がなくなって一人暮らしを始めた半年前は、わからないことがあったらすぐに電話するね、と言っていて、その言葉通りにすぐに電話かけてきた。それが「○○○がないんだけどどこにある?」という類の電話で、母と二人で暮らしていた家で、いくら片付けを少ししたとはいえ、私が全部把握しているはずもなく、答えられない時もあった。しかも頻繁に電話してくるので、さすがに在宅とはいえ仕事もしているし、家事もあるからまとめて電話してくるように頼んだりした。
いきなりひとりになって寂しいんだよ、と友人は言う。それもあるとは思うのだけど、私はそこにはいないし、そもそも電話が好きじゃないし、仕事でやっと集中してきた時に、タッパーの場所を聞かれた時はさすがに辟易した。
家事を完璧にこなしていて整理整頓好きの母はモノの置き場にこだわっていて、そのものを使うところに置いてあったり、関連のものがちゃんとまとめてあったりしたため、その話をして、父も探すポイントがわかると○○○はどこにある?コールはなくなった。
電話は通話料金もかかるから、生存確認もあわせてこちらから1日1回かけるとして、質問はよほど急を要しない以外はその時にまとめてするように、というルールとした。
話がそれました。
アンテナに関心を寄せている父に、はずしたら、電気屋さんに大きなゴミ袋に入れてもらって、まずはベランダに置いてもらうようにとした。ゴミ袋の在り処も教え、次の日の電話では、ゴミ袋も見つかったと話していた。
アンテナはベランダからどけなければいけなくなる前に粗大ごみとして出すことにした。売れないし、売れても大したお金にもならず手間だけかかる。その手間はどう考えても私が担うから、お断りした。
そこで納得して、アンテナの話は一旦収束したのだけれども・・・
ここのところの雨降りで、取り外す予定の日に作業できず、今の所、延期になっている。順延の日に雨がふらないといいね、とか言っていると、また違うアンテナ話が出てきた。
「このアンテナ、家の中に通すのに、エアコンの室外機のダクトを通しているんだけど・・・」
前回、アンテナをつないでいた使っていない機器は私がはずしているので、コードだけが室内に残っている状態にしているので、コードは抜いてもらえばいいと告げると
「穴が開くじゃないか」と言う。
「室外機のところでしょ。テープとかでふさげばいいんじゃないの」
「いや、そんなんじゃだめだ。いまだってパテみたいなのでふさいであるんだよ」
「でもコードだよね?大した穴じゃないじゃない」
「いや、大した穴だよ。大きな穴だよ」
「え、大きくないじゃない」
「いや、大きいよ」
「コード1本でしょ」
「大きい。見てないからそういうこと言うんだ」
「前回、機器をはずしたのも私だし、ベランダで見たのも私ですけど」
「今日改めてちゃんと見たら、大きい」
はじまった。老人の言い張り。もうこうなると話にならないから、私は引くことにした。
「んで、どうするの?そのおおーーーきな穴」(←引いてるが怒ってる)
「明日電話するわ。電気屋に。パテとか用意してもらって、穴を埋めてくれってね」
多分、最初からそのつもりだったのだと思う。それなら「穴が開くから電気屋に電話しようと思っているんだよね」と最初から話してくれたら良かったのに、と。
あ、そうだった。この人は電話が好きだったんだ。しかも、長電話。
要件しか話したくない私には理解できないけど、電話でああだこうだと言い争うのも実は好きだったのだと、今更思い出した。
「お父さん、寂しいんだよ」と優しい友人は言うだろうな。でもね、人生100年だとしたら、彼にはあと18年もある。その毎日に、長電話はさすがに難しいとは思いませんかね?
次回同じような押し問答の長電話があったら、しっかり言わないとだめらしいや。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?