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HCD専門家認定試験の審査書類刷新についてふりかえり

この投稿は、ふりかえり(裏) Advent Calendar 2020の12/12用に書いたものです。

今年、HCD専門家認定試験の審査書類について大幅な刷新をしました。この投稿ではこの刷新について考えたこと、やったことについて振り返ります。

なぜ自分がこれをやっているのか

私自身が資格保有者でもあるのですが、HCD(人間中心設計)に関する認定資格制度があり、その制度の運用や見直しなどを行う「HCD専門資格認定センター」に2年ほど前から参加しています。

以前からこの資格制度の審査書類については書き方の難しさなどについて懸念が挙げられており「HCDの認定資格なのにHCDされてないのでは」と揶揄されることもあります。

認定センターでもこれを大きな課題と捉えており、今年の審査の前にセンターのメンバーで刷新を行いました。

前提知識として:HCD専門家審査書類の概要

審査の概要や書類は一般公開されているので誰でも見ることができます。

専門家として必要なコンピタンス(≒専門スキル)の発揮について実例を持って記入するというもので、最大5つのプロジェクト(案件)に関する記入の中で、例えばユーザー調査や評価の計画をしたことがあればそれについてコンピタンスの1つである「A1.調査・評価設計能力」の欄に書く。ユーザーインタビューを実施したことがあれば、「A2.ユーザー調査実施能力」の欄に書く。といった形のものになります。

コンピタンスは全部で23項目あり、記入された内容から「コンピタンスの発揮が認められる」としたものの項目数と発揮度合いを基準に合否が判定されます。

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これまでの課題と、刷新の方向性

これまでの書類の記入状況や問い合わせ内容、審査をしてきた中でいくつかの課題が挙げられていました。

「そもそも、自分の経験や実績がどのコンピタンスの発揮につながっているかを理解できないと記入ができない」

コンピタンスの説明には用いられる手法の例が書かれているものがありますが、目的や得られる結果が適切であれば例に書いている手法を用いなければいけないというものでもありません。

また、ユーザー調査や評価、分析やモデリングの手法として新しいものが生まれ続けている現状も踏まえると、やったこととコンピタンスを結びつけることができなかったり、違うコンピタンスに関連すると結びつけてしまうことも懸念されます。

これについては、コンピタンス内容の理解を進めるための補助が必要だと考えました。

「せっかく記入しても、該当のコンピタンスの欄に書いていないと審査時に採点対象外となってしまう」

例えば、「A2. ユーザー調査実施能力」と「A12. ユーザーによる評価実施能力」というコンピタンスがあるのですが、これが混同されやすくA2の欄にA12に相当するようなことを書いてしまう。などというような状況が毎年見られていました。

こうなってしまうとA2の項目として採点することができず、またA12の欄に書いてなければA12としての採点もできないので、結果としてポイントになりません。

これについては、混同しやすいコンピタンスの違いを理解できることと、それぞれを正しい欄に書けるようにすることが必要だと考えました。

「記入された内容からその目的や背景がわからず、実施内容の適切さや今後の再現性などが読み取りにくいことがある」

例えば、「ユーザーの実態を整理するためにCJM(カスタマージャーニーマップ)を作成しました」のように記入されていた場合、それはそれで事実だし実績なのだと思うのですが、そもそもなぜCJMを作成する事になったのか、必要があったのか、方法として適切だったのか(穿った見方をすれば、この申請者はどういう場合でもCJMでのユーザーモデリングしかできないのかも知れない)、などを読み取ることができずコンピタンスの発揮が認められなかったり、審査員間で解釈や評価にブレが起きるなどの課題がありました。

特に、流行りの手法は体験ワークショップなどが実施されることも多いためか、それを実施したという申請者が多く「とりあえず〇〇(手法名)やりがち問題」のような状況にもなっています。流行りの手法を用いることが問題なのではなく、手法ありきになっている可能性があるという問題です。

これについては、やったことに対して目的や背景、結果(分かったことやアウトプット)を書いてもらえるようにする事が必要だと考えました。

刷新の基本的な方針として、「経験に乏しくてもそれなりに書けるようにする」ような改善は考えず、専門性を問う審査なので「やったことがあるならそれを的確に書類に記入できるようにする」ことに重点を置いています。

やったこと①:審査書類の刷新

各コンピタンスの記入欄について、(1)目的と対象、(2)体制と実施内容、(3)工夫とアウトプット、のように分けることで、記入した結果が「何のために」「何をやって」「何が分かった、得られたのか」という流れとなるようにしました。

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審査をする上で書いてほしいことを記入欄ごとに分けることで、それぞれについて必ず書いてもらえるようにすることが狙いです。転じて、手法ありきで目的に即していなかった場合や、何かやったようだが成果が挙がっていないやりっぱなしのような場合には、そのことが浮き彫りになると思います。

また、混同しやすいコンピタンスについて、審査書類内やFAQで補足をしています。
例えば、混同されやすい「A2. ユーザー調査実施能力」と「A12. ユーザーによる評価実施能力」というコンピタンスについては、「”ユーザー調査”はユーザー(の実態や背景など)を調査すること」、「”ユーザーによる評価”はユーザーに使ってもらうなどで評価(レビューやテストなど)をすること」のように、それぞれの明確な違いを補足するようにしています。

やったこと②:コンピタンス整理の補助シート作成

以前から、認定に最低限必要なコンピタンスの規定数に達しているかを確認するための「プロジェクト整理シート」は作成してありましたが、これに、実施したことのある手法から該当するコンピタンスを逆引きできるシートを追加しました。

手法ありきになってしまっていたらわかるための工夫は審査書類の方で行っていたため、こちらでは「やったことはあるのにどのコンピタンスに関連するのか分からず、どこに書いて良いのかわからない」に対するサポートとして追加しました。

まとめ:審査書類刷新に関する個人的な想い

審査書類の記入は大変な作業で、なんでこんなに書かなければならないのかと思う人もいると思います。申請した当時の自分もしんどかったですし。
ただ、書いたあとでは今までの経験の棚卸しができてよかったと思う部分もありました。

これはHCDに限った話でも無いと思うのですが、何らかのジャンルの専門家になるということは、そのジャンルのことについて周りに意見を求められる立場になるということです。

今回の刷新で、自身の経験や実績について「何のために」「何をやって」「何が分かった、得られたのか」をあえて分けて書いてもらうようにしました。これは「ある目的が提示されたときに、何を考えて適切と思われる方法を選び、実施して、必要な成果を得ることができたか」を整理することにも繋がります。
これを書けるということ自体が、自身の経験や知識を整理、外化できているという専門家として必要なスキルの現れだと考えていて、逆に言うと整理や外化ができないと専門家として立ち回れずに困るはずだ、とも思っています。

なんだか、天竺にあるというありがたいお経が実は…みたいなオチでいやらしいかなとも思うのですが、専門家として認定された後で、これを書くために自身の経験や実績を棚卸ししたことが申請者自身の資産になるといいなという気持ちで審査書類の刷新に取り組みました。


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