ウォーク・ザ・ライン 君につづく道

ウォーク・ザ・ライン 君につづく道(2005年:アメリカ)
監督:ジェームス・マンゴールド
制作:ジョン・カーター・キャッシュ(総指揮)
配給:20世紀フォックス
出演:ホアキン・フェニックス
  :リース・ウィザースプーン
  :ジニファー・グッドウィン
  :ロバート・パトリック
  :ダラス・ロバーツ

初めてジョニー・キャッシュの歌声を聴いたのは友人に借りたU2のアルバムの中の一曲だった。そのタフな低音はボノを圧倒しながらも、寛大な優しさを感じさせたことを思い出す。カントリーミュージックの巨人、ジョニー・キャッシュと二番目の妻で自身もシンガーだったジューン・カーターの数奇なラブストーリーを暖かくも鋭い視点で描いた作品。
全編から音楽の楽しさがあふれ出し、観ていて心が躍った。ジョニー・キャッシュの歌がふんだんに使われ、ファン以外でも楽しく観ることができる。ホアキン・フェニックスとリース・ウィザースプーンの二人は吹き替えなしで歌っているらしく、なかなかの観ごたえと聴きごたえがある。二人がデュエットで歌った「Jackson」は最高だった。実際ジョニー・キャッシュとジューン・カーターの二人も定番のデュエット曲だったらしい。その他、エルビス・プレスリーやジェリー・リー・ルイスの二人も登場。イケイケだったアメリカ黄金時代が再現されていた。
アクの強い人間を演じさせればホアキン・フェニックスは圧倒的な存在感を放ち始める。ギラギラした眼を遠くに見つめ、音楽でのし上がっていくジョニー・キャッシュを鮮やかに演じている。成功した先の堕落と退廃も描かれており、薬物依存や空回りする思いからの暴発、先妻とのすれ違いなど、仕方なかったという美化を決してせず、ジョニー・キャッシュの負の面も表現している。一度ジョニー・キャッシュが歌っているPVを観たことがあるが、前のめりに上目で観客を見つめる姿は本人そのものだった。オーディション前に黒シャツを選んで先妻に口出しされるシーンがあるが、ジョニー・キャッシュのあだ名「Man in Black」の由来かなと思うと笑ってしてしまった。
この作品でリース・ウィザースプーンはオスカーを受賞しているが、なるほど納得できる演技。ステージで生まれ、ステージで育ったジューン・カーターを魅力的に演じており、ショービズの華やかさと信仰の堅実さを持った魅力ある人物に観せている。ジョニー・キャッシュの突飛もない求愛を拒絶しながらも、彼を想い、力を貸して一緒にステージを盛り上げている。先走るジョニー・キャッシュをキレ気味に、なおかつ冷静に拒否する姿は笑ってしまった。そして歌がうまい。デュエットは先述したが、ハープ(もしかしたらシターかも)の弾き語りは聴き惚れてしまった。さすがハリウッドの女優は何でもできるんだなとため息が出てしまう。
ジョニー・キャッシュの求愛がなかなか成就しないので長い交流がある。その間に大国だったアメリカの暗部が隠れて見える。南部の貧困、度重なる戦争の後の退廃、ドラッグと薬物禍、離婚率の高さに宗教的視点よる偏見等々…。彼らが生きた時代はこんな時代だったんだと再確認できた。その歴史の中でエンターテイメントという武器を携え、長年抗ってきたジョニー・キャッシュのパワーには尊敬する。キャリア初期の曲は反抗的、通俗的な曲中心だが、キャリア後期になると人生の悲しさや心境に根差した道義的な曲が多くなっているのも、世界が混迷の世の中になっていることへの警鐘なんだろうと思う。
後半はストーリーが少し間延びしてしまい、集中できなかったのが残念。あくまでも二人のなれそめを描いているので、ジョニー・キャッシュが訴えた政治的な動きはさほど描かれていない。伝記として観るならここからがピークに入るので物足りなく感じた。
感想を述べると前半は良作だが、後半はどうしてもうーんと考え込んでしまい、家族関係や薬物問題などスッキリした感覚はない。さすがに大円団は難しいにしても、もっと違うエンディングを作れたのではないかと思わされる。きれいに終わることができるラブストーリーは最近は難しいなと感じた。

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