戦神 ゴッド・オブ・ウォー

戦神 ゴッド・オブ・ウォー(2017年:中国・香港)
監督:ゴードン・チャン
配給:ハーク
出演:チウ・マンシェク
  :サモ・ハン
  :レジーナ・ワン
  :倉田保昭
  :小出恵介
 
日本史で習う倭寇。中世に中国大陸沿岸を略奪しまくった日本人海賊集団として悪名高く、明帝国や時の幕府も取り締まりに手を焼いたという。その倭寇に対して独創的な武器と戦法を用いて撃退した明の英雄、戚継光の物語。
中華王朝明代の頃、大陸沿岸には倭寇が略奪の限りを尽くしていた。しかしその倭寇の背後には日本の松浦藩が手を引いており、彼らは大陸から略奪した富を藩に持ち帰り、軍費に充てていた。明の将軍は連戦連敗を重ねており、その上役の提督は武人として名高い戚継光を召喚。倭寇に対させようとするが、明軍の兵士の士気練度は緩み切っていた。戚継光は独自に「新軍」を作ろうと動き始める。
戚継光は日本では有名ではないが、倭寇の討伐に名をはせた、中華史でも指折りの名将。演じるチウ・マンシェクはアクションのキレがよく、槍を主武器に大立ち回りを演じて迫力がある。口角が常に上がってほほ笑みをたたえたような顔立ちなので武人らしくなく、優雅な立ち姿なので序盤は頼りなさを感じたが、物語が進み後半には倭寇と死闘を繰り広げ、ボロボロになっても戦い続ける姿に鬼気迫るものを感じる。観終わって印象が変わった名優だった。でも戚継光と言えば恐妻家として歴史的にも有名で、気が強く気分屋のような妻には振り回されている。その姿は少しコミカルで、何か親近感を感じる。オレも同じです。
映画として素晴らしいのが、ただ単にアクション映画として描いておらず、歴史考証に基づいた演出をきちんと撮影しているのに好感が持てる。よく知られているが、倭寇とは日本人だけでなく、海外交易を禁じられる前に海外へ出た明国人も多数いた多国籍集団だったことや倭寇と連携をとった松浦党の存在。戦闘も当時最新兵器の火縄銃や明の火器の使用、戚継光自身も脅威に感じて分析に力を入れた日本刀の切れ味。彼はその後日本の剣術を元に剣術を創設している。そして対日本刀兵器の狼竿(ろうせん)と対倭寇の鴛鴦陣(えんおうじん)が出てきたときは感動してしまった。きちんと考証に基づいて歴史を描いており、派手めの演出もあるがここまで描き切ったことには意味があると思う。
ただ不要な演出も多くあり、前任の将軍が逮捕された牢で棍術対決したり、上司である提督の葛藤が描かれたりと、脱線傾向もある。特に恐妻とのやりとりは不快になることもあり、必要なかったのではないかと思わされた。まあそれぞれ、明帝国の腐敗や政治劇の難しさ。人間としての戚継光を表現したかったのだと思われるが、間延びしてしまい集中が切れてしまうのが興覚めだった。
敵の倭寇には日本を代表するアクションスターの一人、倉田保昭が老獪な松浦藩の家老を演じており、戚継光を試す二面作戦を展開させ、最終決戦には智謀と武力を尽くした戦いを見せつける。もう年齢だからアクションはないのかなと思っていたら、最後には戚継光との一騎打ちを繰り広げ、サムライのアクションを存分に楽しむことができた。この人のアクションは香港カンフー物に染まっていない。日本の古武術の動きを取り入れたアクションで、日本刀での殺陣から素手での格闘術など迫力が際立っている。鎧や手甲で斬撃を防ぐ演出は非常に説得力があった。そして最後には武士道を体現する行為でサムライらしさを見せつけた。
実はこの作品、以前から存在を知ってはいたのだが、なかなか視聴する機会がなく、方々を探していたところ。たまたま視聴することができたのだが納得の出来。きちんとした歴史考証に出演者の演技や表現のうまさ。アクションシーンはただカッコいいだけにせず、戦闘の悲惨さも表している。守る明側の政治的硬直と腐敗や、攻める倭寇側の事情や人間関係。ドラマも描いているところもいい。日中のいいところが組み合わさった良質な作品だった。
 
その後の戚継光。倭寇討伐に功績を立てた彼は、次に北方の匈奴討伐に駆り出される。明の政治家、張居正に重用されるようになったが、張居正の死後に讒言で失脚させられる。愛人に子供産ませてしまい妻に激怒されたが、妻の死後その子どもたちを迎えて一緒に暮らした。彼の名誉は失脚してから3年後回復したが、その直後に亡くなったという。

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