パブリック 図書館の奇跡
パブリック 図書館の奇跡(アメリカ:2018年)
監督・脚本:エミリオ・エステベス
出演:エミリオ・エステベス
:アレックス・ボールドウィン
:クリスチャン・スレイター
:テイラー・シリング
:ジェナ・マローン
:マイケル・ケネス・ウィリアムズ
寒波押し寄せる街の図書館をホームレスたちが占拠。巻き込まれた図書館職員はホームレスたちと警察の間に立ち、図書館を一晩のシェルターとして使おうと交渉を試みるが、そこには困難と思惑が絡み合い、事態はエスカレートしていく。映画人エミリオ・エステベスが制作・主演した社会問題提起ドラマ。
街には寒波が押し寄せているが、行き場のないホームレスたちは寒さをしのぐ家もない。仕方なしに開館と同時に市立図書館に流れ込み、各々閉館まで身支度を整えたり、読書やPCを使ったりと時間を潰していた。その図書館職員の主人公は、以前臭いがひどいホームレスを警備員とともに退去させたことを、検事に訴えられ退職を迫られていた。仕事や同僚にも誠実な彼は苦悩するが、そんな中ホームレスたちが寒波からの避難を求めて図書館を封鎖、占拠してしまう。その場に巻き込まれた図書館職員は彼らに同情し、上層部や警察、そして市長選に立候補している例の検事たちと交渉するが、彼は過去の逮捕歴から危険人物とみなされてしまい、事態は更に混迷していく。図書館職員は恋人であるアパートの管理人の協力を得つつ交渉の前線に立つが、交渉は難航。状況は膠着し続けてしまう。
ホームレス問題が非常に重い。オープニングから路上に横たわるホームレスの姿を映し出し、行き場のない人々の悲しさが伝わる。貧困や社会に適合できない等々問題は根深いと感じた。日本の片田舎に住んでいるオレはホームレスを眼にすることはまれだが、遠いアメリカでは以前から根深く問題が取り上げられている。が、彼らを決して悲惨に描かず、何か間の抜けた愛すべき変人として取り上げているので作品内の雰囲気は明るい。元兵士の初老の黒人のリーダーを中心にホームレスたちがまとまり、声を上げるシーンには熱いものを感じた。
そんなホームレスに振り廻される図書館職員には生粋の映画人、エミリオ・エステベス。近年は製作者としても活躍中だが、久しぶりに映画に出演しているのを観ると、過去の悲しさを抱えた真面目で愚直な人物を見事に演じていた。図書館の同僚からは慕われ、ホームレスたちの立場に共感して、彼らの行動にも付き合う誠実さを淡々とした演技の中から感じ取れる。警察には図書館に立てこもり、ホームレスたちを人質にとった危険人物とみなされるが、彼を慕う仲間たちが汚名を晴らそうと奮闘する姿に、彼の人望の高さがうかがえた。警察と交渉した際に口ずさんだスタインベックの「怒りの葡萄」の一節に世の中の不条理に対する怒りを表しており、さすが名優と思わせてくれる。オレも読んだなぁ、「怒りの葡萄」。海外文学読んでたらカッコよく見られるかもと思って。
その彼に対するのは図書館の対応を糾弾した、市長選へ立候補表明している検事と、家出した息子を探す警察の交渉人の二人。検事役のクリスチャン・スレイターの野心家の立ち振る舞いがなかなか新鮮。この人は正義感のある役どころで見た作品が多かったので、悪役やってるのは意外。それが似合っていたので多分本人楽しく演じていたんでないだろうか。その検事に現場介入されるの警察の交渉人がアレックス・ボールドウィン。アメリカの頑固親父の風体で、いかにも刑事って感じだが、息子が家出してしまい苦悩している悩み多き人を体現。そんな彼が検事に現場に口出しされて怒りをこらえながら陣頭指揮を執っている姿が可哀そう。そのうち検事をドツいてしまうんでないかとハラハラしてしまった。図書館職員を信じるアパート管理人の恋人と眼鏡の女性同僚も魅力的。彼女たちの小さな奮闘が図書館職員の支えになっていることに感動を覚えた。
根深い社会問題を扱い、なおかつ図書館職員が不条理な扱いを受けるためか、明るめの作品なのに観ていると重くのしかかる辛さを感じる。幸いオレは職に就き、住む場所もある身分となれたが、ホームレスの憂き目に逢う人は現実にいる。それが海外でも日本でも。それを解決できない社会に憤りを感じるし、やるせなさも感じる。更にメディアが刷り込む情報操作にも怒りを感じてしまう。一般庶民のオレが解決できる問題ではないが、より良い世界であるために救済、改善してほしいところ。問題提起としてはなかなかの作品ではあった。
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