働きやすい職場を目指して~メンタルヘルス対策と課題~
企業におけるメンタルヘルス対策の重要性
近年、働き方改革やテレワークの普及に伴い、企業におけるメンタルヘルス対策の重要性がますます高まっています。社員が心身ともに働くことは、企業の生産性や業績に直接影響を及ぼすであろうことは、各種調査結果を見るまでもなく感じている方も多いのではないでしょうか。
社員に対するメンタルヘルス対策を行うことは、企業の生産性向上や離職率の低下につながり、持続可能な経営の基盤を築くためには率先して行うべき課題と言えます。
特に社員の離職率を下げるための対策は、昨今の人材不足、採用困難な状況においては率先して行いたい事柄です。
また、中小企業では研修など人材にかけるリソースをあまり多く割けないことからも、すでに即戦力として会社の根幹を担っている社員の離職は避けたいのではないでしょうか。
精神疾患とメンタル不調の現状
日本における精神疾患の状況について、厚生労働省の「患者調査の概況」によれば、精神疾患を抱える患者数は増加傾向にあります。
特にうつ病や不安障害などのメンタル不調が多く報告されており、労働者の健康管理における課題として認識されています。
さらに、独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査では、メンタルヘルスに関する問題を抱える労働者の割合が増加しており、メンタルヘルス問題が企業のパフォーマンスに負の影響を与えると考える企業が多数存在することが明らかになっています。
メンタルヘルス問題の現状
先の厚生労働省の調査によると、労働者の約60%が仕事において強いストレスを感じていると回答しており、このような状況は、過労死や過労自殺といった深刻な問題を引き起こす原因となり得ます。
またコロナ禍においてテレワークが増えたことにより、孤立感や不安感を抱える労働者が増加しているといった調査結果もあります。
業務上のメンタルヘルス問題に絞るため、厚生労働省の令和4年度の「過労死等の労災補償状況」の結果を見てみましょう。
請求件数:精神疾患に関する労災請求件数は2,683件で、前年度から337件増加。このうち、未遂を含む自殺件数は183件で、前年度から12件増。
支給決定件数:精神疾患に関する支給決定件数は710件で、前年度比81件増加。未遂を含む自殺の件数は67件で、こちらは前年度より12件減少。
業種別:「医療、福祉」が最も多く、請求件数624件、支給決定件数164件。次いで「製造業」「卸売業、小売業」が続く。
年齢別:請求件数が最も多かったのは40~49歳で779件、支給決定件数も同じく40~49歳で213件である。
原因事象:パワーハラスメントが最も多く、支給決定件数は147件。他にも「悲惨な事故や災害の体験」「仕事内容・仕事量の大きな変化」などが続く。
これらのデータから、精神疾患に関する労災認定が年々増加していることが確認されます。年齢別では企業の中核を担っているであろう40代の方々が多いため、業務に支障が出るのではないでしょうか。
またパワーハラスメントが大きな要因となっており、ハラスメント教育が重要であることがうかがえます。
それに続く原因として「仕事内容・仕事量の大きな変化」についても気にする必要があります。コロナ禍でテレワークへ移行した企業も多くあり従来とは違った働き方となりました。そして、コロナ禍で控えられていた転勤などの人事異動が復活したり、人手不足から仕事量が増えたりしているのではないか、と推察します。
決められた人事異動で急な異動ではないにしろ、転勤等がなかったことにより仕事環境が落ち着いているところでの環境の変化は余計にストレスを受けなるのではないでしょうか。
また、昨今人手不足によって社員一人にかかる業務量の増加は問題になっており、早朝から深夜まで働く、休憩がまともに取れないなど、心身ともに削られていくのは必至です。
テレワークは働く環境として大歓迎の人もいましたが、プライベートとの切り分けが難しく意図せず長時間労働となったり、同僚や上司の様子がわからず仕事の相談がしにくかったり、スケジュール管理が得意でない人にとっては業務に支障が出たりすることもあります。
携帯電話やネットの普及により、いつでもどこでも連絡が取れるといったことも仕事から離れる時間を持ちにくく、緊張状態が続くといったこともあります。
メンタルヘルス対策の具体例
1.定期的なストレスチェックの実施
ストレスチェックは、労働安全衛生法に基づき、50人以上の従業員がいる企業に対して義務付けられています。定期的にストレスチェックを行い、その結果をもとに適切なフォローアップを行うことが重要です。
産業医の先生方とも協同して進めていくことが大切です。
2.メンタルヘルス教育の推進
全社員を対象としたメンタルヘルス教育を実施することで、自己管理能力を向上させ、早期に問題を発見・対処することが可能となります。
ストレスマネジメントやリラクゼーション技法を学べるよう、定期的に研修を行いましょう。また各種機関は動画などを公開しているので、参考にしましょう。
メンタルヘルスの原因事例として多くあったパワハラについて、ハラスメントを起こさせない職場環境づくりは重要で、ハラスメント教育は定期的に行う必要があるでしょう。
3.社内相談窓口の設置
メンタルヘルスに関する相談窓口を設置し、専門のカウンセラーや産業医が対応することで、社員が気軽に相談できる環境を整えることが重要です。
匿名で相談を受け付けることもできるようにし、相談のハードルを下げることができます。
4.テレワーク環境の整備
テレワークを行っている企業であっても、環境整備が追いついておらず、コミュニケーションが図りづらかったり、社員個人のリソースを使ってたり、ルールとしてきちんと運用されていない企業もあると見受けられます。
会社の規模や社員のリテラシーに合わせたコミュニケーションツールの導入や定期的なオンラインミーティングを通じて、社員間の交流を促進し、孤立感を軽減することが重要です。
5.ワークライフバランスの推進
長時間労働の是正や有給休暇の取得促進といった施策を通じて、社員が仕事と生活のバランスを取れるように支援することが求められます。
育児や介護を行っている社員のみならず、闘病をしている社員など社員ご自身の事情で長時間働けない方も対象に柔軟な勤務時間制度の導入や、テレワーク制度の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
メンタルヘルス対策のメリット
生産性の向上:社員のストレスが軽減されることで、集中力や業務効率が向上し、全体の生産性が向上する。
離職率の低下:メンタルヘルス対策が充実している企業は、社員の満足度が高まり、離職率の低下につながる。
企業イメージの向上:メンタルヘルス対策に積極的に取り組む企業は、社会的な評価が高まり、優秀な人材の確保にもつながる。
最後に
企業におけるメンタルヘルス対策は、社員の健康と生産性を維持するために必要な対策です。
定期的なストレスチェックやメンタルヘルス教育、安心して働ける職場環境の整備、相談窓口の設置など、具体的な対策を講じることで、社員が安心して働ける環境を整えることが求められます。
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