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日本の伝統工法でお店を新築

2012年から始めた石徹白洋品店。最初は、私たち家族が実際に住んでいる母屋がお店でした。

玄関入ってすぐのところが元々馬小屋だったので、そのスペースを改修してギャラリーにしました。
その場所に服を展示していたこともあれば、ギャラリーで企画展をやるときは、母屋の「うちんなか」という囲炉裏がある12畳の部屋に棚やハンガーラックなどを設置してお店にしました。

こうして2012,2013,2014年と3年ほどお店をしましたが、2012年の冬に生まれた長男が少しずつ大きくなってきて、自宅とお店を兼ねるのは難しいと
思い始めました。

また、2人目を妊娠し、二人の子供達を同じ建物で見ながらお店をやることに限界を感じてきました。

さらに、そろそろ草木染めをきちんとやりたい、という思いもあって、お店と染め工房・事務所を兼ねられるような、そんな建物を建てたい!という思いが募ってきました。

建物を建てよう。さて、どんな建物?誰に建ててもらう??

そんな時に思いついたのが、兼ねてから「いつかは彼と一緒に仕事をしたい。彼と何かを建てたい」と思い続けてきた”あらべえ”でした。

あらべえとは、荒木昌平くんという飛騨市の山奥に住んでいる同世代の大工です。彼とは郡上市内の林業ワークショップで20代の時に出会い、この世代にしてはとてもユニークな考え方で仕事をやっていました。

何がユニークかというと、日本の建築業界ですでに忘れられてしまった「はつり」を独自で練習し、建築に取り入れていること、そして日本の伝統建築の考え方を大切にしていることでした。

なぜ私が彼と仕事をしたいと思い続けていたかというと、初めて出会った時に、日本の伝統建築がいかに素晴らしいか写真を交えながら熱く教えてもらっていたからでした。私は建築に関する知識も経験も何もなかったのですが、その話がとても理にかなっていて、今、一般的になってしまっているハウスメーカーの「プレハブ住宅」とは対極にある伝統建築の考え方に痛く共感したのです。

ポイントは、
・せっかく新しい建物を建てるのなら、日本の風土に合った建物がいい。
・30年で老朽化するものではなくこれから100年以上使っていける建物がいい。
・素材を無駄にしない作りの家にしたい(=「たつけ」に通ずる)
・日本の伝統建築の技術を継承するような建物にしたい(=「たつけ」作りのコンセプトと同じ)
ということで、彼ならこのような建物を作れると確信してのお願いでした。

石徹白洋品店を始めて3年目。まだまだ何も軌道に乗っていないし、初めての子育てに翻弄されながら一人でぼちぼちやっていたので、そんなにお金はありませんでした。

お願いした時点で、新築の建物を建てる仕事は、あらべえにとって初めてのことでした。あらべえは、初めての新築のお仕事ということでかなりリーズナブルに請け負ってくれることになりました。(その時は、正直、こんなに手のかかる建築になるとは想像もできずお願いしてしまいました・・・)

まず考えたのは、この建物の目的です。どんな要素を入れたいのか、ということ。今思うともりもりなのですが、以下の要素が上がりました。

・服を販売できるスペース
・草木染めできるスペース
・カフェ営業できるためのキッチン(その時は入り口でお茶をできるようにしようと考えていた)
・もしかしたら宿泊受け入れもするかもしれないので、一人くらい泊まれる設備(シャワー室を入れることに)

大垣市に住んでいる設計士の方に建物のレイアウトを一緒に検討してもらいました。ただ、伝統的な建築物なので具体的な設計は建てる本人しかできないということで、大工のあらべえがやることに。

そんなふうにして店舗建築を考えているときに、ある大きな出来事がありました。

私たちが今住んでいる家を紹介してもらう前に、石徹白地区内で私たちが気に入った一軒の古民家がありました。私たちはその家の佇まいに憧れ、そこに住みたいと思っていました。そして家主・Kさんに懇願して譲ってもらえるよう何年もお付き合いを続けていました。しかし、なかなかお借りできる感じではなかったので、結局、今の家と出会い、移住することになったのです。

その家主のKさんから突然連絡があり、「家を解体することになったから、家具とか建具とか、もし欲しいものがあったらなんでも持って行っていいよ」とおっしゃってくださったのです。

ちょうどお店新築について考え始めていた頃でした。

私はそのお家が壊されてしまうことをとても残念に思いました。平屋で庭先は大きないくつもの岩による石畳が敷かれていて、立派で風流な池もつくられた素晴らしいお家だったのです。私たちがどうしてもここに住みたいと思い続けた場所でした。けれど、もう家主さんは壊すことを決められてしまってどうすることもできない・・・

家主さんのご好意に甘えて、このお家の木材や建具をできるだけ生かしてお店に取り入れよう。そうしたらこの家の分身になれるかもしれない。

早速、あらべえにこのことを話し、一緒に解体される家を見に行きました。すると、かなり状態がいいので梁や柱、建具はもちろん、床板も使える部分がありそうということがわかりました。

新しい材を使うよりずっと手間はかかるけど、私自身も、そしてあらべえにとっても、燻されて黒くなった立派な解体材を使うことはしっくりくることでした。

設計はこの解体される家をベースに進んで行きました。真っ白だった設計図がみるみるうちに具体化されていったのです。基本的にはこのお家の間取りに似たものになっていき、壊される家には元々なかった2階については、服のレイアウトができるような広々とした空間を作りたいと、考えていきました。

こうして始まった建設は思いがけずも、この場所で、この時に、私たちにしかできないものになったのです。






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