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ひかり咲く部屋

朽ちたものが好きだ、と書いた日があった。
昨年末。引っ越し先をどんなに探しても見つけることができずにいたころ。
やれることはやり尽くしてしまい、もう私にできることは何も残っていなかった。
ならばすべてをいったん放り出してみようと思った。
やるべきことより、やりたいことを。
そう決めこんで、引っ越しとは何の関係もないところに向かった。
秋葉原のガンダムカフェ。そのグッズコーナーで手に入るスノードームを、まえから私はほしがっていた。
お店に入るや否やすぐにそれを探しだして、ついでにちょっとうろうろしてからレジへ。
引っ越しのことはせめて今日だけでも忘れてしまおうとしていたのに、引っ越しができていろいろなことが落ち着いたらこれを飾ろう、お店を後にして歩きながら、そう自分と約束をしていた。

今日、それを実らせた。

テーブルの上に、スノードム。
持ち上げて、さかさまにして、もとに戻すと、封じられたガラスの中できらきらと光の粒が舞う。朽ちた兵器に、降りそそぐ。そしてすべてが落ちていく地面は、一面の花畑。
戦いの道具が苗床となり、光をいっぱいに浴び、やがて芽吹き、花が咲く。

朽ちているものが好きと私が言ったのは、その先にある何かあたたかいものや穏やかさを思ってのことだったろう。
先の見えない現実が怖くて、もうやめてもいいよと誰かに許してもらいたい、そんな願望もあった。
希望をいっさい失い、眠りについても良いのだと。
だけれど、たとえ天にそうしなさいと命じられたとしても、私はそうそうおとなしく従うわけにはいかなかったはずだ。

世界中のあらゆるものがいつかは必ず朽ち果てる。
その運命に抗いもがく時間が、つまりは人生だろう。

光が舞う。
ながい戦いのおわりを祝福するように。
何であれ結局のところは欲を満たすために必死で生きた日々へと、ひとしく讃辞を贈るかのように。

テーブルの上に、スノードーム。
そのまわりには、私の暮らしにあってほしいと望むものたち。
日記、手帳、カレンダー、文房具、香水、音楽、ゲーム、アクセサリー、ポストカード。
どれも、なくても生きていける。
でも、あれば、ゆたかになる。他の誰でもない、私のこころが。

朽ちたものが好きだ、と書いた日があった。
明日か、何十年も先か、決してわかりはしないその瞬間まで、まだがんばれる、と、そう私は思う。
スノードームの光を見つめながら。
また、がんばれる。
ちいさなちいさな戦いをくりかえし、今度こそもうだめだと何度も確信しようとも、しつこく可能性にしがみつきつづけて、しぶとく乗り越えていくことだろう。
朽ちた自分を好きだと言えるように、やがて訪れるそのとき、なっていれば良い。




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たかこ(旧いと)
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