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海のツチノコを食べつくす


ツチノコってこれのことでは?

ツチノコ。日本に生息すると言い伝えられている未確認動物(UMA)のひとつ。胴体部分が膨れたずんぐりむっくりの蛇のようなアレ。

その神秘さと間抜けさが混在した存在感に、強く魅了された少年時代、山や池を真剣に探した時期もありました。

しかしそんな少年ももはや中年。ゴミ出しや風呂掃除など暮らしの苦行に追われるうち、いつしかその存在も頭から消えていたのですが、数十年の時を経てまさか海からあがってくるとは。 

ツチノコって、多分これ、マゴチのことでしょう。だってそっくりだから、昔の人らが描いたイラストに。

井出道貞『信濃奇勝録』(1834年脱稿1886年出版)に描かれた「野槌」。下記の翠山の画とともに、最も古いツチノコの図像といわれる。畔田翠山『野山草木通志』に描かれた「野槌」(Wikipediaより)
畔田翠山『野山草木通志』に描かれた「野槌(マゴチ)」(Wikipediaより)

夏の「照りマゴチ」ならぬ「闇マゴチ」を釣る

新しい釣り竿を買ったのです。それでウキウキして、夜の8時頃から近所の砂浜に試し投げに行きました。

マゴチは浅い砂浜にいて、6月~7月頃が釣りの最盛期。釣りやすく、食べても美味しい旬であることから、太陽がカンカン照りな真夏のマゴチを「照りマゴチ」などと言って、釣り人に人気です。

しかし、近年の酷暑はヒトが生き残れるレベルではないので、僕は日中を避け、深夜12時~や、朝方4時~など、暮らしのブラックボックスのようなおかしな時間にいそいそと砂浜に向かうのです。

ウソみたいだろ、高級魚なんだぜ、これで

ゲリラ豪雨の後の長潮という、釣りにとっては最悪のコンディションのなかルアーを投げていると、着底と同時にゴゴン!とアタリが。しばし格闘した後、45cmのツチノコ、じゃなくてマゴチが現れました。

ちなみに夏の活魚のマゴチは大変高級で、この見た目からは想像できないほど美味しい白身がとれます。

夫婦仲良しなマゴチ、だが・・・

ところで、マゴチは夫婦仲が良いらしい。いつも夫婦仲良くつがいでいるので、1匹釣れると、すぐにまた相方が1匹釣れるなどと言う地域もあるそうです。


コチは夫婦仲がいい
常に雄雌、夫婦仲良くつがいで暮らすと相模湾などでは言われている。先に1尾釣れると、必ずその夫婦片割れが釣れる。1尾釣ると2尾目がくるとも。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑より

ところが、僕が夜に釣ったマゴチは、そのあと同じ場所に何度もルアーを打ち込んでも2匹目が釣れることはありませんでした。マゴチ夫妻の夫婦観も、時代とともに少し変わってきているのかもしれません。自立し合うパートナーでいようね、みたいな。「貴方が釣られても、私は追わないから」みたいな?

朝5時にサイズアップで1匹追加

届いたばかりのロッドで、2匹目のマゴチ。うれしい

一旦帰宅し、ネットフリックスを見て寝落ちして、目が覚めたのが朝方4時。再び海に向かい、朝5時に55cmのマゴチがヒット。

ちなみにマゴチは「雄性先熟」といって、40cmぐらいまでは全て雄で、40㎝以上は雌に転換するそうです。

ということはマゴチ夫妻は、妻が大きく、旦那は小さいという凸凹夫妻なのか……、てか、何故マゴチ夫妻のことをこんなに考えねばならぬのか。他所様の夫婦事情などどうでもいい。そろそろ帰らねば、奥さんが朝の忙しい時間に釣りに行っていることで激怒しているかもしれない。自分の家庭のほうが大事だ。早く帰ろう、そうしよう、と足早に帰宅します。

マゴチをあらゆる料理で喰らいつくす

2匹のマゴチを見せると、奥さんは「いいね」と一切の表情を浮かべない能面のような顔で言いました。

このところ魚を釣りすぎて「魚飽きた」という衝撃的な告白を受けていたのと、バカの一つ覚えのように麵つゆで煮る調理法に飽き飽きしているのがビンビン伝わってきます。

「やばい、このままでは離縁される」と危機感を募らせた僕は、マゴチをあらゆるレシピで喰らいつくすべく、マゴチと向き合うのでした。

撲殺できるレベルのデカさ、下処理は肉体労働だ

海ですぐに締めて血抜きはしてきてあります。内臓をとり、水分をしっかりふいて、キッチンペーパーの布団でくるんであげてひと晩寝かせます。おやすみなさいマゴチさん

布団から頭出してるみたいで、ちょっとかわいい
1日冷蔵庫で寝かした状態。まるでこん棒

どんな魚も50cmを越えてくると、背骨を断ち切ったりするのが非常に大変。1m近いブリなんて、包丁を木槌で叩かないと切れない。そこまでではないけれど、55cmマゴチもなかなかの背骨の太さで切るのに一苦労。ナタが欲しい。

顔の横にある鋭い棘。刺さるとめちゃ痛い
背びれ、腹びれも尖ってて危険

マゴチはヒレの先が固くて尖っているので、最初にキッチンばさみで切っておきます。顔の横にもなぞの棘があって危ない。さばく前にすべて切り取ります。


3枚におろした状態。マゴチは骨が身を巻くようについているので、少し面倒。血合いにある骨はピンセットで抜く

時間がないので「である調」で進める。
ウロコをとったら、あとは普通に3枚におろす。皮を引くかは、どんな料理にするかによって判断。これは刺身用なので皮を引いた。

マゴチの皮の湯引き

マゴチは皮も美味しい。皮と身の間にぷるぷるしたコラーゲン質な部分があり、煮ればとろとろになる。今回刺身用に引いた皮は、サッと湯引きしてから冷水で冷やして、千切りにし、もみじおろしとポン酢であえてツマミにしてみた。

酒のアテに最高なのは間違いないのです

コリコリ、プルプルの皮ポン酢。旨味のあるセンマイに魚の身がサービスでついているような感じで美味。合わせるお酒は地元四日市で作られるキンミヤ焼酎。

マゴチのカルパッチョ

刺身にしようと思ったけれど、それも飽きたのでカルパッチョに変更。クセがない上品な白身なので刺身系は何をしても美味しい。

遺体解体の様相

こちらは、いわゆるアラ。右上から時計まわりに、頬肉、中骨、ハラス。マゴチの頬肉は特に美味しいので、煮魚好きの息子用にする。

便利すぎるニトリの両手鍋

鍋にぶちこみ、醤油・酒・みりん・砂糖を適当に放り込んで煮る。粗熱をとって冷蔵庫にれておけば味が入っていく(気がする)。

メインディッシュは中華風マゴチ蒸し

ぶつ切りにした切り身。ヘビにしか見えない

「魚飽きた」発言をうけて、今回できる限りレシピのバリエーションを拡大するのが最重要ミッションとなったので、初めての蒸し料理にもチャレンジしました。

初めて作ったこの料理が規格外の旨さだった。そしてニトリの両手鍋は蒸し器としても活躍

ぶつ切りにしたマゴチ切り身に、にんにく、しょうが、ねぎの千切りをのせて料理酒をふりかけ、薄く水をはった鍋に皿ごといれてフタをして蒸すこと10分。

蒸しあがったら、オイスターソース、しょう油、お酢を各大さじ1杯ずつ回しかけ、最後に熱したごま油をジュワワ~ッと回しかけて完成!

これが、死ぬほどうまかった!このタレは蒸し鶏や唐揚げなど、何にでも応用できそう。最後に奥さんと二人、おつゆをご飯にぶっかけて、豚の夫婦みたいにフガフガ喰った(豚の夫婦は仲が良いのかしら)。

これが海のツチノコの満漢全席だ!

ということで、マゴチのフルコース4品が完成。

唐揚げやフライも美味しいのだけど、大抵の魚は揚げてしまえばそれなりに美味しくなるので、今回はなしに。

「煮ても焼いても食えないやつ」って言うけれど、「煮ても焼いても揚げても食えないやつ」と言わないのは、この世は揚げたら食えるものがほとんどだからだと思う。

ということで、今回のお品書き。

・マゴチの皮の湯引きポン酢
・マゴチのカルパッチョ
・中華風蒸しマゴチ
・頬肉の煮つけ

全部美味しくて、奥さんも「やっぱり魚飽きてへんわ!麵つゆに飽きてただけやわ」と言っていたので、引き続き釣りは継続できそうです。ごちそうさまでした。







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