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おやじ顔魚の滋味深鍋

口数は少なくとっつきにくいけれど、ふとした時に見せる優しさがじんわり心に染みわたる。そんな頑固おやじのような魚たちを、冬の夜釣りで釣って食べて喜びます。

クロソイ親方とタケノコ親方

先日、夜中の4時頃~夜明けにかけて防波堤で釣り糸を垂れてきました。朝マヅメにサワラを釣りたく、その前になんでもいいから何か釣れないかなあと思ったからです。サバの切り身を付けた針とオモリを堤防の足元み放り込んでおくと、すぐに竿先の鈴が鳴り、根魚たちが遊んでくれました。

一番大きかったのはクロソイ親方です。漢字で書くと黒曹以。北海道を中心に日本の北の方で釣れる魚らしいですが、三重県でも夜釣りでたまに釣れます。

どて~としたふてぶてしいクロソイ親方

見た目はお世辞も美しいとはいえません。全体に黒っぽく、体表はヌメり、図体はでかいけどだら~んと締まりがなく、家に帰ったら何も手伝わないで寝転がってる系おやじのような体型です。

タケノコメバルの親方

続いてタケノコメバルも釣れました。名前の由来はタケノコが採れる時期が旬だからとか、模様がタケノコ色だからとか、諸説あるようです。メバル科ですが、どちらかといえばクロソイと同じカサゴ科のような体つき。これまた表面がヌメっとブヨっとした、ダイエット前の痛風おやじのような体つきです。

加齢臭が漂ってきそうな面々

夜中4時~朝6時まででクロソイ2匹、タケノコメバル2匹、カサゴ1匹が釣れました。同じ根魚でも、アカハタやオオモンハタなどの美しいハタ族に比べると、見た目の中年おやじ感がすごいです。

色は地味だし、顔はでかいし、ヌメヌメしてるし、おまけに、長時間プールに浸かっていた皮膚のような、カルキ水っぽいニオイまでする気がします。これが魚界のチームおやじ顔たちの加齢臭というやつでしょうか。

とまれ、魚の臭みの原因は、皮の表面のヌルヌルだったり、血抜きが上手くできていなかったり、足が早く内臓が傷んでいたり、さばくときに内臓を傷つけて身にニオイが移ったりと、相場が決まっています。

逆に素早く血抜きをして、ウロコとぬめりをとり、鮮度が落ちないうちにきれいに内臓処理を行えば、臭み問題はほぼ回避できるというものです。

頑固おやじたちの銭湯鍋

中年男性が好きなものといえばスーパー銭湯とサウナです。ということで、今回はチームおやじ顔魚たちを、我が家のプライべート銭湯(鍋)にお招きしました。

頑固極まりない顔つき。何を言っても話が通じなさそう。口のへの字がすごい
かけ湯をしてこざっぱり

まずは体をきれいに洗い、エラと内臓、ウロコをとり、軽く熱湯をかけて臭みを除去します。いわば入浴前のかけ湯です。

並べられたおやじ顔魚たちは、サウナ上がりのようにこざっぱりとした様子に。

本当は皮が美味しいらしい

臭みやヌメリ、妬み嫉み、長年積もった中年男性特有の頑固さやプライド、そんなものをすべて除去し、皮を剥いだあとに現れたのはとても美しい白身でした。

日焼けして真っ黒な頑固おやじが、銭湯の脱衣所でパンツを脱いだらお尻が妙に生白くてきめ細かく「あ、この人もともとは色白なんだ」と意外に思う時と同じ感想が胸に浮かびました。

チームおやじ顔魚たちが入る本日の替わり湯は、自分たちのアラからとった出汁風呂

つづいて、おやじ顔魚たちが浸かる銭湯の準備です。おやじ顔魚たちのアラからとった出汁に、入浴剤代わりの醤油や酒を加えて本日の替わり湯の完成です。

アラ出汁風呂に、冷蔵にあった適当な野菜や豆腐と一緒におやじ魚たちの切り身を放り込みます。

しっかりお湯に浸かり、身も心もホクホクに温まったら完成です。

クロソイもタケノコメバルもとっても淡泊でホクホクしています。堤防で会った時の姿からは想像できないほど上品でおおらか、優しくて知的。

特別に脂がのっているわけでも、旨味があるわけでもありません。でも逆にそれが鍋のいろんな味をすべて受け止めて聞いてくれる懐の深さにつながっていて、体の奥底からじんわり温めてくれます。派手さはないけれど、真面目で実直に美味しい。それがおやじ顔魚たちの真骨頂です。

お鍋が美味しくなるこれからの冬は、堤防から釣れる魚も極端に少なくなる季節。おやじ顔の根魚たちは、そんなオフシーズンにも釣り人に付き合ってくれる、縁の下の力持ち的な魚でした。


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