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わたしは青いピルでいい

映画学校の課題で5分間の短編映画の脚本を書きました。
出演者は男女3~4名、撮影場所は公園か道という縛りがあります。

大学生男女4名 ゆきの、さき、拓斗、航平

<一幕> 
○パソコンの画面の文字
櫻井ゼミのみなさんへ
お疲れ様です。来週の課題は「自由意志」。神経科学者ベンジャミン・リベットが行った実験研究をふまえ、「自由意志」についてほかの事象と組み合わせ一万字以内で論じなさい。なおAIに頼らず自分の言葉で書くこと!

○学校 パソコン室
ゆきの、パソコンでMicrosoft Teamsのメッセージを読んでいる。
別のタブでChatGPTを立ち上げ課題をコピペし張りつける。
画面のスクロール、ゆきのの目が動く、首をひねる
YouTubeの画面「リベット。自由意志」で検索。スクロールし、一つの動画をみる。
ゆきの「え? うそ? どういうこと?」

<二幕>
○大学の屋外テラスのテーブル
ゆきの、座ってパソコンに文字を打ち込んでいる。
さきと拓斗が手を振って近づく「ゆきの~」
さき「あ、課題?」
ゆきの「うん、二人はもう終わった?」
拓斗「まあね、ちゃちゃっと」
ゆきの「もう、全然わけがわかんないだけど。こうやって腕をあげようと思うちょっと前に、脳は腕をあげるって決めているってことだよね。だから自由意思はない。え? じゃあさ、誰が決めてるの?」
拓斗「誰って人じゃないよ。脳のニューラルネットワークだよ」
ゆきの「その脳は私の脳でしょ? じゃあ私が決めてるっていうことでいいじゃん」
さき「その私っていうのが、そもそも錯覚なんだよ」
ゆきの「ええ~、ますますわけわかんない」
さき「私は自由意志を原始仏教に絡めて書いたんだけどね」
拓斗「お! 諸法無我」
さきと拓斗、声を合わせて「自分なんてないから」
ゆきの「なに? 全然わかんない」
さき「何千年も前にお釈迦さまが発見したことが、現代の科学の見解に一致しているんだよ」
拓斗「すごいよな~」
ゆきの「待って。わたし、ついていけない。拓斗は何に絡めて書いたの?」
拓斗「マトリックス、映画の」
ゆきの「ああ、こうやってエビゾリするやつ」と言ってポーズ。
さき「そこじゃなくて」
拓斗「現実だと思っていることは、脳の中にあるだけって話」
ゆきの「えっ、嘘。あるじゃん。ここに現実」
さき「例えばね、物体は色の周波数を発生しているだけで、赤だな、黄色だなと判断して、実際に像を結ぶのは脳の中で行われていることなのよ」
ゆきの「え~、わかんない」

<第3幕>
○道
航平「なんか元気ない?」
ゆきの「うん。私って何も知らないんだなって。みんなが知っていること、何も知らない」
航平「知らなくていいことは知らなくていいんだよ」
ゆきの「ねえ、わたし、ここに居るよね。航平もここにいる。これは現実でしょう?」
航平、静かにほほ笑む
ゆきの「わたしの航平に対する気持ち、これも本当。たしかにここにある。嘘じゃないし、錯覚じゃない」
航平、静かにほほ笑み続ける
ゆきの「なんか、よくわからない科学者の人がさ、勝手に錯覚とか言っててさ、そういうのなんかいや。ねえ、これが現実だよね」
航平「知らなくていいよ。知らない方が幸せだよ」
ゆきの「そんな風に言われるとますます知りたくなる」
航平「ゆきのはそのままでいいんだって」
ゆきの「それは、わたしがバカなままでいいってこと?」
航平「う~ん。じゃあさ、赤いピルを飲む覚悟はある?」
航平ポケットから何かを取り出そうとする。
ゆきの、戸惑う「え? いや、え?」
航平「まあ、ゆきのがそれを選ばないってことも実はもう決まっているんだけどね」
<END>


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