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2021年4月の記事一覧

像花

後悔は戻れない時間の前に人を置き去りにする。 ぼくはベンチに腰をかけ、光に震える木葉を見つめていた。 葉と葉の先端が、指先と指先のように、 絡まったり離れたりしながら、 太陽の煌めきの中で、踊るように揺れている。 キラキラと瞬く光の調べは、 目の前に、いつか見た光景、 いつかの並木道を連れてくる。 あの日の画、 歩くぼくたちは夏の真ん中。 少し先をゆくキミの背中に触れようとすると、 それは叶わなくて、また、時空が拗けていく。 ぼくの皮膚だけが、歪む空気をすばやく察知する。

宝石箱

わたしのことばが あなたを夜へ送り込んだ日。 そのまま闇に包まれて、 あなたの姿は見えなくなってしまった。 心は、 太陽に齧られた月のように欠けた。 食い千切られた歯型の痕が、 身体の中にうっすらと浮かび上がる。 いびつな三日月の影は、 泪のように滲みながら 身体の中をじわじわと広がり 皮膚から溢れて わたしから抜け落ちていった。 「宝石箱を落としたの」 背後から女の子の声、 振り向くと、 ことばだけ置いて消えてしまった。 溢れでた影が 霧のように目の前に立ち上がって