読書感想文(武器としてのヒップホップ・プロレス社会学のススメ)
2022年はなんか同じ数字が多くてなんともいえない落ち着きの悪さがありますね。今、私と妻はちょうど37歳と43歳でセクシー素数の関係にあって非常にいいね、という話を妻にして気持ち悪がられたのですが、じゃあ2021は素数かなと思ったら43*47なので素数ではない。そういう一筋縄でいかないところが2021年にはあった気がしますが、2022年は悪い意味での単純さが出る年になると、占い師の境リョウジさんが言ってました。そんな人はいないのですが。
昨年の衆院選の結果からも感じたのですが、何となく世の中がただ単純さを求めているような、そんな嫌な空気が蔓延している気がします。VUCAの時代だのなんだのという言葉をいっぱい見た気がしますが、混沌の中で人が何を求めるかといえば、そりゃ単純な答えですよね。そんなことはみんな分かっているから、悪い奴らはそこを狙って、悪い人にとって都合のいい単純な答えを用意してくる。人間が混沌を受け入れられるのは余裕がある時だけ。
そんなイヤーな雰囲気を何となく感じている中で、去年たまたま「ヒルカラナンデス」という配信をYouTubeで見つけて見始めたのですが、まー面白い。すっかり毎週の楽しみになりました。
ダースレイダーさんとプチ鹿島さんお二人のトーク番組で、プチ鹿島さんについてはサンデーステーションの新聞読み比べコーナーとかで存じ上げてはいたのですが、いたって真面目な方だと思ってたら全然違った。角度でいえば80度くらいはずれてた。ダースレイダーさんは何となく日本共産党のイベントとかの告知に乗ってたなー、とかの印象でしたが、新耳袋 殴り込みに出てるとかで自分の嗜好とマッチしてたりしていて不思議な縁があるなあ、とか思ったり。
そんなお二人が近い時期に本を出されたので、二冊とも買って年末年始で読み切ったので、感想を書く。(以上、長い前置き。)
最近、感想を書かないと読んだ本のことをすべて忘れる体質になってきているので、今年は出来るだけnoteに感想を残していきたいと思っています。
『武器としてのヒップホップ』(ダースレイダー)
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ヒップホップについての本ではなく(ヒップホップについても書いてあるのだけど)、ヒップホップの視点から世界を見るとどういう風にとらえられるのか、を中心的なテーマに書かれている。
前述した世の中の「単純さを求める」空気をぼんやりと感じているのだけれど、その中で第一章で「世界はそもそもカオスである」という捉え方はとても共感できた。つまり、自分が感じている気持ち悪さは「そもそもカオスであるものを秩序に押し込めようとする」世の中の流れなのだなあ、と理解した。
「幸せなのだからそれだけのことをなしている」、「不幸な環境にいるのはそれだけのことをしてこなかったから」といったシンプルな構図は、シンプルなだけに突き崩しがたい論理だけれど、そもそもカオスな中でそんな単純な因果関係が成り立つという発想が間違っている、という視点は持つ価値がある。
一方で、妻も子供もいて、自力で金を稼ぐことに自信を持てないサラリーマンとしての自分は、いかに生活を安定させるかに意識が向いてしまうのもまた事実で、視点としては持つことができても行動は起こせない。気持ち悪さを感じながら秩序に織り込まれ、その秩序を利用しようとする。本に書かれている通り、「死は変わらずそこにいる」ので、その安定はかりそめでしかないのだけれど、かといってその舞台から降りて違う選択肢を取ることはかなりの決断になる。
その決断を取りやすくするためには、「どうあっても君たちは生きていけるよ」という社会・行政からのメッセージがあればいいなと思うのだけれど、残念ながら選挙結果は正反対の方向へ向かっている。
ひょっとしたら、もう少しヒップホップが身近になればその決断もしやすくなるのかもしれない。ということで、今年はヒップホップの勉強をしていこうと思う。
その他、つまみ食い的に本の中で面白かったところを最後に書くと、「笑っていいとも終了=日本のターニングポイント」説と、出産直前の奥さんのおにぎり食べちゃった話かな。後者は似たような経験もあり、心から笑いました。あと、ヒップホップに詳しい妻に、登場するラッパーやDJについて話すとすぐに体験談が帰ってきてすごいなと思った。ヒップホップに詳しいパートナーを持つ人はぜひ。
『プロレス社会学のススメ』(斎藤文彦・プチ鹿島)
https://www.amazon.co.jp/dp/B09PB48DZT/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1
プロレスはnWoジャパン末期くらいから見始めて、一時期は結構はまっていたけれど、いつから見なくなってしまった。オカダとか内藤が出てきたタイミングは見てないのは確実。プロレスが好きか嫌いかと言われれば好きなのは間違いない、というような感じです。今も普通にやってれば(そして、プロレスとか全然好きじゃない妻が不在なら)見たい。
ということで、プロレスへの親和性がある人間が読んでいるという前提にはなりますが、こちらはめちゃくちゃ面白かったし、そういう視点は確かになあ、と気づかされることが多々。
多くの人は「プロレスってどうせ勝ち負け決まってるんでしょ」という認識の中で、「だからこそ勝ち負けが大事」という視点や、「負けたいプロレスラーなんているわけないという当たり前のことになぜ気づかないのか」というメッセージは強烈。自分も陥りがちですが、評論家になるとその舞台に立っている人たちの気持ちや視点をどうしても忘れてしまう。プロレスを見て(そしてしっかり考察して)いれば、そんな陥穽に落ちることはない。(断言)
他方でプロレスには大きなストーリーがあること自体も否定はしておらず、そういった折り合いの中で物事が進んでいくんだ、という当たり前の話が、プロレスという視点を通して浮き彫りになっていくのは非常に面白い。結局のところ、いい本というのは世の中に潜んでいるあれやこれやをどう面白く伝えるかという点にあるのであって、この本はこの3人の語り手がプロレスというファインダーを通してとても面白く、分かりやすく語ってくれる本だ。相当クセの強いファインダーなので、読む人はかなり限定されるが。
一番興味深かったのは「力道山がなぜあそこまで戦後に力をもってプロレスを推し進めることができたのか」というストーリーで、パスポートの話とかは「へぇ~」と独り言を漏らしてしまった。政治ってのはいつの世の中も汚いものですわ。少しでも興味がある人はぜひ読んでください。