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パナソニックを応援してる話

パナソニックが頑張ってるのに、メディアの報道が上っ面でつまらないので、他社の俺が製品は否定しつつも絶賛するという記事です。

パナソニックが新しいスピーカを発表

パナソニックは10月4日、京都の手作り茶筒の老舗「開化堂」と共同開発したワイヤレススピーカ「響筒」(きょうづつ)を発表。2019年11月8日から開化堂で100台限定で販売。価格は30万円。

胴体部分が茶筒になってて、蓋を開けると茶の香りが広がるように音がフワッと広がり、蓋を閉めると茶筒のあのヌッとした感じで音がフェードアウトしていって面白いというのが売りの商品。

パナソニックプレスリリース:
https://news.panasonic.com/jp/press/data/2019/10/jn191004-1/jn191004-1.html

30万円の価値はない

30万円のワイヤレススピーカというのは、破格の値段だ。多くの人にとっては、それだけの価値を見いだせないだろう。

例えば、ソニーの最上位クラスのワイヤレススピーカー「SRS-XB501G」は、野外でも高音質で重低音もしっかりと表現できる上に、ライトとかイルミネーションとかパリピ機能まで搭載してる。ソニーストアで、34880円だ。

他にも、高級スピーカで有名なBOSEのワイヤレススピーカの最上位機種「S1Pro」は、内蔵の3チャンネルミキサーや、ポジションに応じて自動で音質を最適化する機能もあり、アマチュアからプロまで広く支持されている。BOSEストアで、85800円だ。

このように、トップメーカの上位機種でも10万円以下なので、基本的にワイヤレススピーカで10万円を超えるような商品というのはかなり少ない。
ただ、上記2つと「響筒」は使われるシーンやニーズが違うかもしれないので、僕らの生活にもう少し寄り添うような、家具のようなスピーカと比較してみたらどうか。
高級オーディオメーカとして知られるBang & Olufsenのスピーカ「Beoplay A9 mkII」。極めて優れたデザインは、それ自体が新たな価値を生むことがあるが、これもまたそんなオシャレの向こう側にいってるような商品だ。公式ストアで€2,750(約32万円)。

値段的にも、提供価値的にも「響筒」の競争相手としてはこの「Beoplay A9 mkII」あたりではないかと思う。しかしながら、音質や再現性、デザインの革新性、総合的な空間演出、いずれも勝っている点は無いと思う。恐らく、パナソニックもそれを理解しているからこその100台限定販売としてるのだろう。

100台限定というのは、パナソニックの規模からすれば、売る気が無い、売れると思ってない、工業製品として極めて少ない数だ。たぶん組立工程のほとんどは手作業だろう。1ロット何台生産なのか、部材調達や生産管理などをどうやってるのか聞いてみたいところだ。とにかくパナソニックブランドとして出す商品としては非常に小規模。開化堂の筒部分の工賃は支払われるだろうが、パナソニックとしての利益はほぼ無視に近いのでは無いだろうか。

プレスリリースの異常性

パナソニックのプレスリリースには、変なところがある。2015年からプロジェクトが発足しており、何度か展示会で発表をし、受賞もされてもいるが、4年かけて、この儲からないスピーカ1個をやっと商品化したらしい。

2015年から、当社の家電のデザイナーが、京都の伝統工芸の継承者とともに、日本の感性とモノづくりの原点を探り、未来の豊かなくらしを実現する新たな家電を研究する共創プロジェクト「Kyoto KADEN Lab.(京都家電ラボ)」に取り組み、さまざまなプロトタイプを開発してきましたが、商品化するのは今回が初めてです。(引用元:パナソニックプレスリリース

大炎上、糞プロジェクトである。「研究」とは言っているが、コンセプトモデルだけを発表しつづけ、商品化されない4年間だ。4年を文字で書いてしまうと短いようだが、中学3年生ならば、高校受験をして、高校入学して更に大学受験をして、大学に入ってるような年月が4年だ。その間、利益に繋がる成果を上げれず、社内のやっかみに耐え、頑固な職人達と噛み合わない話をしながら、ひたすらリソースをつぎ込んでいったのだ。想像するだけで地獄ではないか。ちなみに、ここ数年のパナソニックの研究開発費は右肩下がりで推移している中でのプロジェクトだ。

(引用元:バフェットコード

ただ、逆に言えば、それだけ本気だったからこそ4年も続いている。

「未来の豊かなくらしを実現する新たな家電を研究する」

こんなことを本気で大真面目に考えていたのだ、パナソニックという組織は。今回のプレスリリースで一番異常とも思えるポイントはここだ。

なぜ儲からないスピーカを4年もかけて作ったのか?

恐らくだが、「未来の豊かさとは何か?」という大きすぎる自問に答えることが出来なかった。あるいは大きすぎて開発の方向性を定められなかった。

そこで次のアプローチとして、伝統工芸や日本古来の文化には、我々がまだ気付いていない普遍的価値があると考え、そこに現代的な技術を組み込み、家電製品に転化しようとしたのだ。温故知新だ。そして、大真面目にそれを実行した。

単に、銅製のスピーカを作るだけなら4年も掛からない。スピーカの見た目を伝統工芸風にするだけなら、パナソニックの技術者なら半年あれば量産化まで持っていける。しかし、今回の「響筒」には4年掛かっている。つまり、彼らの作ろうとしていたものが、見た目に伝統工芸を貼り付けただけのデザイン家電ではなく、伝統工芸の文化的な楽しさが機能として実装されている家電であり、新しい豊かさが感じれる家電だったからだ。

だからこそ、プレスリリースにある商品説明が下記のようになる。

<主な特長>
1. 手のひらで音の響きを感じる新しい体験
2. 開化堂の茶筒ならではの密封性を生かした、香りが広がるような音の表現
3. 使うほどに味わいが出る真鍮の経年変化

パナソニックは、日本文化的な楽しい家電を、コンセプトモデルとして数台つくるのではなく、パナソニック品質をクリアできる水準かつ大量生産できるレベルの家電にして、世界中の人々の生活を豊かにしようと考えているのだ。まだ見ぬ「Sushi」を探そうとしているようなものだ。そんなことを、手探りで大真面目にやってるからこそ、4年もかかった。

恐らくだが、今回の儲かる気のない商品化は、社内政治や、社外関係者とのモチベーションコントロールが主な目的ではないだろうか。つまり、4年経ってもまだ途中段階なので、この地獄はまだまだ続く。

パナソニックの狂気と危機感

さて、パナソニックが何故そんな地獄のようなプロジェクトにリソースを投資し続けてるかというと、現状にめちゃくちゃ危機感を持ってるからだ。

パナソニックの家電の世界シェアは4位(2016年時点)。しかし、後発企業である中国勢にマーケットを奪われ続け、欧米勢は切り崩せず、苦境が続いている。成長事業も無くはないが、会社全体としての売り上げは横ばいであり、リーマンショックから今日まで、ほとんど成長できてないのが実情だ。

(引用元:バフェットコード

だからこそ、パナソニックは次の「Sushi」を探しだすかのような、狂気の研究開発をやっている。一応、このアプローチに成功例がない訳ではない。例えば、ネスレは、南欧のカフェ文化を手軽に体験できる家電として、ネスプレッソを発表し、カフェ文化のあまり無かったアジアで爆発的な成功を収めた。本質はどうあれ、ビジネスの世界ではこれを「豊かなくらし」と呼ぶ慣習になっており、豊かさを提供する新たな家電は、莫大な富を回収するのだ。

俺はめちゃくちゃ応援してる

俺は伝統工芸が好きではない。非効率だし、閉鎖的だし、儲からない。それに海外に通じるような、価値あるコンテンツがあるのなら、とっくに掘り起こされてるだろうと思ってる。

しかし、パナソニックは「日本文化にはソフトパワーがあるっしょ」というスタンスで、先端技術による再発掘をやろうとしている。ルネッサンスだ。パナソニックがそう信じるのならば、そうなのかもしれない。

俺はかつてヨーロッパに海外赴任をしていた時期がある。その頃の俺は、飯が合わなくて、現地のヨーロッパ食材でなんとか茶碗蒸しを作ったり、カツ丼を作ったりしながらホームシックに耐えていた。そんな中、ヨーロッパで最大の家電見本市、IFAに参加したとき、パナソニックも出展してたので見に行ったことがある。

(引用元:https://response.jp/article/2019/09/08/326237.html

IFAに出展している企業は、各国のメディアの紙面に掲載されたいがため、「映える」コンセプトモデルや最新機種の展示を行う。日本企業もソニーやシャープ等が参加しており、グローバル向けの洒落た展示をする中で、パナソニックブースだけ、なんだか地味で、妙に日本感があって、ホームシックが少し和らいだのが記憶に残っている。

(ドイツの国際展示場に漂う、門真の高級マンション感 :IFA2015)

パナソニックはしばらく大成功を収めていない。しかしずっと努力を続けている。その努力が正しいか正しくないかは分からないが、日本のソフトパワーを信じて研究開発を続ける姿勢には、日本トップの家電メーカとしての意識の高さを感じる。大成功を収めた暁には、日本の勝利だと、手のひらを返して一緒に喜びたいものだ。

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