タイムカプセル
もう一度、タイムカプセルネタである。
「2時間サスペンス」、通称「2サス」は、じつのところ、あまり観ていないのだが、ときどき目にする限り、現在の殺人事件は、数十年前におこった殺人事件に原因があり、その復讐劇が多いようだ。
虎視眈々と、復讐の機会をずっとうかがっていたのである。その怨念たるや、八犬伝の「我こそは玉梓が怨霊」もかくや、と思うくらいである。
人間、そんなに怨念を持ち続けられるものなのか。
それはともかく、埋められたタイムカプセルが開封されることによって、何かが開かれる。
これは「2サス」っぽいネタだな、と思いながら、書いた。
Sudden fiction、超短編、いわゆる掌小説です。あっという間に読み終わります。
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母校の高校から、タイムカプセルの開封式の案内状がきた。
タイムカプセルといえば、埋めたのは、15年も前のことである。
開封式当日、会場の体育館にいった。
そこには、思いがけずたくさんの同学年の人々が集まっていて、いつの間にか、同期会になっていた。昔語りに花が咲き、和やかな空気が漂っている。
糸のように目が細い、穏やかな顔つきで、でっぷりと太った女性が話しかけてきた。私の知らないひとである。
「あのころは、ごめんね~」
「なんのこと?」と私。
「いじめていたでしょう、あなたのこと、私」
「そうだっけ?」
「覚えていないの?」
「うん」
「そうよね~。15年も前のことだものね。いまとなっては、おたがいよき思い出よね~。私だけがやっていたわけじゃないけどさ~、まあ私がリーダーみたいなものだっから。あははは」
「へえ~。そうだっけ」
当事者は私ではない。妹である。私は姉だ。双子なのである。高校卒業後、大学に進学したが、途中で休学して、妹は自殺した。いじめの後遺症で、うつ病になったのである。遺書は残さなかった。
太った女性にとっては、よき思い出かもしれないが、私にとってはそうではない。(死んでしまった)妹にとっても。おそらく。
その夜、その太った女性は、事故死した。足をすべらせて、手ごろな石に後頭部を打ちつけたのである。
「2サス」の、よくある場面のように。
(シリーズ「未来はありません」⑧)