クリスマス・イブ Ⅱ
クリスマス・イブが近づいてきました。バブルの頃は、その日を冠したテレビドラマが放送され、人気のホテルの予約は、一年前に埋まっている。一年前に予約したはいいが、その後、別れてしまい、どうするんだとか、イブに一人でいるとかありえないから、マンションの電気を消して、どこかに出かけているふりをするのだとか、テレビドラマ以上に、さまざまなドラマがありましたが、昨今はどうでしょうか?
Sudden fiction、超短編、いわゆる掌小説です。あっという間に読み終わります。
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クリスマス・イブだった。
まるでおしゃべりをしているようなイルミネーションが、表参道をにぎやかに彩っている。
毛皮のコートをまとった若い女たちが楽しそうに足早に歩いていく。
あ。空から白いものが。
雪だ。
私は急ぎ足で待ち合わせの店の前へと急ぐ。本当は、急ぐ必要などないのだけれど。待ち合わせの時間まで、まだ一時間もあるのだから。
やがて彼女が満面の笑みを浮かべて、片手をあげて駆け寄ってきた。
「待った?」
彼女は尋ねる。
「ううん。いまきたところ」
私は左右にかぶりを振っていう。
私は、彼女といっしょに歩きだす。
世界じゅうが私たちを祝福しているように感じられる。
叫びたいときは、心から叫ぼう。私は幸せだ、と。
……それは、私がいつかどこかで観た映画の思い出。
(シリーズ「未来はありません」④)
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