クリスマス・イブ
今年もクリスマス・イブが近づいてきました。バブルの頃は、その特別な日をめぐって、男女の思惑が駆け巡ったものですが、昨今はどうなのでしょうか?
Sudden fiction、超短編、いわゆる掌小説です。あっという間に読み終わります。
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クリスマス・イブ。なんと甘美な響きだろう。だが、私には、縁がない。
今年のクリスマス・イブも、仕事で、残業だった。私は三十五歳。そろそろ若いとはいえない年齢にさしかかっている。
私は暗くて、寒いアパートの一室に帰ってきた。
ドアをあけると彼女が待っていた。
「おかえりなさい。あ~あ、イブ、もう終っちゃったよ」
彼女がつまらなそうにいう。
「ごめんな。イブまで忙しくて」
私は腕時計を見ながらいう。
午前1時30分。私にとっては、イブだろうが、クリスマスだろうが、似たようなものだが、女の子は、なぜかクリスマス・イブにこだわるのである。
「あなたが無事、帰ってきたのだから、まあ、いいか。ほら、いつも行列ができている駅前のケーキ屋さんあるでしょ、あの店のケーキを買ってきたのよ。いちごショート。基本でしょ? 熱いコーヒーを淹れた。ねえ、いっしょに食べようよ」
私に彼女はいないし、アパートの鍵を渡した覚えもないけれど、幸せな気分だからまあいいかと思いながら。
(シリーズ「未来はありません」③)
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