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無限未来
最近は話題になることが少ないが、一時期、タイムカプセルが流行ったことがあった。
埋めてから数十年後に開ける、という設定がもともとドラマチックなものなので、小説や映画などにも登場した。
その設定で、美しい物語も作れるし、小道具としての使い方次第ではミステリにもなる。じつに便利である。
ただ、実際問題として、タイムカプセルを埋めるひとと、数十年後に開封する担当者が(おそらくは)ちがうので、温度差があるのではないか。
埋めるときは、わりと周囲でも話題になるので、担当者は情熱をもやすが、開封するときの担当者は、ただ指示されて開封しているだけである。また、カプセルに封印された宝物は、べつに知り合いのものというわけでもない。
事務的に開封し、そして送るだけである。
数十年後、開封されたはがきは、埋められた当時の住所に届くのだが、もはや本人が住んでいないことが多いので(そりゃそうだろう)、あて先不明で、宙ぶらりんになっている、という話題が新聞をにぎわせたことがあったように記憶している。
これはそんなタイムカプセルの話である。
Sudden fiction、超短編、いわゆる掌小説です。あっという間に読み終わります。
*
15年後の自分にあてて、メッセージをはがきに書け、と担任の先生はナナセにいった。
卒業生全員が、タイムカプセルに入れて、校庭に埋めるのだそうである。
ナナセは女子高の三年生である。そんなメッセージがあるわけがない。進学したい大学だって、まだ決まっていない。
自分が何に向いていて、何を勉強したいのか、さっぱりわからない。日々悩んでいる真っ最中である。
担任の先生にせっつかれて、しぶしぶナナセは書いた。
15年後、ナナセの家の住所は変わっておらず、はがきが届いた。
「いま私は、幸せです。進路について悩んでいる。悩んでいるとき、選択肢が無限にあるように感じる。自分の未来がひろがっている、と感じる。15年後の私も、無限に未来があるといいな」
家族は泣いていた。
交通事故で、ナナセはこの世にいなかったのだ。
(シリーズ「未来はありません」⑦)
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