いとちインタビュー vol.9| 西山修平さん
多くの人が、病院で一度くらいは体験したことがあるであろう「レントゲン写真」。その担い手が放射線技師です。かしま病院でも日々、放射線技師が活躍しています。西山修平さんもそのひとり。1日に100人もの患者さんと関わるという西山さんに、患者さんへの向き合い方、仕事に対する考え方などをうかがってきました。
小林:今日はお忙しいところ貴重なお時間をありがとうございます。よろしくお願いします。西山さんは放射線技師として働いていらっしゃいますが、まずは手始めに、西山さんの日々の仕事の中身について教えてください。
西山: 放射線技師は、放射線を人体に照射して検査や治療を行う仕事です。かしま病院では、放射線治療を行ってはいないので、主に検査を行っています。医師の先生が診断や治療を行うにあたって必要な写真を撮り、異常が見つかった際には先生に伝えるという仕事です。
かしま病院には、レントゲンの装置や骨密度装置、MRIなど合計7台の装置があります。私が所属している放射線画像診断科では、各装置を月1回ごとにローテーションし、その撮影を担当します。
この仕事の大きな特徴は、1人の患者さんと長期的な関わりを持つのではなく、1日に何人もの患者さんと関わることです。レントゲンの場合、1人当たり3分程度で終わる撮影を1日100人程度行っているんです。
小林:毎日、たくさんの患者さんの検査を行っているんですね。西山さんが放射線技師を目指したきっかけは何だったんですか?
西山:幼少期に放射線技師の方に憧れを抱いたからです。スポーツ少年だったので、怪我をすることが多くて…。小学校高学年くらいで骨折をしたときに、放射線技師の方にレントゲンを撮ってもらいました。幼いながらに「大きい機械を動かしていてかっこいい」と思ったのを覚えています。進路選択のタイミングで、母親が医療職だったことから、自分も患者さんのために何かしたいと思うようになりました。医療職の中でも、幼少期に憧れた放射線技師を目指すことにしました。
小林:お母様も医療職だったんですね。
西山:母は、かしま病院でケアマネージャーとして働いていたんです。病院の近くに住んでいたので、私もかしま病院には幼少期からお世話になっていました。埼玉県の大学に通っていたのですが、就職のタイミングで母が病気を患ってしまって…。治療のサポートが必要になって地元に戻ってくることにしました。地元で働くならどこがよいかを考えたときに、身近な存在だったかしま病院が頭に浮かび、就職を希望しました。
放射線技師のやりがい
小林:そうだったんですね。憧れの職業に就いてみて、やりがいを感じることはありますか?
西山:ほかの医療職の方とは少し異なる部分でやりがいを感じています。一般的な医療職は、患者さんと直接関わる時間が長いので、患者さんに感謝されることにやりがいを感じることが多いと思います。もちろん、私も少ないながらに患者さんと接する機会はあるので、そういった面でのやりがいもあります。
でも、最もやりがいを感じられるのは、自分が工夫した撮影方法で医師が求めている画像が撮れたときですね。撮影する部位が同じでも、人によって体格や症状が異なるので、医師が欲しがる画像は異なります。たとえば胃の形ひとつとっても、横長の人もいれば縦長の人もいますよね。切る断面やシーケンス(撮影の種類)を患者さんに合わせて変える必要があるんです。
どのような画像が求められているのか、どういう撮影の仕方が最適なのかといったことを先生とコミュニケーションを取っていき、目線を合わせることが重要です。
小林:よりよい撮影を行うには、他部署の方も含め、チームの仲間とのコミュニケーションが大切になってくるんですね。日頃からコミュニケーションを積極的に取られているのでしょうか?
西山:最近はチーム医療といって、一人の患者さんに先生と看護師だけでなく、自分たちのような放射線技師や薬剤師、理学療法士など多種多様な医療スタッフが連携して治療やケアにあたるのが主流です。放射線技師同士はもちろん、主治医や看護師さんとのコミュニケーションも必要です。
同僚と円滑なコミュニケーションを取っていけるように、プライベートでの関係性構築も大切にしています。私は新しいことに挑戦することが好きなので、仲間の趣味を一緒に楽しむことが多いです。たとえば、入職して間もないころ、大多数の先輩がやっているからという理由でゴルフを始めました。いつしか、コミュニケーションツールとして始めたはずが、本格的にハマってしまって(笑)。
ゴルフの理論に魅せられましたね。最近も仲間と3人で行ってきました。自分のリフレッシュにもなるし、仲間とも距離を縮められる時間です。他部署にもゴルフにハマっている方が結構いるので、会話のネタになります。ほかにも、ラーメンが好きな同僚と有名店に行ってみたり、アニメ好きな同僚と映画を見に行ったりしました。
小林:同僚の方の好きなことに関心を持って、関係性を深めていっているんですね。ちなみに「ゴルフの理論」という言葉が気になったのですが、どういうことなんですか?
西山:ゴルフには、体の動かし方や重心の位置など上手くスイングするための理論があるんです。理論が綺麗にハマって狙い通りのショットを打てると気持ちいいんですよ。首のヘルニアになってしまったときには、首に負担がかからないようなスイングの方法を推理しました。負荷をかけずによいショットが打てたときは嬉しかったですね。そこからさらにゴルフが好きになりました。こうやって考えると自分は理系だなあと感じます。子どものころから数学が好きで、頭の中で理論を組み立てるのが好きだったんです。
患者さんの気持ちに寄り添う
小林:先ほど、放射線技師は他の部署より患者さんと関わる時間が短いはずとおっしゃっていましたよね。限られた時間の中で、どのようなことを意識してコミュニケーションを取っているのですか?
西山:患者さんによっては、持病がある方もいらっしゃいます。その場合、撮影のための体勢になることが辛いことがあるので、工夫して撮影を行う必要があります。本来は仰向けで行う撮影だけど、横向きにしかなれない患者さんもいますし、関節が変形してしまい、 通常のレントゲンの写真がうまく撮れない患者さんもいます。一人一人異なります。
ここで意識すべきは、目の前の患者さんにも持病やつらい体勢があるかもしれないと想像することです。気づかずに進めた場合、上手く撮れずに再撮影となってしまう恐れがあります。もちろん、事前に情報が共有されていることもありますが、現場で初めて知ることもあり、患者さんにとって少しでも苦しくない検査をするために、なんとか情報を引き出そうとしています。
短い時間の中でも不安なことを話せるように、患者さんに寄り添う姿勢を心がけています。明るい雰囲気づくりをしたり、小さな違和感にも気づけるように注意を払ったりということは、日常的に心がけるようにしています。
小林:患者さんがなるべく苦しくないように、という思いが念頭にあるのですね。
西山:はい。もちろんそれだけじゃなく、放射線が身体に及ぼす影響にも配慮して、撮影が一度で済むようにしたいと思っています。放射線を当てると、どうしても患者さんを被ばくさせてしまいます。再撮影となると、被ばく量がさらに増えてしまいますし、患者さんの健康を崩したくないという思いもあります。
小林:通常の体制での撮影が行えない患者さんに対しても一度の撮影だけで済ませようとなると、高度な技術が必要だと思います。ご自分で日々勉強されているのですか?
西山:自然に勉強するようになりました。というのも、日々新たな知識が入ってくる医療業界では、学生の頃に勉強したことは古い知識となり、使えないものになっていくからです。新しい撮影方法や画像の診断方法が発表されると、うちでも取り入れることができないか検討します。そのために、学会に参加したり参考書を読んだりして知識を吸収しているんです。身につけた知識をもとに、一人一人にフォーカスした撮影方法や体勢を決めています。
小林:プライベートの時間を費やしてまで自主的に勉強したからこそ、患者さんの状況に合った撮影ができているんですね。
西山:自主的に勉強するようになった背景の一つには、科長の阿部公志郎さんの存在があります。阿部さんは本当に勉強熱心で、誰から言われているわけでもないのに、 自主的に気になったことを調べているんです。それを物怖じせず医師に伝えている姿を見て、こんな風になれたらいいなと思うようになりました。
小林:日々、阿部さんの背中を追われているんですね。特に、阿部さんの力を感じた瞬間はありますか?
西山:かしま病院で初めて心臓のMRIを始めることになったときです。1から勉強しなければいけない状況で、必要な準備を阿部さんが主導して進めてくれました。 SCMR Japan Working Group(米国心臓血管MR学会)という団体のホームページからシーケンスを調べてくれたり、うちの機械で実施するにはどのような調整が必要なのかを、積極的に学会に参加して情報をゲットしてきてくれたり。その甲斐あって、しっかりとした体制で心臓のMRIを開始でき、現在は勉強会で発表できるほどの成果を出せています。
また、後輩に関心を持ってくれるところも素敵だなと思います。「俺の次にMRI任せるようになるのは西山だから、頑張ってほしい」と自分が元気になるような言葉をいつもかけてくれます。
小林:阿部さんとの信頼関係が伝わってきました。最後に、 今後の目標があれば教えてください。
西山:日本磁気共鳴専門技術者の資格を取ることが直近の目標です。日本磁気共鳴専門技術者というのは、MRIに特化した専門資格です。私は、複数存在する検査の中でもMRI検査が特に好きなんです。すでに国家資格の放射線技師の資格は取得しているのですが、自分の好きな分野の専門知識を深めていきたいと考えています。いわきだと1、2人程度しか取得できていない高い壁ですが、挑戦してみたいんです。
MRI検査は制限が多く、決まった撮影を行うのではありません。患者さん一人一人に合わせた撮影のための工夫が必要です。自由度が高い分、もちろん難しいこともありますが、考える過程がおもしろいんです。MRI検査の知見を深めて、患者さんの病気に合った撮影を完璧に行えるようになることが最終目標ですね。
小林:西山さん、今日はありがとうございました! 好奇心を追い求め、さらなる技術や知識を獲得することで患者さんの心身に寄り添いたいという西山さんの心の底にある思いを受け取ることができた気がします。ありがとうございました。