精神論禁止!『失敗の科学』で世界の見え方が変わるかも
「失敗」を繰り返す原因となる、人間特有の心理や行動のクセ。
これを科学的に明らかにすることで、どう対処していくか?ということに言及した『失敗の科学』という本があります。
示唆に富んだ本なので当社ポッドキャスト「スモビる!」でご紹介しつつ、以下にその文字起こしをしました。
今のところ、この『失敗の科学』はAmazonプライム会員であればPrimeReadingで無料で読めます。
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このポッドキャストでは、スモールビジネスやその周辺のカルチャーについての話題をお届けしていきます。
再生ありがとうございます。
ウェブディレクションと音源制作を手掛けるシララ株式会社の伊東宏之です。
今回は『失敗の科学』という本をご紹介したいと思います。
スモールビジネスをやっていると、大なり小なり失敗の繰り返しだと思うんですけれども、この本は、そういった失敗をどう捉えて、さらにどう活用するかというヒントになるんじゃないかと思って読んでみました。
著者はイギリスのジャーナリスト、マシュー・サイドさんという人で、この本は失敗に関して大きく二つの軸に分けて述べられています。
一つ目は、なぜ重大な失敗や事故が起こるのかという原因の部分ですね。
特に、命に関わる二大業界として、医療業界と航空業界での事例が多めに扱われていました。
二つ目は、それを防ぐ科学的な手立てはないだろうか?ということですね。この二つの軸で、この本は述べられています。
早速一つ目の軸なんですけれども、失敗の原因について、この本で触れられていたことを簡単にご説明したいと思います。
認知的不協和、確証バイアス、後知恵バイアス
失敗の原因なんですけれども、この本の最大のキーワードとして、認知的不協和という言葉にほぼほぼ集約されていると言えそうです。
認知的不協和というのは、この本の表現を借りると、自分の信念と事実が矛盾している状態、自分の信念と事実が異なる矛盾している状態ですね。
あるいは、その矛盾によって生じる不快感やストレス状態を表すそうです。その事例として本書で挙げられているのが医療ミスですね。
ベテランの医師が高い技術とプライドを持ってして、全力で手術に挑むわけですよね。
しかし、その想定外の事態が確率的に生じることは十分あり得ますよね。
例えば、手術中に患者の様態が急変した原因が非常に稀なアレルギー反応であったとすると、その可能性に部下の医師だとか看護師が気づいても言いづらかったり、指摘したとしてもそんなはずはないと、自分の信念と事実が矛盾している状態を受け入れられずに、適切な対処をする機会を逃してしまう。
結果として患者さんが亡くなる。
さらに遺族には最善を尽くしたけれども、偶発的な事故でしたというふうに説明がされてしまう。
それらの一連の流れ自体を、このベテランの医師自体は、医療上防ぎようのないことだったと心底を信じ込んでしまっている状態。
もちろんご本人としては適当にやっているわけじゃなくて最善を尽くしているわけですしね。
これが認知的不協和に陥っているという状態なんですけれども、そのことに自分で気づくことができないんですよね、人間は。
というちょっと怖い実例が示されていました。
アメリカ国内だけで、医療過誤で年間12万人が死亡しているそうなんですね。
もちろん個々の医療従事者が決して悪いということではなくて、この本によると問題は医療業界において完璧ではないことが無能に等しいというふうに思われてしまう。
そういうふうな考え方が浸透してしまって関係者を脅させていることだとに指摘されています。それが失敗という事実の認識を歪めていると。
その他にも事実を無視してこうなるはずだと信じ込んでしまう確証バイアスと呼ばれるものが人間に存在するという指摘があったりとか、あるいは人間の心理として大変な労力を払っていることに間違いがあってほしくない、間違いがあってはいけないというふうに思い込んでしまうことも指摘されていました。
例えば裁判における冤罪なんかも例に挙がっているんですけれども、その裁判や捜査の過程で当然大変な労力が払われていますよね。
さらに突き詰めると裁判官になること自体に、その裁判官はものすごい労力を払ってその立場になっているわけですよね。
だからこそ裁判で一度認定されたことに間違いなんかありえないというふうな心理的な力学が働いてしまうと、ありえないから後から冤罪の証拠が出てもなかなか認めることが難しいということもこの本で指摘されていました。
失敗が明らかになると往々にして罰や非難を浴びせられるわけですよね、失敗した人は。
ここでもう一つ重要なキーワードとして、後知恵バイアスというものがあります。これはですね、その立場になった人しか分からない状況と判断があるのに、これを後からこうすればよかったのになぜしなかったと、第三者が好き勝手に言って「後知恵」でジャッジするという現象ですね。
これはもう本当に今、日常に至るまで人類が繰り返していることですよね。例えば歴史上の戦争においてあの戦略は愚かだったとか、簡単に後世の人がジャッジしちゃうんですけどね。
あとは例えばもう身近なニュースとかでも、児童虐待事件が起きたときに児童相談所の職員が非難されたりするじゃないですか。
でもそれってその相談所の職員はガッチガチの制約の中でルールに沿って対応していたのに、ものすごく非難されてしまうと。
結果その相談所の職員の退職者が爆増してしまうみたいな、ものすごい悪いループに陥ってしまうことがありますよね。
それと関連してこの本では日本に対する指摘があって、そういった責任を取らせてやめさせるみたいな文化が特に日本は強い。
なので起業家が育たないんじゃないかというふうな指摘もされていましたね。
あとは他にもたくさん失敗の原因としてこの本を挙げられているんですけれども、先ほどの手術の事例でもそうなんですけれども、人間関係の上下で意見が取り上げられにくい問題があると、看護師さんが手術中の医師に言いにくいとか、あとはあるいは手術みたいな細かい作業に集中すると、人間は時間の感覚が完全に麻痺してしまう性質があって、トラブルに直面した時にあたかもそのトラブルが急に発生したかのように錯覚してしまって、パニックにつながってしまうということも挙げられていました。
クローズドループ現象
そういった背景が積み重なって起こる現象として、重要なキーワードがこの本で紹介されているんですけれども、クローズドループ現象というものがあるそうなんですね。
このクローズドループというのはその名前の通り閉鎖的な状況での負のループで、失敗や欠陥に関わる情報が内々に放置されたり、曲解されて進歩につながらない現象を指すそうです。
じゃあどうしたらいいのということですよね。
この本では失敗が認められなくて隠蔽されたり繰り返される原因として、失敗を処罰に直結させないということがまず重要だというふうに触れられていました。
そして改善すべきは人間のそういった癖を考慮しないシステム側なのだと。
そうですよね。人間側の癖というのは改善はしようとしても難しいですからね。
事故を起こした当事者個人に問題があるんじゃなくて、あくまでシステム側を見直すべきだと。
さらに失敗してもそれが公開されて学べるフィードバックがあるシステムにすると費用対効果が高いよというふうに述べられています。
そうすることで当然人命も失わずに済みますし、例えばイギリスでは医療の過失責任の賠償費用として2015年で日本円に換算して3兆円がかかっているそうなんですよね。これも抑えられると。
その具体的なシステムとしては航空業界で取り入れられているオープンループを機能させなきゃいけないよねというふうにこの本では述べられていました。
もちろん事故は一定数起きるんだけども、航空業界においては事故が起きたときに事故調査の強い権限を持つ独立の調査機関が存在すると。
この調査機関があるから過去の事故がオープンになって、その過去の事故自体が業界全体の学習の機会になっているそうなんですね。
さらに事故の調査結果を民事訴訟で証拠として採用することが法的に禁じられているというふうにも書かれていました。
これはもう世界的にそうなんですかね。ちょっとそこはわからないんですけれども、とにかく罰せられることにつながらないと。
さらにはミスの報告も処罰しないのが基本的な航空業界の決まりだそうなんですね。
それはそうですよね。ミスして処罰されたらやっぱり隠蔽につながりますからね。
こういったシステム自体を失敗ありきで設計しよう、ということもこの本では主張されています。
「事前検死」などの対策
この失敗ありきの究極のアプローチとして事前検死というものが紹介されていました。
これは死ぬ前に死体を調べる、検証してしまおうという比喩的なアプローチの名前ですよね。事前検死。
これはすでにプロジェクトは失敗したという状態を想定して先に学んじゃおう、検証しちゃおうという方法です。
なのでプロジェクトが開始するときにプロジェクトリーダーからこのプロジェクトは大失敗して終わってしまいましたと告げられることから始めるやり方で、その理由をメンバーで検証していくということなんですね。
これがすごくコスパが良いらしいです。結構面白いなと思いました。
もう一つがこういったことと切っても切り離せない各自のマインドセットの部分ですよね。ここについてもこの本では紹介されていました。
例えばビジネスにおいては失敗とか小さな改善を高速で繰り返すように考えていきましょうと。
もちろん手術の本番とかでそれは必ずしも適用はできないと思うんですけれども、ソフトウェア開発におけるリーンスタートアップとかMVP、ミニマムバリュアブルプロダクトですね。
こういった皆さんもご存知の手法が挙げられていました。
なので煮詰めて煮詰めてリリースするんじゃなくて、早くリリースしちゃってアーリーアダプターからのフィードバックをたくさん受けてどう改良すればいいのかを見極めていくのが良いですよねということですよね。
これ事例としてDropboxの立ち上げ時とかApple Storeの立ち上げの時の話なんかもこの本で触れられていましたので、もし興味がある方はそのあたりもちょっと注目していただいたら良いかなと思います。
ただこれはもう本当に格言がありますよね。「巧遅は拙速に如かず」という格言もあるぐらいなのでそれと近いのかなと思いました。
さらに小さな改善という意味ではマージナルゲインというキーワードも重要になっています。
これはひたすらゴールを分解して1%ずつの改善を重ねるという方法ですよね。
事例としてはこの本では確かF1ですね、メルセデス・ベンツチームのF1での手法が上がっていたりとか、あとスポーツ選手の小さな改善、マージナルゲインの手法も触れられていました。
たぶんあれですかね、「小さなことからコツコツと」みたいな感じでしょうか。
あとは認知的不協和の影響を受けずに、やったことに本当に効果があったかどうかの科学的な評価をすること、この重要性がこの本では説かれていました。
事実を正しく認識するための「ランダム化比較試験」
これがランダム化比較試験と呼ばれるやつで、ランダマイズドコントロールドトライアル、RCTというふうな略称で呼ばれるものですね。
例えば重病の患者が20人いて、10人はAという治療を受けた、これを介入群としますね、介入するのを介入群。
残りの10人は何も受けなかった、これを対象群というふうにします。
結果がどうなるかと。可能性としては何もしなかった対象群のほうがこの病気が回復するという結果が出ることもあり得るテストですよね。
この手法が有効だと。どういうことかというと、中世から近代において人間の血を抜く瀉血という治療が長年強く信じられていたんですけれども、
こういうRCTをやってみると、この瀉血は結局害はあれども効果がなかったわけなんですよね。
でも先ほどのクローズドループによって、長年こういった治療が信じられて続けられてきたということが、こういうランダム化比較試験によって防げますよということですね。
余談なんですけれども、この瀉血の話は別の書籍で、僕は名著だと思うんですが、『代替医療解剖』という本に詳しく載っているので、ぜひ興味がある方に見ていただくと良いかなと思います。
テレビでも特集されていた「非行少年校正プログラム」は効果が無かった
このランダム化比較試験で、特にこの本のエピソードで触れられていて面白かったのが、皆さんテレビでこういうドキュメンタリーを見たことないですかね。
アメリカの非行少年たちを実際の刑務所の見学に行かせて、リアルな受刑者たちに死ぬほど脅される体験をすると。
このことによって刑務所の怖さを知って非行少年たちが更生するというプログラムですね。
こういったドキュメンタリー見たことないですかね。
少なくともこれは日本のテレビで、「世界まる見えテレビ特捜部」でやっていたんじゃないかなと思います。
このドキュメンタリー内でこのプログラマを受けた子たちは、更生した素晴らしい!という結果になって、すごいなというふうに僕もこのドキュメンタリーを見たときは思ってたんですよ。
でもランダム化比較試験をすると結果が逆だったそうです。
プログラムに参加した子どもの方が再犯率が高かったそうなんですね。
これは先ほどの瀉血の時もそうなんですけれども、結局効果があった人だけがその結果を示してしまって、結果にバイアスがかかりまくった状態になってしまうということなんですね。
本当にこれ考えたら確かにそうだなと思うんですけど、非行とか犯罪ってすごく複雑じゃないですか。
犯罪に手を染める要因なんてはっきりしないし、たかだか非行少年になってしまっている子が3時間の刑務所訪問で変わるわけがないんですよね。
逆に受刑者たちに怒鳴り散らされた経験は心に傷を残したりとか、あるいはあえて怒鳴られたけど怖くなんかなかったというふうに仲間とか自分自身に証明するためにわざわざまた罪を犯した子どももいたということなんですね。
なのでこのプログラムに参加した子の方が再犯率が高いと。
これは僕はすっかり騙されていたので、すごくこれは興味深い話でした。
ただ人間はこういう凶悪な囚人に会えば非行少年が更生するとか、感覚的に効果がありそうで派手なストーリーを信じてしまうんだけども、本当にこういうファクト、客観的データを見なきゃいけないなということだと思うんですが、面白いことにこの更生プログラムをまだ信じている人がたくさんいるそうで、実際にRCTのデータを示されても強い反発を示すそうです。
これこそがやっぱり認知的不況だよねというふうにこの本でも指摘されています。
ただこのRCT、ランダム化比較試験でも限界があって、例えばアフリカの貧困国への援助の効果があるだろうかということの議題があったとして、このランダム化比較試験というのはなかなか当てはめにくいですよね。なぜならアフリカは一つしかないですからね。
つまりテストがしにくいのだけども、そういったときに先ほどお話しした小さな改善、マージナルゲインとの組み合わせが有効になると。
どういうことかというと、要素を細かくして分解してそこに対してランダム化比較試験をするという手法があり得るわけですよね。
これによって貧困国への援助で、例えばざっくり言えば教科書の配布はあんまり意味がなかったんだけども、寄生虫の駆虫薬の配布はとても効果があった。そのことによって学校の欠席率も下がった、みたいなことが分かったそうなんですね。
なので、組み合わせによってこういった効果が得られるということです。
人間の"失敗しやすい特性"を、事実として把握することが第一歩
そんな感じの本でまとめると、まず自分も含めて人間は簡単に認知的不協和に陥ると知りましょうということですよね。
そして人は失敗するし、その状況に置かれた人にしか分からないこととか判断があると。
なのでそれを責めるのは逆効果だと。
これが第一歩で、その上で対策としてなるべくオープンループになるようなシステムを構築しましょうねということですよね。
その際に失敗前提の事前検死の手法だとか、あるいは小さな改善、マージナルゲインとかMVPとか、さらには検証としてランダム化比較試験を取り入れたり組み合わせていきましょうねという示唆のある本でした。
なんと今この本ですね、Amazonプライムに入っている方であればプライムリーディングというサービスでKindleで無料で読めちゃうので結構お得ですね。
というわけで今回は失敗の科学という興味深い本についてお話ししました。