白天の下に
回帰という言葉をどこかで聞いた。
遠い雲、田園、蛇……そうだ、あれは一匹の蛇だった。美しい翠の鱗がひらひらと揺れながら、湿った土を這いのびていく。知らない場所に私は果たして帰れるのか。記憶にもない田舎道を目的ありげに歩いている。先を行く蛇はやがて、暗い木賊の繁みの中へ入るともなく入っていく……
動くことも憂い
生きることも死ぬことも
やるべきことなどもなく
歩幅が次第にせまくなり
ついに足が止まった
後ろを振り返ると
茫漠とした田畑に目が眩み
反射的に頭をもとの方へ捻ると
蛇の消えた青い繁みが迫ってきた
繁みは匂いを
その青さを淫らにふくらませ
彼女は急に吐き気をもよおした
もはや座りこむしかなかった
はるかなる田園
ゆれる稲穂
ふくらむ稜線
そのどれもがつい今しがたまで瑞々しく
迸らせていた力をなくしたようにうなだれ
白い平たい面に押しやられたような幻覚の中
乾いた土に手が触れかかった
その土は冷ややかな感触を
彼女に与えかけたが
常にこの世のものではないその土に
彼女が気づくことはなかった
彼女は今度はその座りこんだ地面に頬を寄せ
まるで生まれてはじめての夜のように
深く長い寝息を立てはじめた
私はずっと眠りたかったと
目が覚めてから気づいたのと
夜のうつらうつらとした寝床の中で
いつか彼女がそんな話していたのを
私は今になって思い出した