短歌「いつも寄り道回り道でもいいかソクラテスさえ星を見ていた」をコントにしてみると…

デパートの一角に複数の占いブースが並んでいる。そのうちの1つのブース内、占い師(中年女性)と客(若い女性)が机を挟み座っている。
机の上にはタロット、水晶、方位盤等が並ぶ。

占い師「幸せになれるか…ですか?」
客「ええ。私はこのまま進んで行って幸せになれるんだろうか…って最近思うんです」
占い師「結婚や仕事に対して、ですか?」
客「結婚も仕事も全てにおいてです。私は…果たして幸せになれるんだろうかって…」
占い師「なるほど。それで?」
客「それで、ええと…だから占ってほしいんです」
占い師「何を?」
客「何をって…ですから私は幸せになれるのかを」
占い師「(勢いよく立ち上がり大声で)次の方ぁー!どうぞー!」
客「ちょっと!」
占い師「はい?」
客「何で次の人呼ぶんですか!私、話してる途中ですよ?ブース入って1分くらいしか経ってないし、全然占ってもらってない」
占い師「(座りながら)いやぁ。"幸せになれるんでしょうか"って…抽象度が高すぎて…ねぇ?(片手でゴメンのポーズしながら)ちょっとムリっす(立ち上がり)次の方ぁー!」
客「だから!呼ばないで下さいよ、次の方。もう何なんですか」
占い師「コンサルティングファーム出身で」
客「はい?」
占い師「(自らを指差し)私、コンサルティングファーム出身で」
客「占い師さんが?」
占い師「ええ」
客「会社の課題解決を行うコンサルティングのお仕事されてたんですか?」
占い師「はい。だから戦略とロジック以外は敵だと叩き込まれています」
客「いやいや。感情豊かなコンサルタントの方だって大勢いたでしょ?この占いブースが"人気No.1"て書いてあった気がしたけど…見間違えたかな」
占い師「合ってます。不本意ながら、頂くご相談全てをロジックで斬っていたところ指名率No1です。いつしか"蒲田の母"と呼ばれるように…」
客「すごいじゃないですか!」
占い師「でも占ってませんから。不本意ながら」
客「それでよく出店できますね。本当に占えないんですか?」
占い師「ええ。私が行っていることは、傾聴、課題抽出、解決策の提示のみなので」
客「コンサルティング…ですね。試しにタロットカードお願いします」
占い師「できないんですって」
客「分かってます。大丈夫ですから。ちょっとやってみて下さいよ」
占い師「…分かりました。(渋々、客にタロットカードを丸ごと渡し)では、一枚引いてください」
客「カード、切らなくていいんですか?」
占い師「おそらく大丈夫です」

客、カードを一枚引く。
占い師、そのカードを受け取り、表にして置く。
現れたカードは「太陽」。
カードの位置を客に向けたり自分に向けたりくるくるさせながら、

占い師「明日は…晴れる…でしょう」
客「ダメだな!確かに占いの才能は皆無だ!」
占い師「やっぱりそうですよね」
客「でも、なんでコンサルタント辞めちゃったんですか?」
占い師「私もお客さんと同じ状況でした。仕事に行き詰まっていて…そんな時、占いに行ってみたんです。そして助けられました」
客「えっ?"戦略とロジック以外は敵!"だったのにですか?」
占い師「ええ。ロジックで考えれば考える程、未来って見えずらいじゃないですか」
客「そういうもんですか?」
占い師「はい。占い師に転職したのは、蒲田の路上で占ってもらったのがキッカケです」
客「そうでしたか!それで?その時どんなアドバイスをもらったんですか?」
占い師「占い師から、"なんとなく占い師とか向いてそう!"と」
客「めちゃくちゃフワッとしてるじゃないですか!全然ロジカルじゃない!」
占い師「そんなもんです。その後、ルノアールで小1時間話をした末、弟子入りしました」
客「すごい展開!」
占い師「そんなもんです。あ、お客さん、"幸せになれるか"って言いましたよね?」
客「えぇ、そうですね」
占い師「"幸せ"って、その人がどう感じるか次第だと思いますが、意外と日常にも小さな幸せって溢れていませんか?」
客「日常に?」
占い師「ええ。私、占い師に転職してから、時間の使い方が変わりました。そして体内にある幸せセンサーの感度が爆上がりしました」
客「体内にそんなセンサーがあるんですね」
占い師「ありますね」
客「それに、時間の使い方ですか?」
占い師「ええ。自分にも他人にも何にも期待しない。そんな時間の過ごし方です」
客「例えば?」
占い師「敢えて効率的でない無駄の極み、みたいな時間の過ごし方をするようになりました。ナマケモノの動画をひたすら見たり、1人ぼーっとする選手権を開催したり」
客「無駄ですねぇ」
占い師「ええ、無駄です。でも、意外とそういう目的の無い時にこそ宝が見つかったりします。遥か昔、ソクラテスが好んで星を見ていたように」
客「天体観測ですね」
占い師「ええ。彼はやがて天体運行を把握することにより、"真理を解明する"という明確な目的を掲げる訳ですが。そうだ!どうでしょう…一旦占い師に転職してみませんか?」
客「え?…それは…私も向いてると?」
占い師「ええ。この流れで今まで9人。占い師としてデビューさせています」
客「え?」
占い師「監督、いや私の師匠も紹介できます!」
客「監督?師匠もご紹介頂ける?」
占い師「ええ。あとちょっとなんです」
客「何がですか?」
占い師「女子サッカーチームを作りたいんです」
客「ん?」
占い師「今なら私の隣のポジショ、いやブースが空いています!」
客「もう"ポジション"て言っちゃってますけど、サッカーって何人でしたっけ?」
占い師「11人です」
客「9人に占い師さんを足して10人だから私で丁度11人…って結構です!」 
占い師「あ!ルノアール行きます?」
客「結構です!」

暗転。

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