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宗教者はDXに躊躇するな

広がる仏教僧のインターネット活用


人類が大きな疫病と対峙している。
新型コロナウィルス感染症は、わたしが今まで抱いていた世界観を一変させた。
わたしだけでなく、多くの日本人、世界中の人々にも同様の刺激を与えたのだと思う。

この時代の潮目が変わるポイントにあって、仏教界ではインターネットを活用して、檀信徒をはじめとする一般市民とコミュニケーションを図ろうと、取り組みを始める僧侶が増加した。

Facebookを使って毎朝のお勤めをライブ配信したり、Zoomで坐禅を教えたり、YouTubeで本堂を24時間お参りできるようにしたり、インスタライブでお盆の読経をしたり、noteで僧侶としてのメッセージを綴ったり、podcastでお経を聴かせたり。多様で個性的な取り組みが、同時多発的に広がっている。

インターネットで心は伝わらない??

以前から仏教界には、新しいものごとに対する忌避感、変化を厭う人間心理から、「インターネットで心は伝わらない」といった言説を用いる人がいる。

しかし、今年5月、インターネット上で広がった負の感情によって一人の女性が亡くなった。木村花さん、満22歳での死。そこに介在したのは、TwitterというSNSツールだった。負の感情は、SNSを介して増幅され、木村花さんを死に追いやった。

インターネットを通じて、僧侶が一般市民の相談の声に答える「hasunoha」というwebサイトでは、コロナ禍以降、アクセスが増加している。相談に答える僧侶の活動量に応じて質問を受け付けるアルゴリズムをとっているため、質問量が増えたというわけではないが、「苦しむ人を救いたい」「仏の教えを伝えたい」という想いに満ちた僧侶が、対価への期待なく、回答に取り組んでいる。

https://hasunoha.jp/

繰り返されて来たはずだ。
印刷技術の普及期には、経本は手書きでなければ魂が伝わらないと主張する者がいた。
数珠の加工が機械化された時には、数珠は手彫りでなければ意味がないと主張する者がいた。
本堂に冷暖房を持ち込めば、修行の場なのだから暑さ寒さは当たり前と主張する者がいたし、電話の登場とともに、足を運んで対面することが大事だから使いたくないと主張する者もいた。

過去に繰り返されて来たことが、特に学びもなく、現代でも繰り返される。
かくいうわたしも、老いと共に同様のことを主張する日が来るのかもしれない。


イノベーションの本質は関係性の再構築

人間関係のすべてをオンラインに「置き換える」必要はない。オンラインで「補完」すればよい。すべての法要をオンラインにする必要はない。オンラインとオフラインのハイブリットで行えば、これまで法要に参加できなかった人や、コロナ禍で法要に参加することへのリスクが高まった人にも、新たに法要に参加してもらうことができる。オンライン、オフライン共に参加を拒まれるのであれば、法要の本質的な価値を、僧侶の側が深く見つめ直すべきだ。

マーケティング業界では、「イノベーションの本質は関係性の再構築」だと言われる。
ツールの存在がイノベーションなのではなく、そのツールが人間関係を変えることが、イノベーションなのである。

お寺がデジタルトランスフォーメーションを進める上で大事な「関係性の再構築」は、檀信徒や一般市民との接触頻度である。これは、また別に書こうと思う。

宗教者は、新しいものへの「恐れ」「忌避感」「執着」を超えて、デジタルトランスフォーメーションによって補完できる檀信徒や一般市民とのコミュニケーションの進化・深化を目指してほしい。

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