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森友学園問題に関する国家賠償請求は異例の「認諾」で終了 そもそも認諾とは? 認諾が行われるのは”国家機密”レベル

 学校法人森友学園をめぐる財務省の公文書改ざん問題で、自殺した財務省近畿財務局職員赤木俊夫さん(当時54歳)の妻である雅子さんが国などに損害賠償を求めた訴訟において国は、原告の請求を認める「認諾」を行った。

 
 これにより、国との訴訟は終了した。


 国はまず、改ざんの指示を受け業務負担が増えた赤木さんの自殺について、「国家賠償法上の責任を認めるのが相当」と説明。


 さらに原告の追加主張などの内容を精査した結果、「いたずらに訴訟を長引かせるのは適切ではなく、決裁文書の改ざんという重大な行為の重大性に鑑み、“認諾“する」とし、請求額の1億700万円を支払うとした。


 国側はこれまで訴訟の棄却を求め争っており、その主張を一変する形での決着となった。原告の代理人によると、今回の認諾は、大阪地裁(中尾彰裁判長)側にも事前に知らされておらず、異例の訴訟対応であるという。


 遺族が、当時の財務省理事局で改ざんを指示したとされる佐川宣寿元国税庁長官に対し、550万円の賠償を求めた訴訟は継続する。


 訴訟は20年3月の提訴後、計5回の口頭弁論が開かれた。国側は今年6月、赤木さんが改ざんの経緯などを詳細に記したいわゆる「赤木ファイル」を開示。原告側は内容を踏まえ、国と佐川氏に責任があると主張。


 認諾後、大阪市内で記者会見を開いた雅子さんは、裁判所による事実認定などが行われず真相の解明がされる機会が失われたとの考えを示し、「お金を払えば済む問題ではない」と語る。代理人を務めた生越照幸弁護士も「信義則に反する」と主張した。

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森友問題の概要


 2016年6月、学校法人「森友学園」に対し、大阪府豊中市の国有地が払い下げられる。不動産鑑定士が算出した土地の評価額は9億5600万円であったが、近畿財務局は提示した払い下げの価格は、それより“8億円“低い、1億3400万円であった。


 後に森友学園の籠池泰典理事長(当時)が近畿財務局との交渉時に、安倍晋三首相(当時)の昭恵夫人と籠池夫妻との交流を強調していたことも判明。

 
 とくに籠池理事長が「小学校名は安倍晋三記念小学校にしたい。名誉校長には昭恵首相夫人を」とも話した上で、“首相夫妻の影響“で土地の価格が不当に安くなったのではないかとの見方が出た。


 森友問題では、財務省理財局による決裁文書の改ざん問題も起きる。財務省が国有地の払い下げの経緯を記した文書を国会に提出した際、安倍元首相や昭恵夫人の関与が疑われかねない記述を削除したことを認めたのだ。


 このような公文書を改ざんする行為は、民主主義の根幹を揺るがしかねない事態である。


 その後、18年3月27日に佐川宣寿元理財局長が国会に証人喚問された。


 さらに財務省は同年年5月23日、これまで「残っていない」と国会答弁で行ってきた、森友学園と近畿財務局との交渉記録を国会に提出、6月4日には改ざんに関する調査報告書も公表した。


 財務省の決裁文書改ざんを機会に省庁の再々編を求める声も出始めた。01年の省庁再編から20年が過ぎ、省庁の組織にも“歪み“が生じている可能性があるとし、自民党は新たな省庁のあり方を検討するとも主張した。


「認諾」とは?


 「認諾」、正確には「請求の認諾」とは、民事訴訟法266条と267条に規定されている、「請求に理由のあることを認める被告の裁判所に対する意思表示」とのことをいう。


(請求の放棄又は認諾)
第266条 請求の放棄又は認諾は、口頭弁論等の期日においてする。

2 請求の放棄又は認諾をする旨の書面を提出した当事者が口頭弁論等の期日に出頭しないときは、裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官は、その旨の陳述をしたものとみなすことができる。


(和解調書等の効力)
第267条 和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有する


 そもそも裁判とは、原告が何かの請求権(今回の事案の場合、損害賠償請求権)があることを主張し、被告の反論を踏まえつつ、裁判所がその請求権が存在するか否かを判断する手続きだ。


 そのポイントは、裁判というものは、「真相の解明」を目的としているのではなく、あくまで「請求権が存在するか否か」を判断する手続きにすぎない、ということ。


 このことにより、被告が「その請求権があることを認める(認諾)」と言えば、その時点でもはや裁判所が請求権の有無を判断する必要はなくなり、それ以降、裁判を継続する意味はなくなる。結果的に、裁判は強制的に終了となる。


 原告が以後も裁判の継続を求めても、一方的に裁判を終わらせることができるという制度が、認諾だ。


 このような請求の認諾は、しかし「全面降伏」も意味するため、通常の裁判でもあまり使われない異例の手続きでもある。実際、経験したこともない弁護士も存在するという。


過去の「認諾」事案


 そもそも、今回の事案のような国家賠償請求訴訟で国が「認諾」するようなことは、過去にも4例しか存在しないことが、12月17日の参議院予算委員会における共産党の小池晃書記局長の質問に対する、法務省の武笠圭志訟務局長の答弁でわかった。


 最近では、情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事長が、日米合同委員会の議事録の開示請求をめぐり起こした国賠訴訟において、日米合同委員会の議事録(実際にこのときに請求されていたものは、日米の担当者間の単なるメールのやりとりに過ぎず、しかも一般に公開するものでなく、裁判官のみに開示することを求めたもの)を開示したくない国(外務省)側が請求を「認諾」することにより、メールの開示を回避する選択を行った。


 これが4回目の認諾である。


 今回、国は日米合同委員会の議事録を提示したくないぐらいの強い思いで、どうしても裁判を終わらせたかったのだ。


 3回目の認諾は、検察官が証拠を捏造したことによって不当に逮捕、起訴された厚生労働省の村木厚子さんの国家賠償請求だ。


 しかも今回の森友学園に関する裁判では、事前に認諾により真相の解明が妨害される目的を防ぐ目的で、”あえて”1億1262億円あまりの高額な賠償額を設定していた。


 しかしながら国は、このような1億円を超える賠償金を払ってでも「認諾」したことで、この裁判は終了したのだ。


今回の「認諾」の問題点


 さらに今回の認諾の手続きは、かなりの問題をはらむ行為でもある。


 第一に、日本国憲法83条において、「国の財政を処理する権限は国会の議決に基づいてこれを行使しなければならない」と定めている。


 認諾により賠償金の歳出が確定する以上、国に裁量でこれほどの高額な賠償金の「認諾」は正当なものなのか疑問が残る。ちなみに地方自治体は、地方自治法96条13で損害賠償裁判の和解や認諾には、議会の議決が必要になると定めている。


 しかし国の場合、このような賠償金の予算は、各省の予算の「賠償償還及払戻金」という細目で毎年の予算の中にあらかじめ計上されているおり、すでに国会の議決を経ているとされ、個別の事件における認諾の是非は国の裁量の範囲内だという解釈が行われているという。


 さらに今回の認諾については、岸田首相や鈴木財務相は、国の責任が明らかだと判断したので認諾に転じたと説明した。ただ、この事案では2020年3月18日の提訴後に新たな証拠が出てきたという事実はない。


 何も状況は変わっていないのにもかかわらず、国側が突如として認諾に転じた理由は不明瞭だ。


 また、首相や財務相が、「国の責任は明らかで、赤木さんの求めに対して真摯な対応を取りたいと考え、認諾に転じた」としているが、この裁判の目的は「真相の解明」であり、賠償金の支払いではない。 認諾したにもかかわらず、真相は何も分かっていないのだ。


認諾が行われるのは、“国家機密“レベル


 さて、3度目の認諾の事案もみていこう。日米合同委員会とは、日米地位協定の運用について協議する会議である。この議事内容の情報公開請求訴訟も最終的に認諾となった。


 情報公開を求め国と争ったNPO「情報公開クリアリングハウス」三木由希子理事長は、2018年3月2日、司法記者クラブで記者会見を行い、国が日米合同委員会の議事録を公開できない根拠としてきた、米政府側から議事録を非公開とするよう、要請があったとする主張を撤回したことを明らかにする。


 理事長によると、撤回の理由は、国は議事録の非公開を求めるメールの提出を裁判所から命じられる可能性があり、それを回避するためにそもそもの主張自体を取り下げるたという。


 日米地位協定は、日本の国内法の適用が免除されている在日米軍の軍人やその家族、軍属の法的地位を規定するものだ。


 しかし実際の運用については、日米地位協定に基づく法的地位と、日本の法律に拘束される日本国民との間にさまざまな矛盾や利害の衝突を生じさせることが多かった。


 そのため、地位協定の具体的な運用方法について、日本と米国の代表者の間で協議する目的で、1960年の地位協定の発効と同時に設けられたものが、この日米合同委員会である。


 日米合同委員会は、日本側からは外務省北米局長が、米国側は在日米軍副司令官が代表を務め、その下に在日米軍と日本政府のエリート幹部らが36の分科会や委員会に分かれて協議の場が設けられているという。


 月2回のペースで外務省本庁と東京都内の米軍施設「ホテルニュー山王」で交互に開催され、その内容は非公開とされる。


 しかし、政府が国民に説明したものとは異なる「密約」が多く含まれていることが、米国側で情報公開請求を行った研究者らによって明らかにされており、問題となった。つまり、認諾がなされるということはもはや、”国家機密レベル”であるということだ。

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