ノーベル文学賞、韓国のハン・ガン氏が受賞 ハン・ガンとは? 韓国歴史のトラウマと向き合う
今年のノーベル文学賞は韓国の作家ハン・ガン氏に授与された。これは韓国人作家として初めての快挙となる。
ハン・ガン氏は1970年11月27日、韓国の光州市で生まれる。9歳でソウルに移住し、延世大学で韓国文学を専攻した父親のハン・スンウォン氏も著名な小説家である。
ハン・ガン氏は1993年、詩人としてデビュー。1995年、短編小説集『麗水の愛』で小説家デビューした。2007年から2018年まで、ソウル芸術大学で創作を教えた経歴を持つ。
代表作は2007年に発表した「菜食主義者」(英題: The Vegetarian)。本作は、2016年には国際ブッカー賞を受賞し、国際的な注目を集める。
ほか、2014年に発表した光州民主化運動を題材にした歴史小説「少年が来る」英題: Human Acts)や2016年に発表された「白」(英題: The White Book)も2018年国際ブッカー賞最終候補に。
また「ギリシャ語の時間」(英題: Greek Lessons)(2011年発表、2023年英訳出版)、済州4・3事件を題材にした歴史小説「別れない」(英題: We Do Not Part)(2021年発表)などの代表作がある。
スウェーデン・アカデミーは、ハン・ガン氏の「歴史的なトラウマに向き合い、人間の生命の脆さを鮮やかに描き出す力強い詩的散文」を高く評価(1)。ハン氏の作品は、暴力、喪失、家父長制といった多様なテーマを掘り下げ、独自の視点で肉体と精神、生者と死者の関係性を探求している。
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ハン・ガン氏とは?
ハン・ガン氏は1970年11月27日、韓国・光州市に生まれた。父親のハン・スンウォン氏も著名な小説家で、1968年に短編小説「木船」でデビューし、50年以上にわたり作家として活躍している。彼女は9歳でソウルに移住。
1989年に豊文女子高等学校を卒業し、1993年に延世大学の韓国文学科を修了。同年、詩人としてデビューし、1994年には短編小説「赤いアンカー」で小説家としての第一歩を踏み出す。
1995年には初の短編小説集『麗水の愛』を発表し、2005年には短編「蒙古斑」で李箱文学賞を受賞。さらに、2007年から2018年までソウル芸術大学で創作指導を行った。
ハン・ガン氏の作品は、光州事件や済州4・3事件など韓国の歴史的トラウマを題材に、歴史の痛みと向き合う力強い表現で評価。彼女の作品には、人間の儚さや生命の脆弱さに対する深い洞察が込められている。
特に『菜食主義者』は、韓国を超えて世界中の読者に共感を呼び起こし、2016年にはブッカー国際賞を受賞。また、メディシス賞外国小説部門やエミール・ギメ アジア文学賞など、国際的にも高い評価を得てきた。
ハン・ガン氏の受賞後(10月10日夜)から10月13日正午までの約3日間で、ハン・ガン氏の作品は韓国で累計50万部売れたと報道。韓国・ソウルの大型書店では、ハン・ガン氏の本を買うために連日長い行列ができていた。
作風
ハン・ガン氏は詩人としてキャリアを始め、小説においても詩的で繊細な文体が特徴的。豊かな感受性で事象を細やかに描写し、読者に強い印象を与える作風が評価されている(2)。
また、韓国の光州事件や済州島4・3事件などの歴史的なトラウマと向き合い、それらをテーマにした作品も数多く手がけている(3)。
彼女の作品では、人間の内面、特に苦痛や傷に焦点を当て、その痛みを分かち合おうとする姿勢が強く感じられる(4)。また『菜食主義者』などでは、家父長制社会における女性の抵抗を暗示的に描き、社会問題を女性の視点から浮き彫りにしている(5)。その詩的かつ実験的な文体は、現代の散文文学において革新的な存在として高く評価されている(6)。
個人の内面を掘り下げながらも、普遍的なテーマへとつなげ、歴史の忘却への抵抗を表現する骨太な作品が多く、現代社会の問題ともリンクする(7)。ハン・ガン氏は、現代の世相や歴史を描きつつ、今日の世界情勢にも通じる内容を提供しており、新冷戦とも称される現代の状況下で特に注目される作家だ(8)。
彼女の代表作は日本でも早い段階で翻訳され、出版されている。文学賞の受賞をきっかけに日本の読者が韓国文学に親しむ機会が増え、ハン・ガン氏の作品が広く読まれるようになった。
光州事件 韓国歴史のトラウマと向き合う
ハン・ガン氏は光州事件をはじめとする韓国の歴史的トラウマと正面から向き合い、それらをテーマにした作品を多く執筆してきた。特に代表作「少年が来る」は光州事件を中心的なテーマとして扱っている。
光州事件は、1980年5月18日から27日にかけて韓国の光州市を中心に起きた、軍事政権に対する市民による民主化要求の蜂起。1979年の朴正熙大統領暗殺後、全斗煥による軍事クーデター後、1980年5月17日、全国に戒厳令が布告され、野党指導者の金大中らが逮捕・軟禁された。
5月18日、光州市で戒厳令に抗議するデモが発生し、デモ隊は武装し、軍との衝突が激化。市民は一時的に光州市を掌握する「解放区」を形成するも、5月27日、軍隊が市内全域を制圧された。公式発表では死者174名、負傷者4,782名の犠牲者を出す。事件は、韓国の民主化運動の重要な転換点となった。
「少年が来る」は1980年5月に起きた光州事件を中心的なテーマとして扱うも、事件そのものを直接的に描くのではなく、事件に巻き込まれた人々の視点から光州事件の悲劇と影響を描く。
ハン・ガンは直接的な描写を避け、詩的で象徴的な表現を用いることで、事件の残虐性や悲惨さを効果的に伝えている。これは彼女の特徴的な文体の一つだ。そして光州事件という特定の歴史的出来事を描きながらも、人間の生き方や傷ついた姿、苦痛を分かち合おうとする姿勢など、普遍的なテーマを探求している(9)。
(1)BBC NEWS JAPAN「ノーベル文学賞にハン・ガンさん 韓国作家で初」2024年10月11日、https://www.bbc.com/japanese/articles/cy4d2lp8923o
(2) ハンギョレ新聞「ハン・ガン氏、韓国作家初のノーベル文学賞受賞…「歴史的トラウマに立ち向かう」」2024年10月11日、https://japan.hani.co.kr/arti/culture/51330.html
(3) 佐藤大介「韓国人ノーベル賞作家ハン・ガンが伝える「歴史の痛み」を学ぶ重要性」COURRiER JAPON、2024年10月27日、https://courrier.jp/columns/380079/
(4) 飯田樹与「「社会の痛みを掘り下げてきた」ノーベル文学賞のハン・ガンさん 翻訳家と出版社代表が語る魅力とは?」東京新聞、2024年10月11日、https://www.tokyo-np.co.jp/article/359808
(5) NHK NEWS WEB「ノーベル文学賞に韓国の作家 ハン・ガン氏 アジア出身女性で初」2024年10月10日、https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241010/k10014605611000.html
(6) 佐藤大介、2024年10月27日
(7) NHK NEWS WEB、2024年10月10日
(8) NHK NEWS WEB、2024年10月10日
(9) 飯田樹与、2024年10月11日