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インザボトル
いつか、洋画で観たのだと思う。私はまだ小学生だった。強烈なノスタルジーに目眩がした。それまで考えもしなかった方法は、私に衝撃を与えた。
空のボトルに手紙を入れて海へ流す“ボトルメール”。
誰かに向けていて、でも誰にも向けられていない手紙をくるくると巻き、そっとボトルに入れ、しっかりと蓋を閉める。
無責任で無力な手紙を、静かに波打つ水面に浮かべるとき、人は何かを願う気がする。
誰かが見つけてくれるように。この思いが誰かに触れられるように。誰かが共鳴してくれるように。
人は、『誰か』を願う気がする。
人生で一度だけ、ボトルメールを流したことがある。川くらいぐんぐん流れていってくれれば夢も膨らんだだろうが、私が流したのは湖だった。
親子で湖畔にキャンプに行った時のこと。小学五年生くらいだった。空のペットボトルに手紙を入れて、暗い水面に置いた。
皆が寝静まるまで待ったのだ。『またそんなメルヘンなことして』と兄弟に笑われたら癪に障る。
一周りするには車を要するくらいの湖だったが、それでも比較的小さめだ。特に満ち引きもない水面にペットボトルはしんと浮かんでそのままだった。
やはり映画のようには行かない。私は諦めてテントへ戻った。
一週間ほど経った頃、学校帰りに何気なくポストを開いたら、一通の手紙が入っていた。可愛らしい字で見知らぬ名前が書かれてあった。
私は咄嗟に、暗い湖に浮かぶ無気力なペットボトルを思い出した。自分の部屋に入ると、急いで封を開けた。
同い年の女の子からだった。三つも四つも町を超えたところに住む子だった。
友達になりましょう、と書いたのだった。住所と名前を書いたのだった。私の願いである『誰か』は、友達になりましょう、いろいろ話しましょう、と書いていた。
家族、好きなバンド、焦がれているクラスメイト、思わず笑ってしまった話、覆い被さって離れない悩み、将来、未来。
飲み干したペットボトルに入れたノートの切れ端は、湖の岸にじっと数日浮かんでいたんだろう。どこにも行かずそのままの場所に居たんだろう。
映画のように流れなくたって、漂わなくたって、私たちは出会う。出会って言葉を交わし、繫がる。
あの町の、湖の、岸の、水面の、ボトルの、中。
詰められた私は、あの子の手によって救い出されて羽ばたいた。
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取り憑かれた
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淋しくて買ってしまった
スーパーのお花
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(毎週木曜更新―今週は一日遅れ)とは、
湖嶋家に届くサブスクの花束を眺めながら、
取り留めようもない独り言を垂れ流すだけの
エッセイです〜
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