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プレイヤーそれぞれの追憶を喚起する、ナラティブに優れた作品〜「The Gardens Between」評

人はなぜ追憶を語るのだろうか。どの民族にも神話があるように、どの個人にも心の神話があるものだ。(北杜夫「幽霊」より)

一定以上の年齢の方であれば、誰しも、懐かしく思い出される子供の頃の思い出というものがあると思います。

幼い頃住んでいた街の風景、仲良く遊んでいた(そして今は疎遠になってしまった)友だち、好きだった場所や物…。
そういった思い出は、普段は忘れていても、夢に出てきたり、ふとした瞬間に思い出したりして、私たちを懐かしい気持ちにさせます。

今回紹介する「The Gardens Between」は、プレイする私たちそれぞれの、そういった追憶を喚起してくれる、そんな作品です。

1. 本作の概要

本作「The Gardens Between」は、オーストラリアのスタジオThe Voxel Agentsによって作られたアクションパズルゲームで、2018年にリリースされました。
Nintendo Switchのほか、Steam(Windows, macOS, Linux)・PlayStation 4・XBOX Oneといった各プラットフォームで配信されています。

親友同士の少年少女が、離れ離れになってしまう前の最後の晩に、超現実的な不思議な世界に迷い込みます。
そして、その世界で彼らの友情の思い出を巡る旅をする、という内容で、ゲームのステージとなるそれぞれの島に、彼らの思い出の品や出来事がモチーフとして配置されています

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本作を特徴付けているのは、個性的なゲームシステムと、美しいアートワークです。

本作では、時間を進めたり戻したり停止させたり、自由に操作することができ、それによってパズルを解き、先に進むための道を切り開きます。
例えば、時間を進めた先でアイテムを入手し、そのあと、そのアイテムを持った状態で時間を戻すことにより、そのアイテムを使った仕掛けを作動させて先に進めるようにする…といった具合です。

アートワークに関しては、下に示す開発者のインタビューによると、日本の「枯山水」の理念が反映されており、美しく静謐な世界が表現されています。

2. 評論:プレイヤーそれぞれの追憶を喚起するということ

僕が本作で注目するのは、ストーリーテリングにおける「絶妙な距離感」です。

本作のゲーム中には、言語による情報が一切ありません。
キャラクターたちは一切セリフを話しませんし、状況が言葉によって説明されることもありません。
それぞれのステージにおいて、2人の思い出に関する断片的なモチーフ(2人で遊んだビデオゲームだとか、博物館に行った時を想起させる恐竜の骨だとか)は示されるものの、細かいストーリーは語られません。

このように、本作では、プレイヤーに対して懇切丁寧にストーリーを説明してくれるのではなく、ある一定の距離を保っています

しかしそれゆえに、私たちプレイヤーそれぞれが、子供時代の追憶を喚起し、ゲームのストーリーの行間に投影する、豊かな余地を残していると思いました。

たとえゲームの主人公たちの境遇と自分自身の子供時代の境遇が一致しなかったとしても、「自分にもこうやって一緒に遊んだ友達がいたなあ」と思い出すことによって、我がことのように感じられるのです。

示されるモチーフがファミコン(っぽいゲーム機)だったり、初期型のMacintosh(っぽいパソコン)だったりするので、1980年代に少年少女時代を過ごした人に対しては、特にその効果が強いと思われます。

ビデオゲームにおけるストーリーテリングを語る文脈では、通常のストーリーテリングに対して「ナラティブ」という言葉がよく使われます。

通常の意味でのストーリーが、ゲーム内のキャラクターの所作や演出によって明示的に語られるものである一方、ナラティブというのは、その作品を遊ぶプレイヤーの内部に形作られる物語を指すようです。

開発者が用意したある一定のストーリーをプレイヤーに押し付けるのではなく、プレイヤーそれぞれが「自分自身の物語」をゲームの中に見出せる作りになっているという意味で、本作もまた、ナラティブに優れた作品である、ということができると思います

3. うまくいっていないと思われる点

総合的に見ると本作は、個性的なゲームシステムと質の高いアートワーク、そして上で述べた豊かなナラティブによって、質の高い作品になっていると思います。

ただし1点だけ、「本作のストーリーに対して、このゲームシステムである必然性が特にない」という点は、欠点と言えるかもしれません。

せっかく「時間操作」という面白いアイディアを採用したのですから、「時間を自由に操作できる」というシステムと「楽しかった思い出は二度と取り戻せない」というストーリーを対比させるようなステージがあっても良かったかもしれません。

その方が、より一層深い感動を与えることができたかもしれないと感じました。

3. まとめ

今回は、2018年のインディーズゲーム「The Gardens Between」を評論しました。

プレイ時間は数時間程度で長くなくリプレイ性も低いですが、プレイヤーに強い印象を残す、個性的な作品だったと思います。

本評論で述べたような、ストーリーテリング手法を持ったゲームをもっと遊んでみたいと感じました。
本作を作り上げたスタジオ、The Voxel Agentsの次回作にも期待したいと思います。

2020.1.30 Itaru Otomaru



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