コラム:Google「Stadia」の展望(2019年5月現在)

1. 前置き

すでに多くの方がご存知の通り、2019年3月に、Googleが新しいクラウドゲームサービス「Stadia」を発表しました。

ゲーミングPCを超えるリッチなゲーム体験がインターネットさえあれば体験できると宣伝され、既存のゲーム企業(任天堂など)の株価が下がる一幕もありました。
日本経済新聞をはじめとする一般メディアにおいても、「ゲーム機が消える」といったセンセーショナルな見出しで、大きく扱われています。

私(筆者)は当初、Stadiaの成功に対して懐疑的でした。とてもGoogleの目論見通り成功するとは思えず、ましてや「ゲーム機が消える」とは思えなかったのです。
しかし、ここ最近(2019年5月)考えが変わり、「Stadiaは成功し、ビデオゲームを変革する可能性があるかもしれない」と思うようになりました。

ここでは、当初私が「Stadia」に懐疑的だった理由、そして、今は「成功する見込みがある」と考える理由を述べます。

2. 当初筆者は「Stadia」に対して懐疑的だった

当初私が「Stadia」に対して懐疑的だったのは、「いくらGoogleといえど、遅延の問題は解決し難いのではないか?」と考えたためです。
これは、以下の記事をはじめ、さまざまなところで論じられました。

それに加え、「Stadia」はべつに世界初のクラウドゲームサービスではなく、これまでもPlayStation NowやGクラスタなど様々なものがあり、そしてどれもあまり成功していないこともありました。

しかし、これまでのゲームの進化の歴史に思いを馳せた時、私の考えは徐々に変わっていったのです。

3. 考えを改めた理由

私が考えを改め、「Stadiaには成功する見込みがある」と思うようになったきっかけは、「ゲーム技術の進化の歴史は必ずしも全方位に直線的に進化してきたわけではない」ことに思い至ったことでした。

つまり、
・新しいゲームプラットフォームが登場する時、それまでのプラットフォームを全方位で凌駕することはなく、むしろ退化する面もある
・そしてその退化は、その時点では致命的なものと受け取られるが、ゲームデザインやジャンルの変革によってカバーされる

ということが、これまでの歴史にあったことに思い至ったのです。

そしてStadiaは、上で述べたような歴史の繰り返しになると思ったことが、「成功する見込みがある」と考えた理由です。

これまでの歴史について、具体例を挙げます。

第1は、ロード時間です。
ファミコンやスーパーファミコンといったROMカセットゲーム機には、(基本的に)ロード時間がありませんでした。
それに対してPlayStation(PS)が登場した時、PSが数十秒〜1分ものロード時間を要することを、致命的な退化と捉えた人は少なくなかったと思います。
しかし、PSのようなCD-ROMのゲーム機が主流になるにつれ、人々は「ゲームとはそういうもの」と慣れていきましたし、演出の工夫や先読みの技術によってロードによる体感的な待ち時間はだんだんと軽減していきました。

第2は、フレームレートです
スーパーファミコンまでのゲーム機は、フレームレート(1秒間の画面書き換え回数)は60回(つまり60fps)が当たり前でした。
画面描写をリッチにするために30fpsにしたり、逆に「滑らかな動きを実現」などと60fpsであることをウリにしたりするのは、PS以降に生まれた概念です。

これも、プレイヤーの操作が画面にダイレクトに反映されることを重視する人からすると、PSになって60fpsではなくなったことは、致命的な退化だったかもしれません。

しかし、60fpsでないことは、必ずしもゲームの魅力を損ないませんでした。(あの名作「ゼルダの伝説 時のオカリナ」なんて、30fpsをも下回る20fpsなのですから!)

翻って「Stadia」の考察に戻ります。

たしかに、今主流のゲームジャンルやゲームデザインからすると、入力が画面に反映されるまでにコンマ数秒の遅延が発生しうるクラウドゲームは、致命的な退化かもしれません。

しかし、Stadiaのようなクラウドゲームが普及すれば、そういった遅延が問題とならないように、ゲームデザインの方が変化するのではないでしょうか。

例えば、キャラクターはAIがほとんど動かしてくれて、プレイヤーが介入したい時だけ操作するようなゲームが一般的になるかもしれません。
(思い返すと、FINAL FANTASY XIII(FF13)の戦闘って、そんな感じでしたね)

あるいは、いまNetflixで試みられているような、インタラクティブシネマ形式のゲームが人気を博すかもしれません。

このように、クラウドゲームには、その長所を伸ばし短所をカバーするような新しいゲームデザインが適用されるのではないかと考えるのです。

4. まとめ

本稿では、Googleの「Stadia」について、私なりの展望を述べました。

Stadiaが、本稿で述べたようにその短所をカバーして成功するのか、あるいは私の当初の考え通り期待倒れに終わるのか、現時点ではわかりません。

一つ確かなのは結局「いかに面白いゲームが遊べるか次第である」ということです。
Stadiaならではの斬新で面白いゲームが生まれることを、いちゲーマーとして楽しみにしています。

2019.5.22 Itaru Otomaru

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