シェンムー IIIは「どうぶつの森」である〜「シェンムー III」評
渡航費・人件費・設備費・スマホ代…諸々あわせて、合計49800ベルになりまーす!(「あつまれ どうぶつの森」 E3 2019出展映像より)
(奥義書の)代金は5000元(「シェンムー III」より)
1. はじめに
2019年11月に、シェンムー シリーズ18年ぶりの続編「シェンムー III」が発売されてから、2ヶ月強が経過しました。
この2ヶ月間で、絶賛・酷評の両方から、読み応えのあるレビューが発表されました。
これらに及ぶべくもありませんが、僕自身も昨年末、「2019年のベストゲーム5本」の1本として、本作の短評を掲載しました。
昨年末の評では、他のどのゲームにも似ていないリアリティを以て、本作を絶賛したのですが、今回の評では、僕が感じる、本作の別の側面にスポットライトを当てようと思います。
それは「シェンムー IIIのゲームデザインの根幹は『どうぶつの森』とほぼ同じものである」というものです。
2. 「どうぶつの森」シリーズのゲームデザイン
本題に入る前にまず、「どうぶつの森」シリーズのゲームデザインを整理しておきます。
本シリーズはよく「のどかな村でのスローライフ」と表現され、それは決して間違いではないのですが、実際に遊んでみると異なる側面が見えてきます。
本シリーズでは多くの場合、不動産屋である「たぬきち」からプレイヤーの家の新築費用や改築費用として、多額のベル(ゲーム内の通貨)を請求されます。
そして、ローン返済のための莫大な額を金策することがゲーム全体の目的の一つとなります。
また、このように自宅のローンを返済することと並行するのが、莫大な種類(Nintendo 3DS版の場合で1000種類以上)のアイテム(家具や服、化石など)の収集です。
その中には「デパート」でしか販売されていないブランド品や装飾品である「おうかん」のように高価格だったり、あるいは、取得のために季節限定のイベントをこなす必要があるものも多く含まれます。
「干支シリーズ」の置物(毎年元旦に1つずつ受け取ることができる)のように、正攻法ではコンプリートに実際の時間で12年(!)かかるものまで存在します。
つまり、本シリーズのもう一つの目的「アイテムの収集」を進めるためにもローン返済と同様に莫大な額の金策が必要ですし、さらに、年単位に及ぶ長いプレイ時間を要します。
さらに、3DS版の「とびだせ どうぶつの森」には、他機種の実績やトロフィーに相当する「バッジ」という要素があるのですが、「虫を5000匹以上捕まえる」等々取得条件が厳しいものが多く、年単位のコツコツとした努力を求められます。
このように、本シリーズのゲームデザインには「莫大な額の金策と莫大な種類のアイテム収集のために、生活するかのごとく長期間、そのゲーム世界で過ごすことを求められる」という特徴があることが分かります。
3. 「シェンムー III」と「どうぶつの森」の類似性
本作「シェンムー III」のゲームデザインですが、上で整理した「どうぶつの森」のゲームデザインと比較すると、共通点が多いことが分かります。
本作では、メインストーリーを進めるだけでも「2000元の老酒」だとか「5000元の技書」だとかの購入が必要なので、結構な金策が必要です。
(宿屋が1泊28元、アルバイトの賃金がゲーム内時間の1時間あたり100元程度の本作の世界において、これらはかなり高額の出費です)
さらに、各所で遊べるガチャガチャのコンプリートを目指す場合、必要なお金はさらに跳ね上がります。
なにせ、1回回すために5〜10元かかるガチャガチャが何十種類もあって、それぞれにおけるレア排出率は、実測1〜2%くらいなのですから。
このように、「どうぶつの森」と同様に、本作においても、莫大な額を金策することが主要な目的の一つであることが分かります。
また、「莫大な種類のアイテムを収集する必要がある」という点においても、「どうぶつの森」シリーズと本作の間には共通点がみられます。
というのも、本作には「指定されたアイテムのセットを収集すると、質屋でそのセットと対応する『技書』と交換できる」という「技書交換システム」があるからです。
収集対象となるアイテムは多岐にわたるため(例えば、上で紹介したガチャガチャのレア景品もその一つです)、ゲーム内の様々な寄り道要素(ゲームセンターの遊戯やギャンブル、「鳥舞ちゃん」探しなど)を全てやり尽くして、アイテムを収集してまわる必要があります。
さらに、「魚を1000匹釣る」というトロフィーがあったり、技書交換を応用してほぼ無制限に資金を増やす方法がアップデートで無効化されたりしたことから、開発者は、プレイヤーに長期間、本作にコミットし続けることを期待してバランス調整を行っていると考えられます。
このように、バランス調整の方針にも「どうぶつの森」シリーズとの類似点を見出せます。
ちなみに、本作では、前半の舞台となる村「白鹿村」と後半の舞台となる街「鳥舞」との間は、ストーリーを周回することでしか行き来できません。
でも、仮に自由に行き来できたとしたら「街へいこうよ どうぶつの森」(Wii、任天堂、2008)と同じ構造になるなあ、と感じたりもしました。
これらのことから、第2章で論じた「どうぶつの森」シリーズにおける特徴的なゲームデザインは、本作「シェンムー III」においても見出すことができ、両者には多くの共通点がある、ということができると思います。
4. まとめ
以前の短評では、本作が持つ「他のオープンワールドゲームとは一線を画したリアリティの追求」に注目した評論を行いました。
それに対して今回の評論では、少し目線を変えて、本作と「どうぶつの森」との共通点について論じました。
思い返すと「ゲーム内で本物のゲーム(アウトランやアフターバーナー)が遊べる」という、シェンムーで特徴的だった要素をいち早く取り入れていたのは、どうぶつの森(の初期作には存在した「ファミコン家具」シリーズ)でした。
その点では昔から、両者の共通点はわずかににあったのかもしれません。
もちろん、本作のゲームデザインには「どうぶつの森」シリーズと相違している点も多いです。
家族やオンライン上のプレイヤーなど、他者とコミュニケートする要素は本作では皆無ですし、これだけ膨大な数のアイテムがありながら、どうぶつの森とは違って、それらをデコレーションできる自宅や自室はありません。
それでも、「今日は釣りをやろう」とか「ガチャガチャを回そう」などと考えながらシェンムー IIIを毎日起動させ、少しずつ進めている時のプレイ感覚は、どうぶつの森シリーズを毎日プレイしていた頃とよく似ていたことも事実でした。
絶賛・酷評のレビュー双方で指摘されている通り、本作のストーリー性は希薄(特に後半はほぼ物語が進行しない)だということには僕も同意します。ですが「どうぶつの森のように生活を楽しむゲームなのだ」と思えば、まあ、アリかな…という気がしてくるように思います。
2020.2.3 Itaru Otomaru