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ビデオゲーム史研究:「縦マルチ」の起源

1. はじめに

最近は、前世代機と今世代機(例えばPS4とPS5)で同一タイトルを同時発売する、いわゆる「縦マルチ」は珍しいことではなくなりました。

PlayStationプラットフォームではPS5の発売から1年以上が経過する2022年も多くの主力ソフトがPS4/PS5同時発売となる見込みですし、XboxはSmartDelivery戦略によりOne世代とSeries X|S世代の垣根がほぼ取り払われています。

では、この縦マルチという手法はいつ生まれたのでしょうか?

PS3からPS4への移行期(2014年ごろ)に一般化したように記憶していますが、起源はもっと古いかもしれません。
本記事ではビデオゲーム史研究として、縦マルチの起源を探ります。また、厳密には縦マルチとは言えないけれと、それに近いゲームたちの存在の掘り起こそうと思います。

2. 縦マルチの定義と起源

縦マルチの起源を探る前に、本記事では縦マルチを以下の通り定義しておきます。

1. 直系のゲームコンソールの前世代機と現世代機で同時発売されること。
2. 両者のゲーム内容が(細かい点を除いて)ほぼ同一であること。

1. は、例えば当初PS4版が発売されのちにPS5版が発売された「FF7リメイク」や「Ghost of Tsushima」は、縦マルチに含めないことを意味します。
2. は、例えば「Call of Duty 4」のNintendo DS版のように、ゲーム内容を大幅にアレンジして性能の劣るコンソールに移植したものは、例え同時発売であっても縦マルチには含めないことを意味します。

上記の定義に従うと、世界初の縦マルチ作品は…
ゲームキューブ(GC)とWiiで同時発売された「ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス」(2006年12月2日)
…だと思います。

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任天堂公式サイトより(※上記画像はWii Uで発売されたHDリマスター版)

本作はもともとゲームキューブ向けに開発されていたものが、Wiiのローンチタイトルとして仕切り直された、という経緯があります。
そのため、日本では任天堂の直販限定ではあったものの、ゲームキューブ版も同時発売されました。

本作のGC版とWii版ですが、厳密にはゲーム内容は同一ではありません。
本来左利きの主人公リンクが、Wii版では右利きのキャラクターに設定されています。それだけでなく、世界全体も鏡写しのように、丸ごと左右反転しているのです。

しかし、この程度であればゲーム内容はほぼ同一といっていいと思います。

3. 縦マルチと近縁の作品たち

前の章で定義した縦マルチからは少し外れるのですが、近縁の作品にまで視野を広げると、さらに時代を遡ることができます

3-1. 当初前世代機で発売された作品が、次世代コンソールが発売されたのち、アップグレード版として発売されるパターン:

これは「真・三國無双4」(初代XBOX版:2005年8月25日、XBOX 360版:2005年12月22日)がおそらく最初です。(ただし360版は「真・三国無双4 Special」として発売)
(発売日がとても近いものとして、「バーンアウト リベンジ」(初代XBOX版:2005年9月13日(北米)、XBOX 360版:2006年3月7日(北米))があります)

この形式は、2021年現在では、ディレクターズカット版や次世代機アップグレード版として一般的になってきました。

3-2. 当初次世代機で発売された作品が全く同一のゲーム内容を維持したまま前世代機に移植されるパターン:

これはかなり珍しいですが、初代「バーチャファイター」(セガサターン版:1994年11月22日、スーパー32X版:1995年10月20日)が該当します。

同一ゲーム内容にこだわらない、いわゆる「アレンジ移植」までを含めると、メガドライブ版ののちにゲームギア版が発売された「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」(1991年)などさらに時代を遡れるのですが、流石に「マルチタイトル」の定義から大きく外れるので除きました。

3-3. 同一メーカーの据え置き機と携帯機で同時発売されるパターン:

「テトリスフラッシュ」や「ヨッシーのたまご」など、任天堂の作品のいくつかで、ファミコンとゲームボーイで同時発売されたものがあり、それらはこのパターンに該当します。

このパターンに該当する最初の作品は「ドクターマリオ」(1990年7月27日)です。

2021年現在は携帯ゲーム機の現行機種が消滅してしまったので、最近はこのパターンに該当する作品は観られなくなりました。
かつては、PS2とPSPの同時発売作品が結構ありましたが…

3-4. ゲーム内容はそれぞれ異なるが複数機種で同時発売されるパターン:

Madden NFLやFIFAなど米国のスポーツゲームに見られるパターンです。

このパターンの初出はおそらく「FIFA International Soccer」(1993年)でしょう。
本作は1993年にまずSEGA Genesis(メガドライブの北米版)で発売され、1994年に、SNES(スーパーファミコン)・ゲームギア・3DO・MS-DOS・Sega CD(メガCDの北米版)・ゲームボーイといった様々な機種に展開されました。

※ 2021.10.24追記
このパターンは、上記の「FIFA International Soccer」よりも、1991年にファミコン・スーパーファミコン・メガドライブなど様々な機種で発売された「信長の野望 武将風雲録」(光栄)の方が古いです。
綾茂勝太郎(GAMIAN) (@aysgstr) 様、Twitterでのご指摘、ありがとうございました。

このように、厳密には縦マルチとは呼べないが、それに近い作品までを含めると、かなり古い時代までその起源を遡ることができます。

4. まとめ

本記事では、いわゆる「縦マルチ」と呼ばれるビデオゲームの開発・販売手法に着目し、その起源を探りました。

縦マルチの起源自体は本記事で示した通り2006年です。
しかし、その手法が一般的になったのは、2013〜2014年ごろ、PS3からPS4・Xbox 360からXbox Oneへの移行期からでした。

かつては、縦マルチというのは、ハード移行期のわずかな期間に生じる特別なものだったと思います。
しかし、2021年現在、この状況は少し変化しているように思います。
というのも、冒頭で述べた通り、PlayStationフォーマットでは、PS5発売から1年以上が経過する2022年以降も、PS4とPS5での縦マルチが継続することが決まっているからです。

PS5はPlayStation史上最高のセールスを記録しているはずなのに縦マルチが継続することは奇妙に感じますし、PS4とPS5で同一タイトルが出せてしまうということは、ハードウェアスペックの進化がグラフィックの進化以外に貢献していないように見えてしまうので、この状況を若干危惧しています。

が、いちゲームファンとしては見守りたいと思います。

(了)

2021.10.21 Itaru Otomaru


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