コラム:PS5/Xbox Series X|S 世代の「実績」の展望
1. はじめに
実績、あるいはトロフィー。
取得したからといって、とくに何かメリットがあるわけでもないのに、ついつい集めたくなってしまいます。
様々な面が進化し、革新されると言われる次世代機(PS5 / Xbox Series X|S)ですが、実績 / トロフィー機能はどのように変わっていくのか、本コラムでは、それを予想したいと思います。
最初に結論を書いてしまいます。
当面は、前世代機(PS4 / Xbox One)向けのゲームの互換性が重視されるため、前世代から特に変化なしだが、長期的には、搭載しないゲームが発売されたり、取得時の演出が簡素化されたりするなどして、縮小してゆくと思う。
上記の結論に至った理由はいくつかあるのですが、大きなものとして、映像・音響面やロード時間が大幅に削減されるという次世代機の進化は、「演出タイミングを含めて製作者の意図をより忠実に反映できるようになる」方向にはたらくと考えていて、製作者の意図とは関係なくゲームの外側から介入してくる実績取得の演出は、無くなってゆくと予想されるというのがあります。
以下、「実績」の歴史や、果たしてきた役割を紐解きながら、さらに詳しく、述べてゆきます。
※ なお、本コラムでは、特に断りがない限りは、実績・トロフィー・アチーブメント etc.を総称して「実績」と呼びます。
2. 「実績」の歴史
スコアアタックや「進行度」など、それまでゲーム内で完結していた「ゲームのやり込み度合いの可視化」を、最初に「実績」というプラットフォーム機能として提供したのは、2005年に発売されたXbox 360でした。
2008年にはPlayStation 3(PS3)も「トロフィー」機能で追随したほか、Steam / UPlay / iOS Game Centerなど、主要なプラットフォームのほとんどに搭載されるようになりました。
(ただし、Nintendo 3DS・Nintendo Switchなどの任天堂系プラットフォームや、現状最後発のプラットフォームである「Epic Games Launcher」には搭載されていない、というのは興味深い点です)
以降、Xbox 360→Xbox One、PS3→PS4と世代が交代しても、この実績機能は継承され、プラットフォームの重要な機能であり続けています。
3. 「実績」が果たしてきた役割
その誕生から約15年、「実績」は、ビデオゲームの遊び方・楽しみ方を変えるのみならず、ビデオゲーム業界の外にも影響を与え、大きな役割を果たしてきたと思います。
「実績」が存在することで、ゲームの製作者は、プレイヤーにやり込みの指針を示し、クリアする以外の方法でゲームを楽しんでもらうモチベーションを与えられるようになったと思います。
例えば、Grand Theft Autoシリーズなどのオープンワールドゲームでは、マップのあちこちに隠されたアイテム(隠しパッケージ)を全て見つけ出すことに対して「実績」が設定されています。
これがあることで、製作者は、普通にプレイするだけでは見過ごしてしまうようなマップの細かいところまでプレイヤーに見てもらうことができます。
(ちなみに、上記については以前「パッケージ収集問題」と名付けて書いたことがあるので、そちらも併せてどうぞ(※未完成ですが))
そして、ビデオゲーム業界の外では、「ゲーミフィケーション」という概念を生む、直接のきっかけになったと思います。
2012年に出版された「ゲームの力が会社を変える -ゲーミフィケーションを仕事に生かす」(岡村健右、日本実業出版社、2012年)という本では、ゲーミフィケーションは以下のように説明されています。
「ゲーミフィケーション」とは、ゲーム以外の分野にゲーム的要素を組み込むことで、ユーザーのモティベーションやロイヤリティなどを高める手法を指す言葉です。(p.14)
また、同書では、ゲーミフィケーションを運用するための3つの要素として「課題」「報酬」「交流」があり、それらをループさせることが重要であると述べられています(p.67〜68)。
上記の構造は、ビデオゲーム自体というよりは、「実績」機能によってより明確に浮かび上がってきたものだと思います。
上記のループは、実績によってゲームプレイのモチベーションが高まり、ゲームの外側からプレイヤーが呼び込まれる構図そのものです。
本コラムを掲載しているnoteにも、スキをした数や投稿数に対して与えられる「バッジ」という機能があるように、あえてゲーミフィケーションを標榜しなくても、いまや、「実績」的な機能は、我々の生活の中に当たり前に存在しています。
このように、「実績」は、ビデオゲームの遊びかた・楽しみ方を規程するとともに、ビデオゲーム業界の外側にも影響を与え、大きな役割を果たしてきたことが分かります。
4. 「実績」のこれから
さて、このように、いまや広く普及し大きな役割を果たしてきた実績機能ですが、次世代(PS5 / Xbox Series X|S)では、どのように変わってゆくのでしょうか。
冒頭の繰り返しになりますが、僕は、以下のように考えています。
当面は、前世代機(PS4 / Xbox One)向けのゲームの互換性が重視されるため、前世代から特に変化なしだが、長期的には、搭載しないゲームが発売されたり、取得時の演出が簡素化されたりするなどして、縮小してゆくと思う。
そのように考える理由は、大きく2つあります。
第1には、次世代機の進化は「製作者の意図をより忠実に反映する」方向にはたらくと考えていて、実績取得のエフェクトなど、製作者の意図とは関係なく外部から介入をうける要素は、抑制されてゆくと考えられるためです。
ロード時間が短くなる(あるいは無くなる)という次世代機のメリットによって、これまで演出意図とは関係なく生じていた画面暗転時間が無くなり、映画などの他の映像メディアと同じように、製作者が意図するタイミングで次のシーンに遷移することが実現されると思います。
つまり、演出のタイミングを含めて「製作者の意図をより忠実に反映したゲーム」が実現すると思います。
実績に関して上で述べた予想は、そういった、僕が考える次世代機の進化の方向性に沿ったものです。
第2には、「課題・報酬・交流」という、これまで実績機能が担ってきた役割は、ゲーム実況やライブストリーミングとゲームプレイを結びつける、より洗練された機能が取って代わるようになると考えるからです。
まだ公式に発表されているわけではありませんが、PS5には進化した「アクティビティ」機能が搭載され、SNSやYouTubeのゲーム実況などからゲームの特定セッションに直接アクセスできるようになるようです。
これまでは、他のプレイヤーが解除した実績をオンラインで確認できることによって、他のプレイヤーと交流し、自分もその実績を解除したいという気持ちが掻き立てられ、プレイヤーがゲームの中に呼び込まれるというループを、実績機能が作り出してきました。
しかし、次世代機では、SNS・ゲーム実況とゲームがより緊密に連携することによって、これまで実績機能が担っていた役割を置き換えるのかもしれません。
5. おわりに
本コラムでは、PS5 / Xbox Series X|S世代の「実績」の展望について述べました。
僕自身は、実績やトロフィーを解除するのが好きです。
実績を解除するために、何年も前のゲームを再プレイすることもよくあります。
ただ、Xbox Oneでは実績解除の演出があまりにも大仰で、ゲームプレイを邪魔していると考えるようにもなりました。
レア実績を解除すると、BGMをかき消さんばかりの音量で効果音が鳴り響きますし、実績解除のポップアップによって字幕が見えなくなることもしばしばです。
映画にいろんな形式の作品があるように、ビデオゲームも、その機能をプラットフォーム側で規定するのではなく、より自由で多様な表現ができるように、進化してゆくのではないかと考えています。
(了)
2020.10.7 Itaru Otomaru
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