LGBT映画の祭典[レインボーリール東京2019]スパイラル初日レポート
7月5日(金)〜6日(土)に東京ウィメンズプラザで一部のプログラムを先行上映、そして7月12日(金)〜15日(月・祝)の週末3連休は青山スパイラルホールにて全プログラムが上映される今年の「第28回レインボーリール東京〜東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」。
東京ウィメンズプラザの先行上映では、現役米軍トランス兵士を追ったドキュメンタリー「トランスミリタリー」、フィリピンのJKビアン映画「ビリーとエマ」、34年前のエイズ・パニック時代の物語「1985」の3プログラムを鑑賞。その作品レビューは下記エントリでご紹介しています。
LGBT映画の祭典「レインボーリール東京2019」最速レポート
そして、いよいよ12日(金)に青山スパイラルホールでの本祭が開幕。今年のオープニング作品は、ゲイのプロサッカー選手の物語「マリオ」です。オープニングイベントの模様とともにレポートします。
プロサッカー選手・下山田志帆氏も登壇!
オープニング・イベントは昨年に続きブルボンヌ氏がMC。今年は実行委員長が不在のため、副委員長が開幕の挨拶を担当しました。
オープニング作品「マリオ」は、プライドハウス東京2019連携企画ということで、プライドハウス代表の松中権氏と、元ドイツ2部リーグ所属の女子サッカー選手・下山田志帆氏が登壇。ブルボンヌ氏の進行で、アスリートとLGBTに関するトークショーが展開されました。
下山田志帆氏が話す、女子サッカー界におけるレズビアンの捉えられ方は実に興味深いものでした。
下山田氏によると「女子サッカー界では男・女・メンズという3種類の性別がある」そうで、「レズビアン=メンズ」というのが世界の共通認識だとか。「メンズであるとカミングアウトしても、特に差別を受けたり偏見を抱かれることもなかった」とのこと。女子サッカー界はレズビアンの選手にとっても「生きやすい」環境のようです。
オープニングイベントに続いて、いよいよ今年の開幕を飾るオープニング作品「マリオ」の上映です。
『マリオ』
欧州プロサッカー界でゲイはタブー?
愛とサッカーの狭間で悩む青年の物語
◾︎物語
スイスのジュニアチームでトップリーグへの昇格を目指すサッカー選手のマリオ。ある日、ドイツからストライカーのレオンが移籍してくる。マリオとレオンをツートップとして育てたい意向のチームは、2人のための寮を用意する。ピッチでも息の合ったコンビネーションを見せる二人は、お互いの魅力にときめきを覚え、プライベートの時間も心を通わせ、いつしか恋に落ちていく。しかしその噂がチームにも広がり始め、マリオは決断を迫られることになる。
◾︎解説
女子サッカー界とは真逆の、ゲイ・フォビアが当たり前という男子プロサッカー界の内情を描いた物語。ゲイという噂が立つとファンが離れてしまうので、トップリーグのチームとの契約もできないという現実は厳しい。スイス映画賞2018で主演男優賞・助演賞を受賞したこの作品は、2019年2月に「ヨコハマ・フットボール映画祭2019」でも上映された。
◾︎注目点
「レインボーリール東京」のスパイラルホールでのオープニング上映作品は、毎年注目度が高いです。近年を遡ってみると
2018 『ゴッズ・オウン・カントリー』
2017 『僕の世界の中心は』
2016 『サマータイム』
2015 『イート・ウィズ・ミー』
というラインナップで、好みが分かれる部分はあるでしょうがいずれも興味深い作品が揃っています。
ところが、今年のオープニング作品「マリオ」に関しては、個人的には期待外れという印象しか残らず、とても残念でした。
確かに、欧州プロサッカー界においては「ゲイ」であることがマイナスにしかならない、という実情を知ることができたのはこの作品を見てよかったなと思える部分ではあります。しかし、映画としての面白さに決定的に欠けているのが、なんとも歯がゆくて。
東京ウィメンズプラザで先行上映された3プログラムを紹介するエントリ「LGBT映画の祭典「レインボーリール東京2019」最速レポート」内の「1985」のレビューで記したように、医学の進歩で治療法が確立したことにより今や「HIV陽性である」というだけでは物語を作れない時代になっています。ましてや「ゲイである」という1テーマだけで物語を構成するのは至難の技。にも関わらず、この「マリオ」はプロサッカー選手を志す青年が「ゲイであった」というテーマのみで映画を作ってしまったのです。
しかし、この試みはあまりにも無謀でした。
「ゲイであることが周囲にバレないようしながら燃え上がる愛と肉欲」
みたいな展開は、正直手垢がつきすぎていて、そこに目新しいものは何もありません。ありえないようなハッピーエンドとか、最悪の悲劇とか、とてつもない高揚感が押し寄せる試合場面、または苦悩の時期を経て成長していく主人公の姿など、何らかがクライマックスに用意されているならまだそこまで不満は抱かなかったと思うのです。
しかし、この映画には手垢のついた展開以上のものはありませんでした。
既に今年の2月に他の映画祭で上映された作品でもあり、これがスパイラルホールのオープニングを飾ったのは、なんとも無念な幕開けでありました。
英題:Mario
監督:マルセル・ギスラー
2018|スイス|119分|スイスドイツ語、ドイツ語
レインボーリール東京2019関連の下記エントリも公開しています。合わせてお読みいただけると嬉しいです。
◾︎LGBT映画の祭典「レインボーリール東京2019」最速レポート
東京ウィメンズプラザで先行上映された中から「トランスミリタリー」「ビリーとエマ」「1985」の3作品をレビューしました。
◾︎世界のLGBT映画の秀作を楽しむ映画祭が今年も東京で開催!
レインボーリール東京2019の全ラインアップをご紹介しています。