いや待て待て、"雪"ってなんだっけ?
どうも、石山です。
本日は新潟・山形旅の関連話として、『そもそも雪ってなんだっけ?』ということについて書きたいと思います。
<なんで雪の話を書こうと思ったか>
前回のnoteでは新潟県は長岡で"積雪観測&雪結晶撮影講習会"に参加した話を書きました。
要は「雪」にまつわるイベントです。冬の新潟に行ったのは日本海側の雪見たさも多分にありました。なので、このイベントもそうですが、新潟・山形旅を通じて雪を見たいだけ見たので大満足。そしてテンションも上がっていたので、バシャバシャ写真を撮って「雪がたくさんある!」って喜んでTwitterに投稿していました。
そうした中の一枚で上のような写真を投稿した際、お世話になっている先輩から"これは「あられ」なんじゃないの?"というご指摘を受けました。
ふーむ、確かに。
もちろん、気象を学んでいるものとして雪やあられは知識として勉強したことはあります。しかし、26年間東京に住んでいてあんまりにもそういったものが降らないもんだから、雪やあられの違いにこだわっていなかった。そういう自分の意識に気がついたのです。
「あられ」と認識して見るのはこれが初めて。そして、自分の中でふとした疑問が浮かんだのです。
あれ待てよ、雪とあられって何が違うんだっけ?
学んで認識していたものは大体こんな感じ。
雪 …雲中の水蒸気が凝結し氷の結晶が集まって地上に降るもの
あられ…直径5ミリ未満の氷の粒
…いや、待て、結局何が違うんだ。要は氷の結晶か氷の粒かという話なのですが、ピンときていそうでいまいちピンとこない。
勉強した時に知識として入れただけで、具体的なイメージが出来上がってなかったんだ。そして、最近研究対象である台風の話ばかり追っかけてて、他の現象の知識がボロボロ抜け落ちてそうだ…。
これは勉強し直しだな。
そう思い至って「雪」に関して調べ直していました。そしてせっかく勉強するのだから、noteに勉強をしたことも含めて「雪」の解説してみようと思います。(なるべく専門的すぎることは抜きます)
<雲のでき方 〜水滴になるまで〜>
雪の話なのに最初に雲の話をするの?
という疑問を持つ方もいるかもしれないですが、"雪"にしろ"あられ"にしろ雲の中で出来ます。なので、これからの話を理解するためには雲のでき方や中がどんな感じになっているかのイメージを持っていただく必要があります。
雲が存在するということは、空気中の水蒸気は水滴(雲粒)になる必要があります。水蒸気は今このnoteを読んでくれている皆さんの周りにもあります。そんな身近にあふれている水蒸気が水滴になるにはどうすればいいのか。それは、
"冷やす"
です。水蒸気が冷えれば水滴になります。正確にいえば"水蒸気を含まれている空気が冷えたら、その空気中に入れる水蒸気がキャパオーバーになり、そのキャパオーバーになった分の水蒸気は水滴に変化する"といった感じでしょうか。
これはみなさんが中学生で習った"飽和水蒸気量曲線"のことを思い出してもらえばわかると思います。湿度を求める際に使ったあれです。思い出しのために下に解説を入れます。必要ない方はこの部分はすっ飛ばしてください。
-------------すっ飛ばし 始-------------
飽和水蒸気量曲線とは、ある気温の1㎥の空気中に何グラムの水蒸気が含まれるかを示したものです。ある空気に含まれる水蒸気の量が曲線の下側である場合はまだその空気は水蒸気を含むことができ、曲線の上側の場合は曲線の上側分の水蒸気量は水蒸気から水滴に変わることを示しています。
そして、このグラフの横軸は気温を示しています。曲線は左にいくに従って、つまり気温が下がるに従って下がっていきます。これは"気温が低いと空気中に含むことができる水蒸気量は少ないぞ"ということを言っています。なので、気温が下がって空気中に含むことができる水蒸気の量にキャパオーバーが発生すれば、水滴に変化する奴もいるのです。
-------------すっ飛ばし 終-------------
さて、空気が冷えたら水蒸気から水滴に変化する分があるという話をしましたが、どうしたら空気は冷えるのでしょうか?答えは、
上に行けばいい
です。雲ができる場所には上昇気流と呼ばれる空気が下から上に向かう流れがあります。この上昇気流に乗って空気は上空の方に運ばれます。
上昇気流ができる要因は、低気圧や前線、日差しによって地面が温まり、山の斜面に沿って空気が流れるなどです(話の本線からそれるので、ここでは詳しくは書きません)。
水蒸気を含む空気が上昇気流で上空の方へ行くと気温が下がるので、水蒸気から小さな水滴(雲粒)に変わります。これがたくさん集まると"雲"になるのです。
しかし、一つ問題があります。それは、「水蒸気から変化した水滴のサイズが小さすぎるととすぐに蒸発してしまう」ということです。そこで重要になってくるのはエアロゾルと呼ばれるものです。
エアロゾルとは、気体中に浮遊するすごく小さな液体または固体の粒子のことを指します。具体的に書くと、土壌粒子、海塩粒子、山火事や工場でモノが燃える時の煙などになります。
水蒸気から水滴になる際、そのエアロゾルと呼ばれる小さな粒子を中心に水蒸気が集まれば、ある程度のサイズの大きい水滴になる、つまりすぐに蒸発することもなくなるのです。このエアロゾルの存在は覚えておいてください。
さて、先ほど"空気が上昇気流で上に行けば気温が下がる"と当たり前のように書きました。おそらく皆さんのイメージ通りですしそこまで引っかからなかったと思いますが、"なんで?"と思ってしまった方のために下にすっ飛ばしても構わない解説を挟みました。ただ、完全に物理物理してるので、その心で読んでくださいね。怖いもの見たさに見てみるのもありかもしれません笑。もちろんすっ飛ばしてもらっても構いません。
-------------すっ飛ばし 始-------------
さて、説明する上で抑えておいてもらわないといけないのが熱力学第一法則です。
熱力学第一法則
ΔUは物体(今回は空気)の内部エネルギーの増加分、Qはある物体に与えた熱量、Wは空気が外部にした仕事を表します。内部エネルギーとは「空気を構成する原子や分子が持つエネルギー」くらいに思っておいてもらえたらです。さらに詳しく知りたい方はぜひ高校生で習う化学や物理を勉強してもらえるとです。この式は、「気体が持つエネルギーは、熱が入ってきたら増加し、気体が外部に仕事をしたら減少する」ということを表しています。
そして今回考えている"空気が上昇する"というのは断熱変化なのでQ=0です。よって、下記のようにQは消します。断熱変化とは"外部と熱の出入りがありません"ということです。
そして、下のように書き換えます。書き換えられるのです。
nはモル質量(1molは原子や分子が6.0×10^23個、缶ビール12本で1ダースみたいなノリ)、Cvは定積モル比熱(要は定数)、ΔTは温度(気温)変化、Pは圧力、ΔVは体積変化を表します。
さて、本題。空気が上昇すると、気圧が下がります。気圧は空気の重さみたいなもんで、上空に行くほど空気も薄くなるので、気圧も下がるというわけです。気圧が下がると、上昇していた空気は膨張します。膨張するということはΔVが大きくなるということです。しかし、右辺はマイナスがついているので、ΔVが増加するならΔTは減少します(中1で習った一次関数"y=−x"のグラフを思い描いてもらえればイメージしやすいかもしれません、xが増加するとyは減少する)。
というわけで、空気が上昇すると気温が下がります。気象の世界は少し突っ込み始めると物理や数学の世界になってきます。その一端を感じてもらえたら書いた甲斐があります。
-------------すっ飛ばし 終-------------
<雲のでき方 〜水滴が凍るまで〜>
ここまで、「空気が上昇して気温が下がることで空気に含まれていた水蒸気がエアロゾルを中心にして小さな水滴を形成して雲になる」というところまで説明しました。しかし、一番説明したい雪やあられは固体、今はまだ気体から液体になるところまでしか説明していません。
というわけで次は小さな水滴が凍るまでの話をします。
と言っても、「空の上に行けば気温が下がるんだから気温が0℃より下になれば凍るのでは?」と思われるかもしれませんが、そうは問屋が卸さない。そう、気温が0℃を下回っても凍らないこともある。そういう状態を"過冷却"と呼びます。
この過冷却の水滴は−40℃〜0℃の間に存在します。−40℃にもなって凍らないものもあるので、結構"凍る"というのは大変な作業ですね。
しかし、そんな過冷却の水滴も少し刺激を加えるとすぐに凍ります。小さな水滴が凍ったものを"氷晶"と呼びます。過冷却の水滴から氷晶になる変化には、下のような4つの変化の仕方があります。
1. 過冷却の水滴が自発的に凍る
2. 過冷却な水滴と微粒子が衝突、その刺激で凍結
3. 過冷却の水滴内の微粒子がきっかけで凍結
4. 微粒子に水蒸気が凍りつく
1番目は一番イメージ通りで「ほっといたら凍る」ということです。2〜4番目は先ほどエアロゾルというワードを出したと思いますが、それに関係します。先ほどは水蒸気から小さな水滴になる時にエアロゾルは大事ですよと解説しましたが、小さな水滴が凍るという際にもエアロゾルは大事だったのです。
目には見えないくらいの小さな粒子を中心にして水滴が作られて、集まって雲が出来て、それによって雨がもたらされて…。こうした話をすると、気象はミクロな話とマクロな話がかなり連動している分野ということもわかっていただけるかなぁと思ったり。
話が逸れました。そんな氷晶も水滴から凍るということで増えていきますが、それ以外でも増えることが出来ます。それが"氷晶の自己増殖作用"と呼ばれるものです。
1. サイズが大きめの過冷却の水滴が凍結する時に破片が飛び散ることがあり、それが氷晶核となって新しい氷晶ができる
2. 落下中などの氷晶の一部が壊れて破片が飛び散り、それが氷晶核となって新たな氷晶が出来る。
先ほどエアロゾルが過冷却の水滴が凍るのに大事という話もしましたが、氷晶自身もその一役を担えるということです。複雑な話です。
そして、そういう風に出来た氷晶に周りの水蒸気が直接凍りついて成長したものが、雪の結晶、つまり雪になります。
あー、長かった。長いよ!
とみなさん思っていると思います。書いている自分自身もそう思ってます。ここまで書くのにかれこれ10日間以上費やしています(もちろん断続的にですが)。間違いがないかとかを色々チェックしてたらこんなに時間がかかっていました…。
しかし、本題は「雪とあられの違い」です。そう、まだあられが出てきていません。というわけで、もう少しお付き合いくださいませ。
<あられのでき方>
今までは、「地面付近にあった空気に含まれた水蒸気が上昇気流で空の上の方に行って、エアロゾルが中心に小さな水滴が出来て、さらに凍って氷晶が出来る」という、地面→上空という流れでした。
あられが出来るのは、上記した流れでできた氷晶が上空から地面に行く(落ちる)際に出来ます。
雲の中では上昇流があるので、軽い氷晶は落ちることもなくふわふわ漂っていますが、ある一定のサイズまで成長すると上昇流では氷晶の重さを支えきれず、落下し始めます。
(2019年度積雪観測&雪結晶撮影講習会の資料を参照してkeynoteで作成)
雲の上の方にある氷晶が過冷却の水滴が多い場所に突入すると、氷晶の周りに過冷却の水滴がくっついて凍結して大きくなっていきます。これが回転しながら落下して丸くなって地面に達したものが"あられ"というわけです。
ちなみに、あられは直径が5mm未満のものを指します。5mm以上のものであれば"ひょう"と呼びます。ひょうはあられと同様に氷晶が落ちて過冷却の水滴がくっつきますが、あられと違ってひょうを降らせる雲の中に強い上昇流があることが多く、落ちてきたものが強い上昇流によって上空に戻されることで過冷却の水滴がさらにくっつくことで大きくなることで出来ます。
<まとめ:雪とあられは全然別物でした>
長い長いnoteにお付き合いありがとうございました。
雪とあられについて違うものだということが分かっていただけたかと思います。何より自分が勉強になりました。辞書で調べた"氷の粒"と"氷の結晶"と言うと分かるようであんまりちゃんと具体的なイメージの違いが浮かばなかったですが、こうして見てみると別物ということが具体的にイメージできました。
あと、"専門のことを書くのは難しいなぁ"というのが今回分かったもう一つのことです。このnoteで書いたことは業界では基本的なことも多いのですが、いざ書きだそうとすると"これってまちがいないよな?"とか"本当にこれでいんだろうか?"などと疑心暗鬼になり、とても些細なところはもちろん、超基本的なことでさえ調べ直しを行っていました。"間違いがないようにしなければならない"というプレッシャーが思ってた以上に感じました。書いたことで、勉強することの重要性がより身にしみてわかりました。
今回は空気が上昇して氷晶が形成されて雪またはあられが降る一連の過程に関して紹介しました。色々HPを見て回りましたが、意外にこの一連の過程がまとめて紹介されているものがないなぁと思ったので、そういった意味でもこのnoteを書いた甲斐があるなぁという自己満足感を得ました笑。
これで、やっと新潟・山形の旅に戻ります。まだ旅の内容的には講習会の話しかしていません。次回は講習会以外で長岡にいた時にやっていたことの話をしたいと思います。
今回は長かったですが、次からは平常運転に戻るのでそこまで長くないと思います笑。また読んでもらえると嬉しいです!ではまた。
<おまけの話 〜雪の結晶にはいろんな形がある〜>
雪とあられのでき方は書き終わりましたが、折角なので「雪の結晶の形がなぜ異なるのか?」ということについて、最後に軽く触れます。
雪の結晶は"氷晶に周りの水蒸気が直接凍りついて成長したもの"と先ほど書きました。その凍りつく時の温度と水蒸気の量によって雪の結晶の形が変わります。
(この概念図は講習会資料参照しkeynoteで作成、元はKobayashi, 1961)
上のポンチ絵は小林ダイヤグラムと呼ばれる、雪結晶の種類と温度・水蒸気量の関係を表しているものです。
このように、雪結晶が成長する時の温度や水蒸気といった環境によって異なるものができます。この環境によって、角板状や角柱状のどの面で水分子が拡散して雪結晶が昇華成長するかが異なり起こるそうです。…いきなり最後だけ専門的笑。詳しく知りたい方は調べてみてくださいね。とにかく、「雪の結晶になる時の水蒸気の量とか温度が違うと、雪結晶の形も変わるんだなぁ」と思ってもらえればいいかなと思います。
そういうわけで地上に落ちた雪結晶の形を見れば、その雪結晶が成長した気象の環境場が知ることが可能になります。観測網が整備されてきたとは言え、空の上の状態を知る手段は限られているので、雪結晶は貴重なものと言えると思います。
色々調べてみると、雪も奥深いんだなぁとしみじみ思う今日この頃です。おまけ話は以上。お付き合いありがとうございました。
<参考文献>
「#関東雪結晶 モチベーション」 荒木健太朗 (Youtube)
コラム 雲・エアロゾルと気候中村晃三
エアロゾルとは(日本エアロゾル学会)
氷晶核 Ice nucleus (aerosolpedia エアロゾルペディア)
断熱変化とポアソンの法則(導出)(理系ラボ)
日本の天気 その多様性とメカニズム 小倉義光
図解入門最新気象学のキホンがよ〜くわかる本[第3版] 岩槻秀明
2019年度積雪観測&雪結晶撮影講習会の資料 (作成者:荒木健太朗さん)
<使用したイラスト>
<新潟・山形の旅>
<大阪・長崎の旅>
大阪に行ってアルティメットをやったらその後3日間筋肉痛になった話