いたばしさとし文学賞2023
長編部門
「オーグメンテッド・スカイ」藤井太洋
藤井太洋のちょっと珍しい青春小説。優等生の高校生たちが国際的なVR大会への参加を通して、広い世界に触れ、鼻っ柱をおられながらも成長していく姿に胸が踊る。
難題に対して安易に結論を出すことをやめた主人公たちが、大会の趣旨から脱して自分たちの多様な声を発信する結末は、いかにも自己形成の最中にある高校生にふさわしく、爽やかだった。
読んでいる途中で何度も自分の青春時代を振り返った。登場人物たちがまるで思い出の中の旧友たちのように感じられ、感傷を覚えつつもとても楽しい時間だった。
短編部門
「走馬灯のセトリは考えといて」柴田勝家
バーチャルアイドルと人工知能による擬似人格を結びつけ、新技術による新たな死の形をうまく表現した。生前の言語データから構成された擬似人格が果たして本人かどうか怪しいのだが、遺族もしらぬ故人の記憶と行動が再現されることで、主人公が魂の存在を噛み締めるくだりは涙を誘う。死者と懐かしく過ごし続けることは太古からの人類の願いである。最新技術のSFとして書きながら、普遍的で主題を提示して見せた作者の慧眼は賞賛に値する。
漫画部門賞
「ぼくらの夜明け」 今井哲也
子供たちと異星人の秘密の友情を通じて、宇宙への旅立ちと親子の絆を描く。子供たちが異星人を宇宙へ帰す冒険は、親子間の深い愛と思いの継承を象徴していたところが泣けた。異星人との出会いが子供たちの成長に影響を与え、世代を超えた絆の大切さを教える。物語は、宇宙の神秘と家族の愛の結びつきを美しく描き出し、深い感動を与える。
映像部門賞
「機動戦士ガンダム、水星の魔女」
「機動戦士ガンダム 彗星の魔女」は計画された戦争経済、地球と宇宙の分断という深刻なテーマを扱う。親子の葛藤を通じて若者の成長と自立を描き、新たな時代への移行を象徴する作品だった。主人公たちの挑戦は、閉塞した世界の中での希望と勇気であり、観る者に深い印象を残す。この物語は、現実の問題にも照らし合わせ考えさせられる要素が多く、感慨深かった。
「ヴィンランド・サガ」
奴隷制や戦争の残酷さを鮮明に描き、絶望からの再生という難しい主題に挑戦した。物語は暴力の連鎖を断ち切るために徹底した非暴力を貫く真の勇気を探求し、主人公の再と、内面的成長を深く描写する。特に、アルネイズの理不尽な死は視聴者に深い感動を与え、恒久平和の建設という壮大な挑戦への決意を示す重要なポイントになる。第二シーズンは暴力の意味と平和への道を探る非常に志の高い壮大な物語だった。
一般部門賞
「chatGPT」 OpenAI
ChatGPTの出現は、人工知能の進化と社会への影響を象徴する出来事だった。情報検索、教育、創作など多岐にわたる分野での可能性を拡げ、人と機械のコミュニケーションの新たな形を提示した。ChatGPTはユーザーとの対話を通じて独自の知識と応答能力を示し、日常生活から専門的な業務まで多様な支援を提供する。その意義は、AIの社会統合と、未来の技術発展における新たな地平を開いた。
キャラクター賞
ラクグとミクグ 「金星の蟲」酉島伝法
宮沢賢治の童話に登場する異形でかつ可愛らしいキャラクターを連想した。現代版クラムボン。
レディ・プロスペラ 「機動戦士ガンダム、水星の魔女」
悪いお母さん。強かなお母さん。腹黒なお母さん。歪んだ愛情に染まったお母さん。理不尽な人生に挫けず挑戦しつづけたお母さん。
人物賞
松本零士
幼少のころより多くの作品に触れさせていただき、とても有意義な時間を過ごすことができました。特に宇宙戦艦ヤマトは私の人格形成に大きく影響しました。 どうか安らかにお眠り下さい。 本当にありがとうございました。
豊田有恒
日本SF界の重鎮として広く尊敬されている作家。緻密な科学的根拠に基づきながらも、人間性や社会的問題を深く掘り下げた。豊田の作品は、SF文学の可能性を広げ、後世の作家に大きな影響を与えた。